メタトロニア・グドヴィンはミシェイルの借り入れていた10億エレンを一括でフレアへ支払った。100万エレンの札束が1000個並ぶ光景に、フレアとミシェイルは驚愕するばかりだ。

メタトロニア・グドヴィンは札束を並べながら、昔話を始めた。彼女はアルネスト・リークラクと結婚する前、エネルギー会社の経営者をしていた。年商200億は下らない大企業で、毎月のように10億エレンを動かし利益を上げていたのだという。ミシェイルは母親がそんな大企業の経営者であることを初めて知った。

それでも10億エレンはメタトロニアにとって全財産も同然だった。ミシェイルは、彼女がカミュに対して「この王宮も売り払わなければならないわね」と呟いたのを聞き逃さなかった。彼女は自分が持てる財産のすべてを使ってミシェイルを助けようとしている。

「どうして、俺にこんなに金をかける」

「まだ言っているの? 今話しかけられると、札束をいくつ並べたか忘れてしまうわ。そちらの女の子が数えるのが大変になるわよ」

メタトロニアは茶化して言う。フレアは必死で机の上に置かれた札束の数を数えていた。

「こいつのことは放っておけばいい。俺は」

あんたのことなど愛していない——と言おうとした。けれどそれを口にすることは、家族の絆を完全に断ち切ってしまうことになりそうで、気が引けた。今にして思えば、自分は本当に母親を愛していなかったのか、それすらも曖昧になっている。

「いや。なあ、母さん。母さんは俺を、生んでよかったと思っているか」

ミシェイルはずっと、聞きたかったことを聞いた。

 

「さあ、どうだろうね。わからない」

メタトロニアの回答はぼんやりとしたものだ。ミシェイルもそれ以上は聞かなかった。目の前に積み上げられていく1000万エレンは、愛か金か——。

***

フレアは100万エレンの札束が1000個あることを確認すると、それを馬車へ積んでいった。

「流石に女の子1人で持っていくのは怖すぎるので、応援を呼びます」

フレアはよくわからない端末を使って仲間を呼ぶ。今回の件について言えば、ゴッズ・ヴァルスの1人儲けだ。少しばかり潤沢に経費を使っても何の問題もない。

 

「しかし気分が悪いな。1億エレンの原資で10億エレン…訴えれば勝てるんじゃないか、ミシェイル」

「いいじゃないかクライアント。俺達には事業が残った。何億エレンでもここから稼いでいけるじゃないか。やり方を間違えて、事業ごと奪われていたと思ったら、冷や汗ものだ」

ミシェイルはあっけらかんと言った。

「ミシェイル、だいぶ自信を取り戻してきたな」

クライアントは安心したように笑う。

 

「ちょっと、2人とも!行くわよ―」

フレアは馬車の上でぶんぶんと手を振っていた。ここ数日の取り立て屋の雰囲気はまるで無い。

「お前、まだ俺達と一緒に行動するつもりか?」

ミシェイルは呆れた。フレアは腰に手を当てて、胸を張る。

「当たり前でしょう? 美少女御者がデザインしないと、ミシェルの服なんて売れないんだから」

「やれやれ。次は17歳の現役ハイスクール生でも連れてこようか」

クライアントはあくびをしながら、フレアの駆る馬車の屋形へ乗り込んだ。

 

「ミシェイル」

赤毛の青年に声をかけたのはメタトロニア・グドヴィン。彼女は透き通った目でミシェイルを見、何かをいいかけて止めた。彼女が手渡したのは1つだけだ。

「これを持っていきなさい」

それは、1万エレン札で折られた薔薇の花束だった。

ミシェイルはその洒落たプレゼントに、心奪われた。

「ありがとう、母さん」

 

自然主義経済社会の中で、愛は形を変えてしまった。人々が恋人に与える指輪や花束やチョコレートは、現代資本主義社会の資本家が売りたい商品だ。我々はいつから商品を愛の形だと認識するようになってしまったのだろうか。やり取りされる金額が、いつから愛情を測るバロメータになったのだろうか。

愛はお互いに寄り添うことだ。物質的ではなく心理的・情緒的な欲求を受け入れてあげることだ。

 

この薔薇には、母親の気持ちがこもっている。

ミシェイルはその花を、人目もはばからず抱きしめていた。

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