エンドラルとクラリスの間に割り込んできたのはファリス・レイリーンだ。
「ふたりとも。準備を進めてほしいんだけど」
 ファリスはジト目をして、自動車から取り出した箱を抱えている。
「悪い。箱は俺が持っていくよ」
 エンドラルはファリスの箱を受け取ると、目的地であるネプチューンの集落の中心へ足を踏み入れていった。パイルシュレッドで取引していたネプチューンの人々へ、クラリスの演説を伝える手はずだ。運んできた物資は、演説を聞いてくれた人への手土産となる。
 ファリスはクラリスにこの取組の意義を説いた。
「これからクラリスさんには、ネプチューンの人々へ、ルクシオンを救うために力を貸してほしいことを伝えていただきます。部族の壁を超えて、ルクシオンを取り返すための『クラン』を創りましょう」
 ファリスはクラリスの顔を下からじっと見上げた。
「クラリスさん、表情が硬いんだけど? 話す内容は、私がクラリスさんに伝えたことを、そのままネプチューンの皆さんに伝えていただければ問題ないんだから。それよりも、深刻な話が終わったら、笑顔で終わりましょう。クラリスさんが笑顔でいれば、誰だって応援したくなるはずです。クラリスさんならできます! できる!」
 ファリスは握りこぶしをつくって言い、にっこりと笑ってクラリスの胸を叩いた。
〈しつこすぎず、背中を押してくれる。リーダーの才能だ〉
 クラリスはファリスの言葉を胸に留め、演説へ向かった。

 クラリスの言葉がネプチューンの人々に届いたかはわからない。しかし彼女の演説が終わる途端、ネプチューンの人々は口々に、ルクシオンを取り返すために協力したいと述べた。
〈思ったより、上手くいったのかな〉
 クラリスの想いを強化するように、ファリスが声をかけた。
「クラリスさん、やっぱり私の見込んだ通り。クラリスさんの柔らかい顔立ちは素敵です。強い意志を表明する姿はカッコ良いです。ルクシオンの旗印はクラリスさんしかいないんだけどっ」
 クラリスはまだ、ファリスの言葉をそのまま受け取ることはできなかった。クラリスはファリスへ愛想笑いを浮かべて、その場を後にする。彼女の異変に気づいたのはエンドラルだけだ。
「クラリス。迷っているか」
 エンドラルは古い友人に話すように、肩肘をはらず言った。
「そうかも。自分の立ち位置が確立できていないから、かしら。ルクシオンのために戦う自分は、ウラノスのために戦っていた自分と矛盾しているんじゃないかって。ウラノスの人たちは、私を認めてくれるかって不安なの」
「どうだろうな」
 エンドラルは右とも左とも言わなかった。
「自分の人生は、自分で決めるべきだ。まわりの声を過剰に気にすることはない」
〈エンドラルは、優しいようで厳しいな〉
 結局自分のことは、自分で決めなければならないのだろう。

 夜が明けた。ファリスの提案で、次はオイディプスの集落で演説を行うこととなった。クラリスはファリスへ、オイディプスの男たちに襲われそうになったことを話していない。しかしクラリスはオイディプスの男たちから受けた恐怖を未だ覚えている。
〈これはファリスさんの仕掛けた踏み絵だ〉
 クラリスは『自分の中に創りだした架空のオイディプス男性』に対する恐怖と向き合うことを強いられていた。もちろん次に向かうオイディプスの集落は、クラリスを襲った男たちの居た集落ではない。それでもクラリスは、オイディプスの集落にいくと恐ろしい目に合うんじゃないかと考えてしまう。それは、経験が創り出した幻だ。
 クラリスはオイディプスの集落に行くまでのわずかな間に、幻と向き合い、どう取り組むかを決意することになった。
 彼女はすくむ肩を抱えながら、想う。
〈震えながらでも、向き合おう〉

 演説するクラリスは、ネプチューンの集落で演説したときより、自信に溢れて見えた。オイディプスの集落では、クラリスが太極天の指示に反し、レバノンの南部にオイディプスの村落を救ってくれたことを感謝していた。彼女は自分の創りだした恐怖が、妄想の産物なのだと思い知らされた。

 クラリスとパイルシュレッドは、ネプチューンの集落、オイディプスの集落での演説を成功させ、ルクシオン再興のための『クラン』を構築し始めていた。
 ファリスは続いて、ウラノスの集落での演説を提案した。これもクラリスにとっては踏み絵のようなものだ。ルクシオンのために戦うことは、ウラノスの聖地『贖罪の地』奪還の優先度を下げさせ、ウラノスの人たちに恨まれる可能性もあるからだ。
 しかしクラシスはもう、ウラノスの人に恨まれることを怖がってはいなかった。
〈パイルシュレッドは、私に期待してくれる。誰かに認められている自分は、少しくらい認めてもいいかって思う。それからかな、嫌われることも平気になったのは〉

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