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第6項 スヴィーナ
- 2017/1/14
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夜が明け、冬の弱い日差しが差し込む。
「ビルシュタインズも随分大きくなったわね」
ビルシュタイン邸で食事の準備をしながら、リリィはパティへ話しかける。
「そうだねー、お姉ちゃんのファンも増えたよ? 私のファンももっと増えたら良いのになー」
パティは頬を膨らませる。
「あら、パティも可愛いじゃない。組織が大きくなると、真面目な人ばかりでは息苦しくなるわ。あなたのようなムードメーカーが必要なのよ」
「なんだか褒められてる気がしないよ」
「あはは、ごめんごめん。って謝ったらだめね。ほら、スープが出来たわ。みんなに持っていってあげて」
リリィは大きな鍋を重そうに持ち上げると、台車の上に置いた。パティは「はーい」と間延びした返事をして、スープとパンの入った箱と皿を邸宅前の広場へ運んだ。そこにはビルシュタインズの主力部隊の面々がキャンプを張っていた。パティは主力部隊の隊員とコミュニケーションをとりながら、手際よく食事を配っていく。
そんなパティの目についたのは、1人の少女だ。パティと同じ金髪で、けれども鋭い目をした少女。彼女はパティが配るスープには目もくれず、木の枝で地面に絵を描いていた。
「わあ上手だねー!」
パティが少女の手元を覗き込んで言った。そこにはスピリットから復元される獣の絵が描かれていた。少女は驚いて飛び上がり、地面の絵を急いで消した。
「あー消しちゃった。勿体ないよ」
「だって恥ずかしいから」
「恥ずかしくないよ! だってあんなに上手に絵が描けるってことは、スピリットを持ったときも、イメージを鮮明に描けるってことでしょ? 私は馬鹿だからぼんやりとしか思い描けないんだ。だから凄いと思った!」
「そうかな」
うんうんとパティは頷く。彼女は人々を導くリーダーシップこそ持っていないが、チーム形成に欠かせない、組織の文化やスタイルを理解する姿勢を持っていた。チーム形成活動は、成立期、動乱期、安定期、遂行期、解散期の5つのステップを踏んでいく。『成立期』ではメンバーが自分の役割や責任を理解し、『動乱期』では異なる考えや観点に心を開いてそれぞれの立場を理解していく。『安定期』ではチームのため自分の行動を調整し始めお互いを信頼し始める。『遂行期』はそれぞれが課題に自主的に円滑効果的に取り組む。そして『解散期』を迎え、またバラバラの場所へ向かっていく。
人数が増え、『動乱期』を迎えたビルシュタインズにとって、パティはいなくてはならない存在だった。
「ねえ、あなた名前はなんていうの?」
「私はスヴィーナ」
「スヴィーナちゃんか。私はパティ。仲良くしてね!」
笑顔いっぱいのパティに圧倒されたのか、スヴィーナは小さく頷いた。それからパティの持ってきたスープとパンを受け取り、一緒に食べた。
「ねえ、どうしてパティはビルシュタインズに入ったの?」
「うーん、難しい質問だね」
パティは顎に手を当て、青空を見上げて、考えた。くだらないことを言うべきか、真面目に答えるべきか。ここでも彼女はそんなことを考え、結果答えた。
「幼なじみを取り戻したいから、かなあ」
パティは少し儚げな表情で言った。
「そうなんだ。パティのことだから、パンとスープをお腹いっぱい食べるためだと思った」
「ちょっとー、それどういうイメージ? スヴィーナちゃん口悪い!」
「嘘だよ。パティも色々背負っているんだなって、思ったよ。ビルシュタインズにいる人たちは多かれ少なかれ、何か傷を持っている」
「そうかもしれないね。神様は誰にだって優しいから」
「だけど私は、弱いやつらは嫌いだ」
スヴィーナの言葉には刺があった。
「スヴィーナちゃんは、どうしたいの?」
パティの問いかけにスヴィーナは答えなかった。彼女はまた地面に絵を描き始めた。パティはそんなスヴィーナの様子を隣で見ながら、ビルシュタインズの今後について考えた。弱者を救済する防波堤、それだけでいいのかなと。
《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ←いまここ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ
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