クラリスは勇気を持ってウラノスの集落での演説に臨む。
 彼女はウラノスの観衆の前で、自分がウラノスの長レイアス・プロミネンスの娘であることを告げた。ウラノスの人々は息を呑み、クラリスの声に耳を傾けていく。
 彼女はネプチューンの集落、オイディプスの集落での演説において、一味を意味する『クラン』という言葉を使って、人々にルクシオン再興のために力を貸してほしいと伝えた。
 『クラン』という言葉をクラリスに使うよう勧めたのはファリスだ。
 これから争いへ向かう集まりにとって、集合体の名は傭兵団、レギオンといった表現でも良かったはずだ。だがファリスは、『クラン』という言葉を大事にした。その理由をクラリスはずっと考えていた。
 そしてクラリスは、ネプチューンの集落やオイディプスの集落での演説を経て、ファリスが集合体に込めた意味を自分なりに咀嚼することができた。

「いまのルクシオンは、様々な対立関係に満ちています。人間対復元者や、ウラノス対ネプチューンだけじゃない。男性対女性、若者対年配の方まで。およそ全ての人が、何らかの対立関係に組み込まれています。
 私自身も、レイドサイクロンのリーダーとして、多くの対立を経験しました。人間の集団や、ある集落の男性、同じウラノス出身のレイドサイクロンのスタッフとだって意見が対立しました。
 人が交わり生きていく限り、対立は起こるのでしょう。けれど小さな対立に囚われて、大きな目的を見失わないようにしなければいけません。ウラノスはルクシオンという村の中の1つの家です。同様にオイディプスやネプチューン、ポセイドンも家なのです。
 私は、『強固な村』であるクランを築くことが重要だと考えています。家どうしで争い、村の力が弱まれば、サイドランドや神の軍勢といった異界の使徒につけ入るすきを与えます。ルクシオンという強固な村があってこそ、ウラノスという家の発展があるということを忘れてはいけません。
 いくつもの部族を多様性と捉えるならば、サイドランドやオルヴェンスワンまで村に含めればいいと思われるかもしれません。けれど思い出してほしいのは、『いくつもの部族が共存できる場』がルクシオンの国体だということです。同じ歴史を共有していない人々はやはり他人で、仲間にはなりえない。だから。
 私はルクシオンというクランの中での『和』を望みます。
 どうか、力を貸してください」

 もしかしたらウラノスの人々がクラリスに求めたものとは、違ったかもしれない。
 ウラノスの長の娘ならば、ウラノスのことを第一に考えるべき、という声があがってもおかしくなかった。
 けれど、もしそういった声が上がっても、クラリスは自分の考えを曲げるつもりはなかった。彼女自身の経験した、大きな目的を見失い小さな対立を起こしてしまった過去が、『クラン』をつくることの根拠になっていたからだ。
 自分の行動が何に端を発しているかが明確であれば、他人の意見によって自分の言葉を曲げる必要はなかった。仮に違う意見を受け取っても、それは経験してきたバックグラウンドが違うと考えればよいだけで、自分を否定されたと考える必要はない。ただ、現在見えている課題へ、複数の意見を踏まえた対応策を取ればいいだけだ。
 そう考えることのできたクラリスは、動かない太陽のような存在となった。結果として、誰もがクラリスの言葉を受け止め、『クラン』に参加することを決めた。

 演説を終えたクラリスへ、エンドラルが声をかける。
「クランの中での『和』、か。確立した『個』を目指したあの人と真逆だ。だがそれが君の選んだ道ならばきっと」
 エンドラルの脳裏には、自分たちを家族のように愛してくれた男性の顔が浮かぶ。
「あの人も嬉しがって笑うだろう」
「ありがとう」
 クラリスは太陽のような笑顔を浮かべた。

 クラリスとパイルシュレッドの率いるクランは、ルクシオンの中で次第に勢力を強めていく。ある場所では解放軍ともてはやされ、ある場所では友人たちと歓迎された。
 クラリスの作り出した新生レイドサイクロンは、ファリスの思い描くクランを体現していた。血のつながりを指すリネージではなく、共通認識を持つ集団であるクランとして、レイドサイクロンは存在している。クラリスの大らかさが組織の色にもなっているのだろう。組織には参加するのも自由、別れるのも自由という気風があり、誰もが気軽に参加することができた。

 この状況を好ましく思わなかったのは、太極天であり、ネプチューンやジュピターの本体だった。中央に大きな権力を集中させた官僚組織では、枝葉の組織の反乱を極度に恐れる。彼らはレイドサイクロンの結束を破壊するための策を練った。
 そして彼らは、ウラノスの聖地、贖罪の地の破壊という悪行を思いつく。クラリスが贖罪の地を守るために動けば、ウラノスはレイドサイクロンを私物化したと批判できるだろう。そうすれば各部族は再び分断されるはずだと、彼らは考えた。

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