ゴッズ・ヴァルスは隣の引き出しを開けると、100万エレンの束を両手いっぱいに取り出して並べる。

「金貸しが金を貸すかどうかは、全て信用に基づいている。定住しているか、定職についているか、家族は健在か、資産はあるか、本人は健康か。過去ローンを組んだことがあるならばそれを滞納せずに支払っているか。全ての情報を総合して融資するかしないかを決める。1000万エレンまでは、内臓を売り払えば届く金額だからとやかくは言いません。だが、それ以上の金額になれば話は別だ」

ゴッズ・ヴァルスは目の前のテーブルに100万エレンの束を100個並べてみせた。

「こちらは約束のものを取り出しました。次はあなたの番です」

ミシェイルはそれらの札束には目もくれず、ゴッズ・ヴァルスを直視する。

「俺がメルッショルドの王族だと証明できればいいのだろう」

ミシェイルは前のめりになると、家族について語り始めた。

「父親はアルネスト・リークラク。アイン・スタンスラインとともに一時代を築いた国王だ。この父親はカリアス・トリーヴァが降臨した後、アイン・スタンスラインを探すためにエレメンシア大陸へ向かい、失踪した。今国政は母親が代理で執り行っている。このことはメルッショルドの王族しか知らないことだ」

ゴッズ・ヴァルスは微動だにしない。ミシェイルは続ける。

「更に言えば、母親はアルネストと結婚する前に離婚している。俺は母親の連れ子だ。2人の実の息子であるカミュとは3歳の差がある。これもメルッショルドの人々は知らない事実のはずだ」

ミシェイルの話を聞いたゴッズ・ヴァルスは、ゆったりと口を開き始めた。

「あまりに突飛なゴシップネタで、私には扱いきれませんね」

仮面の男は目の前の札束をパラパラとめくる。

「ミシェイル王子、私が言いたいのはこういうことです。あなたが返済をできなくなったとき、リークラク王家が支払いを代行してくれるか。ただそれだけをお答えください」

仮面の男の言葉はミシェイルの心理をえぐっていた。ミシェイルにとって母親とは、自分を愛していない存在だ。幼いころに見たのは、アルネストと母親の間に生まれたカミュばかりが愛されている姿だ。ミシェイルはずっと放置されて、物だけを与えられて育ったように感じていた。

ミシェイルが思うのは、母親にとって自分は邪魔な存在でしかないということだ。それと同時に、ミシェイルにとって母親とは、身体の出来上がっていない自分を庇護してくれるだけの存在であった。両者の間に愛など無く、お互いに幸せな家族を演じて家庭円満であることを周囲に見せるためだけに生きていた、と彼は感じている。

しかしだからといってミシェイルは、自分の過ちを母親に精算させたいと考える鬼畜ではない。彼は自分1人で生きてきたことを誇りに感じており、これからもたった1人で生きていきたいと考えていた。

 

「——ミシェイル」

母親との邂逅にふけっていたミシェイルを現実に引き戻したのはクライアントだ。

「やはり止めよう、ミシェイル。提案だが、2人で2000万を借りるというのはどうだ。2000万あれば事業を立ち上げることぐらい出来るんじゃないか? 私も内蔵を売る覚悟はある。どうだ?」

ミシェイルは目を見開く。この僅かな間に、クライアントの方が覚悟を決めていたのだ。ミシェイルは長く瞬きし、もう一度力強い目でゴッズ・ヴァルスを見据えた。

「いや、クライアント。やはり1億エレンを借りよう。もしも俺達が支払うことができなかった場合は、リークラク王家が代わりに払うことを約束する」

「いいでしょう。レッツ シェイク オン イット」

ゴッズ・ヴァルスは商談成立を指す言葉を吐き、握手を求めた。

 

ミシェイルはゴッズ・ヴァルスに勧められるまま契約書にサインし、写真を取って拇印を押した。心の中では葛藤の嵐が渦巻いている。それでも、返済が滞ることさえなければ、母親に迷惑をかける事はない。ミシェイルは頭の中で皮算用を行っていた。

 

「待て、ミシェイル。そこに月利10%と書いている部分がある。ゴッズ・ヴァルス、これはどういうことだ」

心ここにあらずといったミシェイルの隣で、クライアントは1億エレンを目の前にしても冷静だった。もしこの指摘がなければ、2人は1年後利息だけで2億1384万エレンを支払うことになっていた。クライアントの冷静さが2人を救ったといえる。ゴッズ・ヴァルスは不手際を認めて頭を下げたが、この指摘によって契約書は完全に信用を失った。ミシェイルとクライアントの2人は再び契約書を隅々まで見、罠が仕掛けられていないことを確認した。

「ゴッズ・ヴァルス、お前はやはり悪党だったな。しかしクライアントの冷静さがそれを見破ってくれた。これからは純粋に、お前の融資した金がメルッショルドを救うところを応援してくれ」

ミシェイルとクライアントは1億エレンを鞄に入れると、ゴッズ・ヴァルスの館を後にした。仮面の男は深々と頭を下げ、また1年後にと声を絞り出していた。

仮面の下に薄気味悪い笑みを浮かべながら。

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