第2項 『人間』と『復元者』

 クラリスが組織目標をブラッシュアップするにあたって、レイドサイクロンの20人のメンバーと深く議論しているのは、今後自分たちがどういったポジションで活動をしていくべきかということだった。
 世界には、『人間』対『復元者』という大きな流れがある。

 ここ、エレメンシア大陸の西の果てに降臨した神の軍勢は、周囲の人間を駆逐しながら復元者の一団を配下に置き、東へと侵攻した。
 それに対抗したのは超越者カリアス・トリーヴァだ。カリアスはエレメンシア大陸西側の時間を止め、マタリカ大陸のデロメア・テクニカを本拠地として、人間に叛逆のための時間を作った。

 しかしカリアスが時間を止めても、神の降臨という出来事がエレメンシア大陸に及ぼした影響は大きく、エレメンシアの人間たちは髪の色で復元者を識別し、虐殺していった。
 カリアス・トリーヴァによれば、人間の髪色は黒、栗色、ブロンド、プラチナブロンドの4 種類しかなく、それ以外の髪色の人型の生き物は、復元者だと言う。
 人間たちは髪の色だけを見て、ヒトを排斥することに決めたのだ。復元者達もそれに抗うため、エレメンシアの西側に集まり、人間への反抗を始めた。そして神が降臨して14年がたった今も、復元者は西に、人間は東に拠点を構え、終わりなき争いを続けている。

 ルクシオンの部族も、この大きな流れに逆らうことはできなかった。
 ルクシオンはもともとウラノス、ネプチューン、ジュピターといった多数の部族が互いのテリトリーを尊重し、共生していた。だが今は、ウラノス、ネプチューン、ジュピターの中でも人間と復元者が分かれ、同じ部族内で殺し合いが続けられている。

 もちろん、いまのルクシオンには無数のチームがあり、復元者に友好的な人間のグループもあれば、人間に友好的な復元者のグループもある。だが大きな流れは、『人間』対『復元者』であり、この戦いに参加するためには『人間』側か『復元者』側にポジションを持たなければならない。
 クラリスもアンドレイアも、この決断の難しさを理解していた。
「姫。この選択がレイドサイクロンの行く末を決めると言えます」
 アンドレイアは手元の分厚い紙の資料を指差した。そこにはレイドサイクロンのメンバーが調査した、『人間』と『復元者』の戦力に関するデータと、戦争の行方に対する考察が記されていた。
〈もしここで私が勝ち目のない陣営を選んでしまったら、レイドサイクロンの皆を暗黒へ導くことになる〉
 クラリスの額に汗が滲む。
 20人のメンバーの命が、27歳の女性の選択にかかっている。彼女は石橋を叩くようにして、一言一言を噛みしめるように発する。
「レイドサイクロンは、復元者に友好的な人間の集団と手を組みましょう。
 いま、ルクシオンの情勢は東側、つまり人間側に優勢となっています。
 カリアス・トリーヴァが神と戦うために始めたプロジェクトレボリューションも佳境を迎えていると聞きます。このままいけば、いずれ人間たちが復元者に勝利し、ルクシオンを統治するでしょう。レイドサイクロンは人間と組むべきです」
 クラリスはそう断言すると、眉を下げ、20人のメンバーを見やった。
「そんな情勢にもかかわらず、私は、髪の色が人間のそれではありません。それゆえにレイドサイクロンは復元者に友好的な人間としか組むことが出来ません。本当の勝ち馬に乗ることができるかは、わかりません」
 クラリスは、自分自身の赤い髪を嫌いになりそうだった。
「姫。顔を上げてください。美しい顔が台無しですよ」
 アンドレイアが銀色の髪をかきあげながら笑う。
「生まれ持った容姿を嘆かねばならないような世界は間違っていると思いませんか。あなたのような美貌を持った女性が、一時の流行に流され、顔を伏せなければならないとしたら、人類にとって多大な損失です。前を向いて、美しい笑顔を見せてください。それが私達の士気を何よりも向上させます」
 アンドレイアの言葉は、クラリスの体温を2℃くらい上げたように思う。
〈この人は、どうしてこんなに優しい言葉をかけてくれるんだろう〉
 クラリスはアンドレイアの優しさに甘えてはいけないと首を振り、笑顔を浮かべて話し、議論をまとめた。『復元者に友好的な人間』のグループを探し、連携に向けて交渉をすすめることが決まる。
 ディスカッション後、クラリスは率先して片付けながら、皆に疑問符を投げかけた。
「みんなは納得してくれたかしら?」
 アンドレイアは周囲の何名かと目配せをした。
「「あなたの選択であれば、私たちは何も異論はありません。リーダーの想いを実現することが、部下たる我々の役目でしょう」」
 野太い声が小屋中に響き、クラリスは思わず笑ってしまった。

 前を向いて、進む。それでもレイドサイクロンの活動は困難の連続となった。

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