第11項 泣き落とし

〈覚悟……。私には〉
 クラリスはファリスの言葉に即答することができなかった。
 クラリスは最初、純粋な気持ちで『ルクシオンのために』レイドサイクロンを立ち上げたはずだった。だが彼女の決意はすでに揺らぎ、アンドレイアやチャムと離ればなれになる前は『ウラノスの聖地を取り返すために』活動を行っていた。
〈どうして、『何のために動くのか』が、ぶれてしまうのだろう〉
 彼女は周囲の言葉に自分を合わせてしまう。
 それが何故なのか、彼女自身もわからない。
〈こんな私じゃ……〉

「クラリスさぁん」
 ファリスは泣きそうな目をして、クラリスの手を握った。
「お願いします。ルクシオンは、もとはひとつの国でしょう。その国の部族同士が闘うなんて、悲しすぎると思いませんか。
 パイルシュレッドは、人間に迫害される復元者を支援する団体として立ち上がりました。でも、当然、『人間』対『復元者』を望んでいるわけじゃない。『オイディプス』対『ネプチューン、ジュピター』も望んでない。『サイドランド』対『ルクシオン』も望んでない。
 私たちは平穏を望んでいるんです。だから戦争の火種を見過ごすことなんて出来ない。だけどルクシオンの火種は、ルクシオンの人たちじゃないと刈り取れないんです。
 クラリスさん、リーダーをやってくれませんか?」
 ファリスは感情的になっていた。先ほどまでの凛とした振る舞いはどこへやら、そのギャップに、クラリスは心をつかまれてしまった。
「ファリスさん、わかりました。上手くやれるかわからないけど、やってみます」
 ファリスは「ありがとう、ひしっ」と言ってクラリスに抱きつく。
 だがこのとき、ファリスはクラリスから見えないところでペロリと舌を出していた。

「じゃあクラリスさん、パイルシュレッドと一緒に活動をしましょう」
 ファリスの提案で、クラリスはパイルシュレッドと共にルクシオン各地を巡教することになった。クラリスはウラノスの民族衣装に身を包み、馬にまたがって先頭を歩く。ファリスとパイルシュレッドのスタッフは自動車に乗り、クラリスの後ろで彼女の活動をサポートする。
〈なんだか、牛飼いみたいだ。私は牛車を引く牛、か〉
 クラリスは自然と自虐的になった。
〈ファリスさんは、私がウラノスの部族の娘だから、私を選んでくれたんだよね〉
 クラリスは自分の血筋以外に価値を見出すことができなかった。自然と表情も暗くなり、うつむきがちになる。

「クラリス、大丈夫か?」
 うつむきがちのクラリスに声をかけたのはエンドラル・パルスだ。彼はバイクに跨り、クラリスの馬の隣を走る。
 エンドラルはアイン・スタンスライン時代、アインの側でアインの人となりを見ていた。それからアインがやったように多くの人々をつなげたいと考え、パイルシュレッドを立ち上げた。つまり彼はパイルシュレッドの初代社長だ。アドヴァーグの一件でパイルシュレッドの業務より自分の都合を優先した結果、今はファリスに社長の座を明け渡している。
「ファリスも心配している。彼女も君に期待しているんだ」
 エンドラルは親指で後ろの自動車を指した。クラリスは、アイン・スタンスライン時代やアドヴァーグの一件で、エンドラルと一緒に行動することがあった。当時のエンドラルは、クラリスからはシャイな少年に見えていたが。
「エンドラル。変わったわね?」
 エンドラルは「そうか?」と首を傾げ、「それよりも目的地に着いた」ことを告げた。先行してバイクを止めたエンドラルは、クラリスの乗る馬の前に立って馬を止めてから、馬から下りるクラリスへ手を差し伸べた。
 クラリスの身体は、また少し震え始めていた。
「ごめんなさい。馬の高さが怖くて。早く降りたかったの」
 クラリスは馬から飛び降りて、エンドラルの反対側を向くと、両肩を抱えて、身体の震えをなんとか止めようと試みた。
〈お願い。止まって〉
 静寂が2人の間を包み、そしてゆっくりと破られた。
 エンドラルはクラリスの肩に手をかけ、震える彼女を無理やり自分の方へ向ける。
「エンドラル!?」
 クラリスはエンドラルの力強さに驚き、彼から目を逸らした。
「ごめんなさい。私、いま男の人が怖くて。震えが止まらないの。でも、エンドラルが怖いわけじゃないから。それだけは信じて」
「クラリス。抱きしめていいか?」
 エンドラルは飾り気なく言う。クラリスは目を丸くして、はにかんだ。
「やっと笑ったな。クラリス。俺はそんなことで君を嫌いにはならないさ」
 エンドラルはクラリスから手を離し、笑う。この笑顔はクラリスに安心を与えた。 

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