アドヴァーグの作戦が実行されたのは、3日後の早朝だった。彼が目標としていたのは、デロメア・テクニカ西部エメラルドブルーの海に棲む精霊ダイダリアサン。1000年以上も生きる海蛇だ。この海蛇を狩ることが、アドヴァーグの目標だった。

 アドヴァーグはウィルやエリカを連れて船に乗り込むと、レーダを使ってダイダリアサンの生息する可能性がある領域をつきとめた。彼らは、海に大量の汚泥を撒き始めた。エメラルドブルーの海は茶色く濁り、酷い異臭があたりにたちこめた。海が轟き、巨大な海蛇が姿を現した。海から出ているだけでも、8ベルトはあるだろう。ウィルは青ざめ、カタカタと震えていた。

『海を汚すな、汚い人間共』
 地響きのような声が、ウィルの頭にこだまする。ダイダリアサンのテレパシーだ。その声は次第に大きくなり、彼の恐怖を増長する。不安を抑えきれず彼は落ち着きが無くなり、大声で、あぁ!、わぁ!と騒いだ。エリカも同様に不安から、船に装備されていたガトリングガンを乱れ打ちした。ガトリングガンの弾は大半が海の藻くずと消えたが、幾発かはダイダリアサンの皮を捉えていた。ダイダリアサンはギャァァという叫び声を挙げ、身体を海に叩き付けた。大きな波が発生し、船を飲み込みそうになる。

 そんな時に船を操作して転覆を塞いだのはアドヴァーグだった。彼は精霊シュワンの目玉でつくったネックレスを装着していた。シュワンの目玉に、ダイダリアサンの声を軽減する力があるらしい。彼は爆薬をダイダリアサンに投げつけ、皮膚をさらに痛めつけた。海蛇は雄叫びを上げながら暴れ回り、ついに船へ体当たりする。瞳は赤く染まっていた。

 その姿を間近で見ていたのは、エンドラルとクラリスの乗った船だった。船と言っても、それはクラリスが拠点にしているあの8輪自動車だ。この自動車は海上を走ることができるらしい。アドヴァーグ追跡については、アンドレイアが当初、コストに見合わないということで反対したが、今後パイルシュレッドから補給物資を受けられるという条件を受けて、手助けを引き受けた。

 エンドラルはファリス・レイリーンを使って情報を集め、アドヴァーグの計画をある程度予測していた。アークラインの港を出て付近を調査していた彼らは、ダイダリアサンの登場と共に天候が乱れたことで、アドヴァーグの居場所を突き止めることができた。
「アドヴァーグ!」
 エンドラルは叫ぶ。しかし船間は遠く離れており、アドヴァーグの凶行を止めるための手立てがない。
「エンドラル、私にやらせて」
 クラリスは、ルクシオンに伝わる呪術を使うことを考えた。ルクシオンの人々は代々天候を操作する魔術を身につけている。空気中のエーテルを操作して、自在にアトモスフィア(大気)を変化させるのだ。クラリスは意識を集中し、アドヴァーグの船の周りに小さな雷雨を呼び寄せた。アドヴァーグは天候の急な変化に一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻し、ダイダリアサンの目にボウガンの一撃を放った。彼の正確な射撃はダイダリアサンの青い目を貫き、さらに海蛇は暴れだした。

 アドヴァーグは船の転覆を予測し、乗船員に救命道具を身につけ、小型ボートへ移動するよう命じた。海蛇の精神攻撃からいち早く復活したエリカは、命令を実行するため、頭を抑えながら乗船員をボートへ誘導した。

 クラリスとエンドラルの船がアドヴァーグの船へ迫っていた。アドヴァーグは時間がないことを理解し、勝負に出た。ダイダリアサンの頭から、背中へ飛び乗り、剣を縦横無尽に突き立てたのだった。ダイダリアサンは悲鳴を上げ、船に首をもたげた。瞳は深い青色をしていた。虫の息となったダイダリアサンがボウと見つめていたのは、ウィル・スタンスラインだった。ウィルは最初恐怖に震えていたが、海蛇の青い瞳を見ているうちに心が落ち着いてきていた。それどころか彼は、傷ついたダイダリアサンに慕情を抱きつつあった。
『人間よ。なぜ、こんなことをする。精霊と人間は棲み分かれてきたはずだ』
 ウィルは涙をこぼす。こんな哀しみが許されるはずがない。ウィルは胸を掻きむしられるような哀しみにとらわれ、胸が苦しくて呼吸が乱れた。息を吸う回数が多い。酸素を上手く取り入れることができていなかった。

 ダイダリアサンはそんなウィルの姿を見て、僅かに人間への信頼を取り返したように見えた。ダイダリアサンがウィルへ言葉を発しようとした時、アドヴァーグが海蛇にとどめを刺した。彼はエンドラル達に追いつかれないよう、船のジェットエンジンを点火し、海蛇の遺体ごと海岸線へ向けて消えていった。
「コスト差異はマイナスだな」
 アドヴァーグは小さな声で呟いた。

■コスト差異(Cost Variance)
CV=BCWP-ACWP で計算する。
・Budgeted Cost of Work Performed(BCWP) つまりは 出来高
予算コスト*実際の仕事の達成率 で計算する金額。
達成した仕事量を、金額で現したもの。
・Actual Cost of Work Performed(ACWP) つまりは 支払金額
プロジェクト予算から実際に支払われた費用をいう。
労働者に支払う賃金や、機械のレンタル料のこと。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異←いまここ
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

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