atlas

 アトラスのチームに勢いがつき始めていた。この兆候はビルシュタインズに焦りを生んだ。ビルシュタインズのリリィ・ゼクセリアはこのときリスクコントロールに取り組み、組織としてあらかじめ作成していたリスク登録簿――プロジェクトのリスクを記入して管理する帳簿の修正に着手していた。
 神に反旗を翻す復元者が、アトラスのチームに合流していくことを防がなければ、いずれパワーバランスが崩れることをリリィは見越していた。そして彼女は、神に反旗を翻す人々を洗い出し、どの組織に対処するかという優先度をつけることに注力した。このとき彼女は、反旗を翻す人々の戦力と数を基準にして、優先度をつけていった。結果として彼女が最優先で対処すべきと考えたのは、忍びの森にすまう忍び達であった。
 後々に振り返れば、リリィのこの選択は誤っていたと言えるかもしれない。この時点で、戦力や数ではなくリーダーシップと勢いに着目し、最優先でアトラスのチームへ対処していれば、アトラスのチームを消滅させることが出来ただろう。言うなれば彼女の選択によって、歴史は、変わった。

 
 ――忍びの森。
 ビルシュタインズの動きを察知した第102代目ハットリハンゾウは、森に棲む忍びを集め、彼らへと自分の意図を語った。
「皆よ、ビルシュタインズは今、我々の討伐のため、この森に向かっている。戦いに応じれば、我々は歴史の表舞台に立つことになるだろう。世界は忍びの存在を認識し、永久に闇に還ることは出来ない。しかしそれは、忍びの在り方ではない。私は102代続いた忍びの長として、これまで築かれてきた忍びの論理に従うことを選ぼう。
 皆よ。私はここに忍びの解散を命ずる。忍びは表舞台には立たぬまま、ただ闇に消えよう。ビルシュタインズにインドラの裁きがあらんことを」
 忍び達は、ハットリハンゾウの言葉を胸に刻むように黙り込んだ

「長。拙者は納得できませぬ」
 若き忍びエッジは、ハットリハンゾウへ意見を述べた。
「この時代の変わり目においては、ビルシュタインを暗殺することが忍びの責務ではありませぬか」
「エッジよ。時代の変わり目だからこそ、私は忍びを解散させることを選んだのだ。お前も自由に生きればよい。アイン・スタンスラインの時代に実現できなかったことを、今こそ果たすときだ」
 ハットリハンゾウはそれだけを言うと霞のように消えた。
 エッジはこのとき、ハットリハンゾウと自分の価値観が食い違っていることを感じた。エッジは、忍びの誇りを『表舞台に立たないこと』ではなく、『裏舞台を制すること』と考えていた。
 誰もが行きたい道を行けば良いとは、確かに素晴らしいスローガンだ。しかし全ての人々が、自由奔放に生きていては世界が成り立たない。誰かの影となり、闇を制していくものもいなければ、社会は統率できないはずだ。裏舞台を制するという忍びの誇りを、ハットリハンゾウは忘れてしまった。ハットリハンゾウについていく多くの忍び達も。アインという麻薬に囚われたのだ。エッジはそう感じた。彼は、誰よりも早く忍びの森を出た。自分が最後の1人になろうとも、忍びの忍びたる誇りを継承し続けるのだと想いを胸に留めて。

 結果的にこれがエッジの生死を分けた。忍びの森を出てすぐ、彼は故郷が赤く燃えていることを確認した。ビルシュタインズは忍びと直接向かい合うことを避け、全てを燃やし、敵対勢力を消し去るという安直な策をとったのだ。
『この程度の策、忍びが察知できぬものではござらぬ。忍びの森は無くなっても、忍びは消えぬ。ビルシュタインは、忍びを世界へ解き放っただけだ』
 エッジは心中でつぶやき、女子供が逃げ遅れぬことを、インドラへ祈った。

 火災は7日間続き、7日目にどしゃ降りの雨によって消化された。焼け落ちた森を見ながら、エッジは長き忍びの歴史を改めて思い返した。そこへ駆けつけたのはアトラスの率いるチームだ。エッジはアトラスの前に跪き、アトラスの影となり、世界の変革を影から支える役割を担うことを誓った。
 そしてエッジは暗躍する。暗躍においては、アトラスとの相談や報告は行われなかった。エッジの所業はアトラスの伺い知れぬものだった。しかしアトラスは、自らの思惑の外にいるエッジの行動を予測し、方向付けし、使いこなした。アトラスは闇を制しながらも公正で誠実な存在であり続けることができた。
 潔白を維持するリーダーのもとに、多くの復元者達が集まっていった。 





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ←いまここ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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