第17項 灰被りの少年

「コングラチュレーショーン!コングラチュレーショーン!王子、コン、グラチュレーショーン!!」

フレアは壊れた時計のように大声で叫ぶ。叩き起こされたミシェイルは、ボサボサの髪をいきり立てながら、ドスの利いた声を出した。

「ああ!? 何時だと思ってんだ! このポンコツ!」

「コングラチュレーションです、王子。今日が何の日か覚えていますかー??」

フレアはミシェイルを無視して続ける。

ミシェイルは頭の中で今日が何の日かを考察する。出てきた答えはたった1つだ。

「…忘れるはずがないだろう。ゴッズ・ヴァルスから融資を受けてちょうど1年。この日を忘れたことはない」

「ピンポーン、正解です。今日はあなたの魔法が解ける日なのよ。灰被りの少年」

「ということは、お前が俺の取り立て役だったか」

ミシェイルは頭を掻く。

「1億エレンもの大金だ。監視もなしに貸してくれるとは、正直考えられなかった」「そう。ヴァルス様の融資があってから、すぐに私へ連絡があり、あなた達を見張るよう指示を受けました。これまで一緒に過ごしてきた私は、偽りの姿。どんなことがあってもお金を回収する回収屋、それが私です」

「それにしては随分と楽しんでいたじゃないか。御者としての腕も悪くなかったし、デザイナーとしても抜群に売上を上げてくれた。俺達の経営を上手くいかせるために派遣されたコンサルタントのようだ」

「あなたが早く破産するよう、適当にデザインしたんですけどねえ。世の中ってわかりませんね。私がヒットさせていなければあなたはもっと早く魔法が解けていたのに」

「ふん、やはりな。ふざけたデザインだったわけだ」

ミシェイルは肩をすくめた。そしてフレアへ後ろを見るよう促す。

「だが、商品のデザインなどどうだっていいんだよ。あの商品を売ったのはそこにいる男、クライアントだ」

「マーケティングさえ良ければどんな物だって売れる。驚いたぞミシェイル、フレア。深夜なのに大声を出して。お前たちがプロレスでも始めたのかと思ったじゃないか」

「勝手に始めたのはこいつだ。クライアント、こいつに種明かしをしてやれ」

ミシェイルは意地悪く笑っていた。クライアントもニヤリと笑う。

「ミシェルの商品はな、フレア。こういって売り出されたんだよ。『20歳の美少女御者がデザインした一歩先を行くファッション』とね」

「な」

フレアはあんぐりと口を開けた。

「そ、そんなふうに私を利用したっていうの!?」

「人によっては、『この服を着て私の馬になりなさい』と煽って服を売った人間もいると聞いている。男性客には特に効果的だっただろうな。ミシェルの服の後ろに、美少女御者を思い浮かべて、興奮しながら買った人々もいるだろう」

「な、な、なんて下品な売り方してるの!」

「仕方ないだろう。商品に付加価値をつけて売ることは販売戦略の基本だ。他社の製品よりも安く、質がいいだけでは誰も着目しないよ。美少女御者がデザインしたという謳い文句があるからこそ、ミシェルはここまで注目され、注目された結果商品が良いものだと気づいてもらい、購入してもらえた。君は我々にとっての女神だ」

クライアントからの不意打ちの賛美に、フレアは少し照れているように思えた。

「だけど、あなた達が勝った気でいられるのは今までです」

「これからも勝つさ。利子分1000万、それに加えて元本2000万。今回はそれをお前へ払おう」

ミシェイルは隣の引き出しから、札束の入った鞄を取り出してフレアへ放り投げた。

 

3人の間に沈黙が走る。

「…足りませんね」

「なんだと?」

フレアは感情のない、薄気味悪い笑みを浮かべていた。

「王子、足りないのですよ。ぜんぜん、足りないのですよ! 残念ながら!」

「何を言っている。ゴッズ・ヴァルスとの契約は年利10%だったはずだ。月利10%だと勘違いしているなら、それはお前が間違っている」

「違います、王子。契約書をよく読んでみてください。あなた達は大変な勘違いをしています。違うんですよ! 前提が!」

フレアは引き笑いを始めた。ミシェイルはただならぬ空気を感じ、引き出しから契約書を取り出す。もし、懸念が正しいならば…俺達は。

ミシェイルは契約書を読み、頭の中が白く溶け落ちるような衝撃に見舞われた。

「クライアント、見てみろ」

クライアントは眉間にしわを寄せ、舐めるように見る。

「ゼロだよ」

その文字に気づいた時、クライアントは指先を震えさせていた。

契約書の先頭にはこう書かれている。『甲は乙に1000000000エレンを貸し出す』

「10億、エレンの10%…つまり1億円を払えと、彼女はそう言っているのか」

クライアントは震える手で口元をおさえた。フレアは薄気味悪い笑顔で、

「お母様へ、お金の工面をしていただけるようお願いに参りましょう」と嗤った。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

ピックアップ記事

  1. ルクシオンがまだ、ユタアース〜内側の世界〜に属していた頃の話だ。 このころルクシオンは、住人か…
  2. 59736578-19f0-4460-a22b-36c70aa80895
    プロのイラストレーターの挿絵であなたの作品を一層魅力的にします! プロのシナリオライターがあな…
  3. 59736578-19f0-4460-a22b-36c70aa80895
    こんにちは。 橋本橙佳です。 このエントリでは橋本橙佳が様々なクリエイタ…

Twitter でフォロー

ページ上部へ戻る
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。