ミシェイルとクライアントの2人は、豚のような男から手に入れたアドレスへ向かうと、そこにある小さなレンガ造りの建物へ入っていった。門をくぐり、入口へ向かうまでの間に、猫をかたどった置物が幾つか置かれている。ゴッズ・ヴァルスは猫が好きなのだろうか。

キョロキョロと周りを見るクライアントを横目に、ミシェイルはゴッズ・ヴァルス邸のドアを叩いた。中から出てきたのは白い髭を生やした執事だ。

「どちら様でしょうか?」

「メルッショルド王の第1子息、ミシェイルと申します。本日はゴッズ・ヴァルス様にお話したいことがあり、こちらまで参りました」

ミシェイルは自分の立場を最大限利用する男だ。

「メルッショルド王のご子息? 確かに昔のご子息に似ている・・・。な、中で少々お待ちください」

執事は慌てた様子でミシェイルの目の前の絨毯を払うと、2人を応接間へ案内した。

 

僅かな間を置き、部屋に入ってきたのは龍を模した仮面をつけた男——と、刃物を持った集団だった。ゴッズ・ヴァルスは低く通る声で、ミシェイルへ言う。

「昨日、私の縄張りで金貸しを恫喝した若い男がいたそうだ。その男は艶やかな赤い髪をしており、トラのように鋭い目をしていたという。それはお前のことかな?」

ゴッズ・ヴァルスの言葉には抑揚がない。仮面を書けていて表情が見えないこともあるだろうが、何も感情を発していないようにみえる。だが周囲の取り巻きは今にも襲いかかろうと武器を握りしめ、ミシェイルとクライアントを睨みつけている。

一触即発の事態。

だがミシェイルは少しも臆することがなかった。彼は両足を大きく上げると、目の前のテーブルの上へドカと置き、足を組んだ。

「どうでもいいだろう、そんなことは。重要なことは今ここで俺とお前が出会い、ビジネスを始めるという事実だ。こんなことは金輪際起こらないぞ。国王の息子が闇金融に金を借りるなんてな。こんなに面白いチャンスを、みすみす潰すような輩ではあるまい」

ミシェイルの圧倒的な自信がその場を支配し、沈黙がその場に訪れる。

「面白いご子息ですな」

ゴッズ・ヴァルスは仮面を少し揺らして笑った。

「いいでしょう、ビジネスを始めましょう」

ゴッズ・ヴァルスが右手を上げると武器を構えていた集団はサッと応接間を去った。

「それで、幾らお貸ししましょうか」

静かになった応接間で、ゴッズ・ヴァルスは低く通る声で言った。

「1億エレン」

「1億エレンですか」

ゴッズ・ヴァルスは紙とペンを取り出した。

「私は、表世界のどの銀行でも相手にされない人間を相手にしています。ですから金利は10%を複利でいただいています。通常の銀行であれば各支払いに金利分と元本分が含まれていますが、私から借りた場合、各年で金利を支払い終えない限り元本は減少しません。

例えばあなたが1億エレンを私から借りた場合、1年目の金利は1000万エレンとなります。この1000万エレンを支払わない限り、元本は減りません。

1年毎に利息を全て払って頂く必要があり、先ほどの例で言えば1年で1000万を支払えなければ、あなたの資産を差し押さえます。家族にも取り立てに伺うことがあるでしょう。腎臓1つ500万、膀胱は200万、目は300万から買い取ります」

ゴッズ・ヴァルスの言っていることは事実だ。グルジアのスラム街では目を失った人間を見かけることがある。クライアントはミシェイルの肩を掴み、言った。

「ミシェイル、やめよう。リスクが大きすぎる。両親にもらった身体を売るなんて、君にとっても本意では無いはずだ」

「覚悟を決めきれていない人間が紛れているようですね。ですがもう、あなたはテーブルに付いてしまった。契約をせずに館から出ることは叶いませんよ」

ゴッズ・ヴァルスの仮面の奥に光る目が、怪しく光った。

2人は前に進むしか、無い。ミシェイルは沈黙を破って言う。

「1億エレンだ。即日で用意しろ」

「ミシェイル!」

クライアントはミシェイルを掴んで自分の方を向かせた。

「1年で1000万だぞ!そんな金額を払い続けられるわけがない!」

「走り続けるしか無いんだよ、クライアント。この国を救うためにな」

ミシェイルはクライアントを諭すと、ゴッズ・ヴァルスと向かい合った。しかしゴッズ・ヴァルスは一向に取引を始める気配がない。

「どうした?ゴッズ・ヴァルス」

「まだ、足りませんね」

ゴッズ・ヴァルスは抑揚のない声でつぶやく。

「あなた達は言うなればホームレス2人。家もなく、定職にも付いていない。さらに赤毛では人間社会で働くことが難しい。あなたがメルッショルドの王族だという証拠もありません。その身1つに1億エレンを貸し付けるなど、夢のまた夢。せいぜい100エレンがいいところ。なぜならあなたには、信用が無いからだ」

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