屈強な男の腕がクラリスの服に伸びる。
 ひとりが手を出せば、後は雪崩のようだった。後ろからクラリスに抱きつき、胸部に手をやる男が現れたかと思えば、別の男が首元に口づけをしようと顔を近づける。
「やめて! みんな! どうして!」
「クラリス殿。平和な世の中であれば、あなたは第2のリノアン・デュランになれた人物でしょう。ですが今は暴力が支配する戦乱の時代です。この時代において、女は男の欲望を満たすための道具にすぎないのですよ。あなたの助けたオイディプスの男たちによって、その事実をその身体に覚えさせてあげましょう」
 タイナ・ミノウはカカカと笑った。
 悲鳴を上げるクラリスの口が、男の手のひらで塞がれる。いつしか彼女のスパッツが破られ、太ももが顕になっていた。

 そこへ轟音とともに突撃してきたのは、レイドサイクロンの8輪自動車だ。
 アンドレイアが鬼気迫る表情でアクセルを踏み、クラリスを囲む男たちの集団へ、スピードを上げて突っ込んでいく。アンドレイアは見事にクラリスの隣にいる男だけを跳ね飛ばし、8輪自動車のドアを開けて手を伸ばしていたチャムが、クラリスをその場から引き剥がした。アンドレイアはスピードを下げぬまま、180度の旋回を行い、再度オイディプスの男たちを弾き飛ばした。
「隊長、大丈夫アルか?」
 チャムの声かけにも、クラリスは顕になった身体を丸めて、小さく頷くだけだ。特にアンドレイアが手を差し伸べた時、クラリスは小さな身体をブルブルと震わせた。
「アンドレイア、ごめんなさい。身体が、勝手に震えるの」
 彼女は、男性恐怖症を発症していた。アンドレイアは、彼女の震えが脊髄反射に基づくものと理解はしながらも、自分を拒絶されたように感じていた。
「とにかくここを離れるぞ」
 アンドレイアが8輪自動車を太極天の砦の柵へ向け、アクセルを全開にした。
 タイナ・ミノウは8輪自動車がスピードに乗るまでの間に、陰陽道の詠唱を終え、式神を8輪自動車へ貼り付けることへ成功した。赤い閃光がタイナの指先まで伸びている。
「オイディプスの男たちよ。あの女を逃がすな。地の果てまでも追いかけろ。もし失敗すれば、あなた達の家族も故郷も、全て人間が討ち滅ぼすと思え」
 タイナ・ミノウは強い口調で言った。

 オイディプスの男たちは太極天の用意した黒髪の馬を駆り、クラリス達を追った。馬は、この世のものとは思えない黒い体躯に黒い瞳を持ち、息も切らさず、水も食事も取らずに3日3晩動き続けることが出来た。
 追いかけて来る以上、アンドレイアも運転を休むことが出来ない。彼は3日3晩、馬を振り払おうと困難な道を行ったり、気を使う崖を走ったりしたが、一向に馬を振り払える気配がない。追跡はルクシオンからヴィヴァリンに入ってもまだ続いた。疲労困憊となった彼はついに、運転を誤り崖から自動車を転落させてしまう。
 崖の下には、ヴィヴァリンとルクシオンの国境にある湖があった。墜落の衝撃で車は破損し、アンドレイア、チャム、クラリスの3人は湖に放り出されてしまった。追手の男たちは、3人にとどめを刺すために太極天から預かっていた爆薬を湖に放り込む。爆薬は水中で爆発し、衝撃波が巨大な水しぶきをつくった。

 太極天の砦へ戻ったオイディプスの男たちは、意気揚々とタイナへ戦況を報告した。だが、後方より現れたクリフを見て、男たちは戦慄した。クリフの手元には十字架と巨大な釘が握られており、獲物を見るライオンのように、鋭い眼光で男たちを見ていたからだ。クリフの隣には、ネプチューンとジュピターの幹部らも控えている。
「残念だったなあ、お前たちの運命は既に決まっていた。オイディプスに生まれたその日から」
 クリフは言うと、部下の陰陽師をつかって男たちを捕らえさせた。
 男たちはオイディプスの村落で、ネプチューンとジュピターの幹部が主導するままに十字架へかけられ、死んだ。この出来事はネプチューン、ジュピター連合と、オイディプスの溝を決定的にした。

 オイディプスの人々は、ネプチューンが大事にしている湖に糞尿を投げ入れ、穢す。
 ネプチューン、ジュピター連合はオイディプスの聖地に火を放つ。

 太極天はネプチューン、ジュピター連合への支援を行いながら、ネプチューンとジュピターの間でもどちらが成果を上げるか——どちらがオイディプスに残虐な仕打ちを行えるかを競わせ、2つの勢力の倫理観を破壊していく。
 権力者による報奨は恐ろしい効用をもたらす。残虐な行為に組織が報奨を与えれば、残虐な行為は次第にエスカレートしていく。太極天は報奨を利用して、太極天の思い通りの組織にネプチューンとジュピターを作り変えていた。
 ネプチューンの幹部からこんな提案を受けた時、タイナは満足そうに頷いた。
「オイディプスの男を去勢し、女は犯し、老人と子供は粛清しましょう。オイディプスの純潔を失わせ、歴史と未来を破壊するのです。そうすれば、いずれは彼らの存在を地図から消すことができるでしょう」

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