贖罪の地では、復元者と人間の紛争が継続していた。日々戦闘があるわけではないが、贖罪の地は復元者エリアと人間エリアに分断され、人々の間には緊張感が漂っている。
 そういった大きな流れの中で、元ウラノスの人々も贖罪の地を平定しようと努力を続けていた。彼らは復元者エリアの片隅にいて、少しずつ周囲の人の信頼を得て、発言権を強めている。
 これらの集団の中に、元レイドサイクロンのアンドレイアとチャムもいた。
 アンドレイアは右手を失い、チャムは左目を失いながらもウラノスのための戦いに参加していた。彼らはクラリスの率いる新生レイドサイクロンの活躍を伝え聞いていた。だが彼らは今のレイドサイクロンに参加することは考えていなかった。
「姫は今の俺達を見たら落胆するだろうな」
 自分の身体の不甲斐なさを吐露することが、アンドレイアの癖となっていた。

 彼らの目に白と黒の勾玉が描かれた太極天の旗が見えたのは午後のことだ。
 アンドレイアとチャムは太極天がクラリスに行った仕打ちを思い出し、彼らの旗が何故贖罪の地にあるのかを想像した。そして現在のレイドサイクロンの勢いを削ぐため、クラリス・レイヤーを『私利私欲のために動く独裁者』に見せかけるための罠だということを見抜いた。
「タイナ。どこまでも外道のものだな」
 アンドレイアは唇を噛んだ。
「チャム。すぐにレイドサイクロンに伝令を出し、助けはいらぬことを伝えよう。我々の使命は、姫の手を煩わせずに、この贖罪の地を守ることだ。この土地が、姫の夢を削ぐ道具となってはならない」
 アンドレイアとチャムは直ぐに行動を起こし、レイドサイクロンに伝令を送った。また、贖罪の地の復元者へ声をかけ、太極天がウラノスの聖地を破壊することを目的にしていると伝えた。復元者たちもにわかに騒ぎ始めたため、アンドレイアは復元者のリーダーに、贖罪の地の覇権を巡って敵対していた人間たちに対しても声をかけ、休戦協定を結んで太極天と戦ってはどうかと提案をした。
 この提案は受け入れられ、復元者のリーダーは直ちに人間の元へ伝令を送る。人間側でも太極天に対する敵意が芽生え、分断されていた2つの勢力は共闘へと向かい始めた。
 第3の敵 太極天の出現が、贖罪の地を愛おしむ人々の結束につながった。

 太極天が贖罪の地に到着する頃、人々は戦闘態勢を整えていた。アンドレイアやチャムも剣と銃を持ち、太極天との戦いに参加していく。
 当初贖罪の地の人々は、高い士気に裏打ちされた勢いで太極天を圧倒したが、体力の限界と共に、本来の彼我兵力差が影響力を増大し、太極天の軍勢が圧倒的な優位を築き始める。
 特に大きいのは、巨大な斧を振り回し、笑いながら人を切る豪傑クリフの存在だ。
「タイナ―!こいつら雑魚ばかりじゃねえか!骨のあるやつはいねえのかあ!」
 太極天はクリフを戦闘に、贖罪の地を蹂躙し始めた。クリフは、群衆を斧の一閃で弾き飛ばすと、左手ひとつで剣を振るうアンドレイアを押しのけ、その美しい顔に斧の刃を当てた。
「ほう。お前はあのときの。そうか、右手をなくしたか、残念だなあ?」
 クリフはアンドレイアを地に這わせるまで、彼と面識があることを思い出さなかった。クリフにとってアンドレイアは気をかけるような存在ではないからだ。クリフは口元に薄ら笑いを浮かべると、アンドレイアの右手だった部分を踏みつけた。
「立ち上がってみな? このカタワ」
「外道が」

 龍が空を舞ったのは、その時だった。
 アンドレイアは、空中からこちらに近づいてくる龍の背中に見知った顔を見つけて、眉尻を下げた。
 高度を下げた龍の背中より、青髪の男が剣を煌めかせて落ちてくる。重力によって加速されたエンドラル・パルスの剣が、クリフの左肩を貫いた。
「があ!」
 クリフの左肩から血しぶきがあがり、アンドレイアの頬に赤い斑点をつけた。
「これでお前もカタワだな。この外道」
 アンドレイアは口角をあげると、左手に持った剣でクリフの心臓をついた。
 口から血を吐いて倒れるクリフを横目に、エンドラルとアンドレイアは相対する。その後ろから現れたのはクラリス・レイヤーだった。アンドレイアは右膝を付き、右胸に左手の拳を当てて敬礼をし、それから頬を緩めた。
「まったく。なぜ来てしまったのですか、あなたは」
「アンドレイア」
 クラリスは彼の名前だけを呼ぶと、傍にしゃがみこんで彼にハグをした。
 ハグが終わると、アンドレイアは恐る恐る彼女の目を覗く。彼女は、アンドレイアに右手があった頃と何ら変わらない暖かさで彼を見ていた。
「姫。私は本当に、愚かな部下です」
 アンドレイアの涙が、贖罪の地を濡らした。 

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