『オイディプス』対『ネプチューン、ジュピター連合』の争いが激化する中、太極天とレイドサイクロンの会談の日程はなかなか決定する見通しが立たなかった。
 
 クラリスはあの日、太極天の誘いを断ってしまったことに責任を感じていた。幸運の女神には前髪しかないという言葉もある。
〈私があのとき、決断できていたら違っていたのかな〉
 クラリスは自らの決断力の無さを嘆く。

 そこへ報告書を持って現れたのはアンドレイアとチャムだ。
「姫。太極天はネプチューンとジュピターの競争心を煽りながら事を進めているようです」
 彼の話によれば、太極天はネプチューンとジュピターの部族の長と会合を行い、オイディプス討伐で大きな功績を上げた方のグループと、永久同盟を結ぶと話したらしい。同盟を結んだグループの聖地を先に取り戻すことを約束したとも聞いている。
 大きな功績とは、必ずしも多数の敵兵を倒すことを意味してはいない。例えば敵部族の長の首を討てば、最大の功績となるだろう。つまり小さなグループにもチャンスがあるということだ。

「タイナ・ミノウは策士アルナ。ネプチューンもジュピターも人間の後ろ盾はほしいから、必死で戦果をあげようと頑張るアルよ」
 チャムは肩を落とした。彼女の態度は、レイドサイクロンもこのレースに参加すべきだったと暗に伝えている。
「そうね。私達だって人間の後ろ盾はほしいもの」
 クラリスは言いながら、どんな条件でもいいからこのレースに参加できないかと思いを巡らせていった。
「例えば、オイディプスの長を私達が討伐して、その足で太極天に交渉を持ちかけてはどうかしら」
「姫。約束のない余計な成果は出さないほうがいいでしょう。人間たちがその成果に対して正当な報酬を支払う保証はありません。まずは約束を取り付けることです」
 アンドレイアの提言を受けて、クラリスも頷く。
〈約束を取り付けることが肝心だ。太極天と約束を〉

 この頃、クラリスらの焦りを見透かしたかのように、太極天から手紙が届いた。
『レバノンの南部にオイディプスの村落がある。ここを制圧してもらえないか。住人はオイディプスの中でも、比較的復元者に友好的な人間の集団だが、彼らはオイディプスだ。もし彼らを討ってもらえれば、太極天はレイドサイクロンと提携を結ぶ用意がある。ともに贖罪の地を取り戻そう。タイナ・ミノウ』
 この手紙を受け取ったアンドレイアはほっと胸をなでおろした。
「姫。これで私達も動くことが出来ます。きちんと文面で約束をしてくれるあたり、太極天も大人でしたね」
「これで私達もネプチューンやジュピターと競争できるアルナ。腕が鳴るアル」
 レイドサイクロンの中に安堵が広がる。このまま太極天の言うように、オイディプスの村落を討ち滅ぼし、約束を果たせば事は上手く進むのだろうか。
〈……ううん。違う気がする〉
 クラリスは、レイドサイクロンの皆が醸し出す同調圧力を打ち破ることを決めた。
 それはチームの一体感を壊すことになるかもしれなかった。それでも彼女は、自分の心を吐露した。
「ねえ、みんな。オイディプスの村落には『復元者に友好的な人間の集団』がいるのよね。それって、太極天と立ち位置は同じなんじゃないかしら。私は、オイディプスの村落を話し合いで味方につけられるんじゃないかって思うの」
「姫、それは甘いと感じます」
 アンドレイアは真剣な眼差しを向ける。レイドサイクロンのメンバーもアンドレイアの意見に賛同しているようだった。クラリスはこの現状に危機感を覚えた。
「みんな。戦わないで勝つことが一番良いのよ。もしかしたら村落の人たちは、オイディプスに反感を抱いているかもしれないでしょう。みんなは納得しないかもしれないけど、私、話してみようと思うの。応援、してくれないかしら」
 クラリスは澄んだ瞳で、20人のメンバーを見回した。
「その美しい目で見つめられたら、いいえとは言えませんね」
 アンドレイアは苦笑し、両手を上げた。

 翌日、クラリスを乗せたレイドサイクロンの巨大な8輪自動車が、オイディプスの村落へ乗り入った。オイディプスの人々は、人間が侵略してきたと想像したのか、武器を構えて自動車のまわりを取り囲んだ。喧騒があたりを包む中、人間の敵意を刺激しないよう茶色のウィッグをつけたクラリスが人々の前に姿を現した。
「待ってください。私たちは同じルクシオン、ウラノスの一団です。敵じゃありません。いまオイディプスは、ネプチューン、ジュピターとの争いに巻き込まれています。こんな村落にまで、争いの炎が迫っています。けれど、皆さんは心から争いたいのでしょうか? 太極天という人間の組織があります。復元者に友好的な方々の集まった組織です。私と一緒に、太極天へ合流しませんか? 争いを、やめましょう」

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