第16項 最後の選択

ミシェイルはクライアントの静止を無視し、1人感情の赴くまま、科学産業技術省へ乗り込んでいた。ミシェイルは科学産業技術省の受付で産業推進課の場所を聞くと、産業推進課の居室のドアをぶち破った。

あたりに戦慄が走り、ドアをぶち破った青年へ視線が集まる。

「お前ら、ふざけるなよ!」

ミシェイルは隣の壁を叩いて叫ぶ。

「贅沢税、特別税だ!?俺達の会社にだけ税が課せられる道理がどこにある。メルッショルドのことを考えてビジネスをしているのは、平圧印刷業界も俺達も同じだろう!若者を潰して既得権益を守る。それがこの国のやり方かあああ!」

ミシェイルは近くにあった椅子を蹴り飛ばし、近くの机へ勢い良くぶつけた。

「雑魚じゃ話にならん、フォルスを出せ!」

「フォルス係長は省庁を退職されました…」

近くの事務員が恐る恐る話した言葉に、ミシェイルは目を見開いた。

「フォルスが?どうして?」

「なんでも、贅沢税や特別税を導入することに後ろ向きだったから、だそうです」

ミシェイルはこの時、言いようのない感情を抱いた。この8ヶ月間、ミシェイルの事業は順調に伸びてきた。ここまで順調に売上を伸ばしてこられたのは、今回のような国からの妨害が無かったことも大きい。既得権益層からの批判こそあったものの、それ自体に実害はなく、自由主義経済の中で神の見えざる手に導かれ、利益を積み上げていくことが出来たからだ。

ミシェイルは科学産業技術省のフォルスをずっと敵だと考えていた。しかし本当は、フォルスによってミシェイルは守られていた。フォルスはこの既得権益層の巣窟で、たった1人、孤独に戦っていたのだ。その苦しみは想像もつかない。

「言ってこいよ…、馬鹿野郎」

ミシェイルはそれだけをつぶやくと、産業推進課を後にした。

***

自分の職場へ戻ったミシェイルは開口一番言った。

「クライアント、税金を払わなくていい方法を検討するぞ」

「王子〜脱税ですか?」

フレアが本を読みながら興味なさそうに言う。

「違う。脱税なんてしたら、一層叩かれるだけだろう。合法的に税金を払わなくていい方法を考えるんだ。例えば贅沢税を適用する条件を見直し、ミシェルの服をその条件外へ持っていく。伝統的な織物とのコラボレーション企画なんかはどうだ。それならば既得権益層にもメリットがある。輪転新聞が特別税を逃れる方法だってあるはずだ。プレミアムな記事をもっと盛り込んでブランド化を進め、1部あたり200エレンの税金などちっぽけなものになるくらい、値段を上げることだってできるだろう」

ミシェイルの提案は前向きなものだった。クライアントとフレアは彼の提案を後押しし、検討を進めて1ヶ月後には売上を立て直した。

だが国も追随する。伝統的な織物とのコラボレーション企画に対しては、織物産業へライセンス料を払うよう指示が来たし、プレミアム版の分厚い輪転新聞に対しては、ページ数に応じた累進課税が課せられるよう制度が見直された。

 

どちらも敵を打ち倒すために必死だった。だが一介の企業が国を相手に戦うなど、最初から無理だったのだ。次第に事業は追い込まれ、利益を吐き出していく。

目減りしていく資本金を目にしながら、ミシェイルは3日3晩考え込んだ。そしてたどり着いたのは——全てを解決するたった1つの答えだ。そしてこの答えを導いたのはミシェイルだけではなかった。

 

それは輪転新聞のトップを飾る、出来事。

『デロメア・テクニカの特務機関ファルコンがメルッショルドの北部を占拠』

この記事にはこう書かれている。カリアス・トリーヴァの命を受け、特務機関ファルコンがメルッショルドの北部を武力で制圧した。時代を変えようとする若者を応援することが年長者の役割だとするならば、彼らは立派にその役割を果たした、と言えるだろう。この出来事によって、ミシェイルの会社はデロメア・テクニカの企業となった。よってメルッショルドの法律は適用されない——。

***

『国を捨てる』

それがメルッショルドの王子が導き出した答えだった。この国を愛し、この国を救うために戦ってきた。そんな若者がたどり着いた結論としては、あまりに寂しい。

「だが、それがこの国の意志だ」

そう言ったのは、ファルコンの部隊長としてこの地へ派遣されたフォルス少尉だ。この少尉もメルッショルドの意志によって国を捨て、もっと大きな目的のために働くことを決めた。2人はふっと笑うと、強く握手する。

カリアスの支援を受けたミシェイルは、デロメア・テクニカへの進出を果たし、メルッショルドでの事業を更に拡大した。関税があっても、その売上は落ちていない。

ゴッズ・ヴァルスの融資から1年後、ミシェイルは5億エレンの売上高、5000万エレンの粗利益を挙げていた。全てが上手くいっているように思えたその日。ゴッズ・ヴァルスの融資からちょうど1年が経った深夜0時。寝息を立てるミシェイルの隣で、フレア・アテネが大きな声を出し、叫んだ。

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