第8項 クーデター

翌朝の朝食時。ミストルティンは興奮冷めやらぬ様子で、エスカリョーネに前日の話をしていた。

「それでね、サンスポットさんがその大きな蜘蛛を、極大魔法で追い払ってくれたの。すっごくカッコ良かった。あっ、極大魔法っていうのは高難易度の技のことなんだって」

「へぇーそうなんだ」

一方のエスカリョーネは気のない返事をした。

「エスカ、ごめんね。私ばっかり話しちゃって」

「あ、全然大丈夫だよ!ごめん、ぼうっとしてた。昨日イプシロンさんにしごかれちゃってさ」

エスカリョーネは舌を出した。

「私はもっとミストの話が聞きたいな。魔法の方は上手になった?」

「うん、前よりは上手くなったよ。サンスポットさんに色々と教えてもらって、頭がパンクしそうだよ」

「わかる!私も昨日初めて授業を受けて、頭がパンクしそうになったもん」

エスカリョーネは頭を抱えた。ミストルティンはそれを見て笑っている。

「そういえばエスカ、先生はどんな人だったの?女の人だった?」

「え?んーん、男の人だった」

エスカリョーネはムスッとした表情で言う。

「そんなに嫌な人だったの?」

「嫌ではないけど、変な人。夜道に気をつけろって言われた」

「え?どういうこと?」

「言えないよ―」

エスカリョーネは両手で顔を覆った。ミストルティンが畳み掛ける。

「よ、余計に気になるんだけど!」

「絶対に内緒だよ?」

「うん、内緒にする」

「胸揉むぞコラ、的なこと言われた」

「ええ!うそ~!」

ミストルティンが黄色い声を上げる。エスカリョーネも一緒にキャーキャー叫んでいた。こうして噂は広がっていく。

 

それを呆れた表情で見ていたのはイプシロン。彼は食事用に用意された机に頬杖をついて、2人のやり取りを見ていた。隣にはエンドラルがいる。

「やたらうるせえな、あそこの一角」

「エスカはいつも煩い」

「エンドラルも貧乏くじ引いちまったな。あんなのが同居人とは」

エンドラルは硬いフランスパンをもぐもぐと頬張っていた。

「おい、それ俺のパンじゃねえか!ったく、お前は食いしん坊なやつだな」

「早く大きくなりたい」

「それはいい心がけだ」

イプシロンはエンドラルの食器に乗っていた生姜焼きを一枚つまむ。

「あ」

「これでおあいこだ」

「最後にとってた」

エンドラルは呆然と食器を見下ろしていた。イプシロンは困った表情をして、それから自分の食器に置かれていた生姜焼きを一枚、エンドラルの器に置いてやった。

「これで良いだろ?ったく、やっぱりレンジャーは一癖あるやつしかいねえな」

イプシロンが苦虫を噛み潰した表情で言った。

「俺はビスマルクからパンもらってくるわ。偉いさんだから何個か余分に持ってるだろ」

食い足りないイプシロンは、腹を鳴らしながらビスマルクの元へ向かう。ビスマルクは食事場にいながらも優雅に本を呼んでいた。

「ビスマルク、パン余ってねえか?腹が減っては仕事ができん」

「残念ながら今は断食の時期ですので、太陽が出ているうちは水一滴も飲みませんよ。朝食ももらっていません」

ビスマルクは本から目を離さずに言った。イプシロンはガックシと頭を垂れた。

「腹減った・・・」

「普段から暴飲暴食しているからです。同じハーネスラインの出身とは思えませんね」

ビスマルクはぱたんと本を閉じた。

「少しですが、干物があります。ハーネスラインでとれたイカの干物ですが。あなたにさし上げましょう」

「さすがビスマルク元帥殿」

「やれやれ。エスカリョーネといい、あなたといい、困ったものです」

ビスマルクは賑やかなエスカリョーネの方を見た。

 

「それで、エスカはどう思ったの?」

ミストルティンが真剣な表情で問う。

「どうって?」

「その先生。カッコ良かったの?」

「そりゃあ顔は整っていたけど」

エスカリョーネは首を伸ばして周囲を見る。

「あ、今探したでしょう。エスカもしかして、その先生のこと好きなんじゃない?」

「ち、違うよ!あんな人好きにならないよ・・・たぶん」

「たぶんって言った。怪しいなあー」

ミストルティンがまた畳み掛ける。恋話になるとミストルティンもとたんに食い下がる。彼女は前のめりになって、エスカリョーネに向かって首を傾げた。

「誰にも言わないから、教えて。ね?」

「だから違うって―」

エスカリョーネは困った様子でミストルティンを押し返す。

「エッチなことも言うけど、仕事はしっかりしていてカッコいいなって思っただけ。それだけだから」

エスカリョーネはもうやめてーと降参した様子で言う。

「ふーん。ねえエスカ、その先生ってどの人?」

「え?えっとね」

エスカリョーネは辺りを見渡した。エンドラルのいるテーブル、本を読むビスマルク、赤い髪の女性とターバンを巻いた男性がお茶をしているテーブル。その先にアイン・スタンスラインはいた。

アイン・スタンスライン、その隣にはリングリット・ラインカーネーションと、ライロック・マディン。サイトウ・エルザルト・ドースティン。そして。

「あそこ、かな」

エスカリョーネが指を刺した方向には、ルミナス・カラフルがいた。

「あのテーブルの人?どの男の人だろう。オレンジの髪のメガネをかけている人?」

「水色の髪の人」

「あー、わかった。あれがエスカの想い人なんだね」

「だから違うってば。ほら、早く食べて片付けよう?今日も楽しい修行がはじまるよ」

エスカリョーネはあははと笑って、ミストルティンを食事に集中させた。

しかし彼女自身は、引き続きルミナス・カラフルのいるテーブルを見ていた。

(そっか。食事から帰る場所を辿ればいいんだ)

エスカリョーネはこのとき、修行があるからといって片付けをミストルティンに任せることを決めた。

 

エスカリョーネの視線に気づいたのは、ルミナスでもなければ、アインでもなかった。ライロック・マディン。元リベラリア最強の紋章術師である彼は、朝食の時も警戒を解かず、周囲に気を配っていた。

「アイン。今エスカリョーネがこちらを見ていなかったか?」

ライロックは既にエスカリョーネのことを知っていた。国際連合軍全員のプロファイルを把握しておくのが彼のポリシーだ。

「そうなのか?気づかなかったな。どこにいる?」

「また、こちらを見ているぞ。今度はミストルティンもだ」

「あ、いたいた。何か変な話してそうだな」

アインは苦笑いを浮かべた。

「ねえアイン、エスカリョーネって最近入った女の子?」

リングリットがニュートラルな表情で聞いた。それがアインにとっては逆に怖い。

「そうだな。16歳、ルクシオン出身」

「そうなんだ。ずいぶん詳しいね」

「リングリットさん?あくまでも俺は授業の中で自己紹介として聞いただけだから。それ以上のことは何もしてないから」

「それなら良いんだけどね?ライロックともども、目がやらしいから」

「アインと一緒にしないでくれ」

ライロックはメガネの位置を整えた。

「それはそうと、アイン。彼女、なにか悩んでいなかったか?」

「そういえば、体調が悪そうだったな。ただビスマルクの話では、すぐに良くなって午後からはイプシロンと一緒に修行に行っていたと聞いた」

「そうか。・・・ルクシオンの出身、か」

ライロックは生姜焼きをナイフで一口大に切り、上品に口に運んだ。アイン、リングリット、ライロック、サイトウ、ルミナスの5人は食事を済ませると、サイトウの合図で『ご馳走様でした』と叫び、片付けをしてそれぞれの持ち場に戻っていった。

 

***

 

エスカリョーネは予定通り片付けをミストルティンに任せると、ルミナス・カラフルの動向を遠目に見ながら、キャンプへと戻っていった。

ルミナス・カラフルがキャンプ中央に建てられた、ひときわ大きな建物に入ることを確かめると、彼女は午前の修行に向かった。彼女はイプシロンの指導を受けながら素振り、跳躍素振り、8の字素振り。それを前日と同様100セットこなした。

ルミナスへの復讐を考えながらの取り組み方が、イプシロンに見ぬかれたのだろう。彼からは気が入っていないと激昂されたが、エスカリョーネは表面上謝っただけで、修行に精神を集中させることはできなかった。

 

修行を終えた彼女は、自分の寝床へまっすぐ帰るのではなく、キャンプ中央の大きな建物が見える場所で座り込んだ。ルミナスの動向を観察するためだ。彼女は魔法の練習をしながら、一人の時間を過ごした。そして夜も更けたころ、ルミナス・カラフルが建物から出てくることを確認した。ルミナスは大きな建物左のテントに入っていく。それがルミナスの寝床であるらしかった。

『特定したな』

フレスヴェルグが少し興奮した様子で話しかける。しかしエスカリョーネは冷静だった。

(1日だけじゃ心配だから、明日もう1度確認しよう)

 

翌朝。この日のエスカリョーネとミストルティンは静かな朝ごはんを迎えた。

エスカリョーネは夜遅くまでルミナスの動向を見守っていた疲れで。ミストルティンも夜遅くまで魔法の修行をしていた疲れで、ヘトヘトだった。

「サンスポットさん、結構スパルタ」

ミストルティンはそれだけを言うと、目の前のスープを静かに啜った。

「そうなんだ。ミストがそんなになるって、相当だね。2人で森を走っていた時も元気だったのに」

「サンスポットさんにできるって言われたらできそうな気がしちゃって、実力以上に頑張っちゃったんだと思う」

「あー、モチベーション上げてくれるんだね。凄い人だね」

「うん。クタクタだけど、修行はすっごく楽しいよ」

ミストルティンの笑顔は、いつもと変わらなかった。エスカリョーネはそれを見て安心した。

「ミストちゃーん」

艶やかな声があたりに響いた。ミストルティンは声のする方向を向いた。

「あ、サンスポットさん。おはようございます」

「いたいた。ごめんね。昨日は無理させすぎたみたいで。疲れていない?今日も頑張れる?」

「大丈夫です!疲れてはいますけど、頑張れます」

「疲れているのね?無理しちゃダメよ」

「はい!ありがとうございます。大丈夫です」

(なーるほどー)

エスカリョーネはサンスポットとミストルティンのやり取りを見て感心していた。

『どうした?』

(んーん。ミストの頑張り屋さんな性格をよくわかってるなーと思って)

エスカリョーネはフレスヴェルグに向けて、ふふっと笑った。

「サンスポットさん。ミストは頑張り屋さんだけど、ほどほどのところで止めてあげてくださいね」

「あら、エスカリョーネちゃん。ミストちゃんの事よく知ってるのね。ありがとうね。そういえばエスカリョーネちゃん、総司令官から言い寄られているんだって?私びっくりしちゃった」

「ちょ、ちょっと待ってください。話がおかしくなってます!ミスト、変な噂流さないで〜」

静かに始まった朝食は、サンスポットを加えて女性3人、いつもどおり賑やかに幕を閉じた。エスカリョーネは2日連続で片付けをミストルティンに押し付けるのは悪いと考え、この日は片付けに参加した。テキパキと食器を片付け、元あった場所へと戻していく。

ミストルティンもエスカリョーネに負けじと手際よく食器を片付けていった。

「そういえばエスカ。明後日の朝、国際連合軍のキャンプを動かすって聞いた?」

ミストルティンが食器を洗いながら話す。

「え?そうなんだ。明後日になったんだね。明日移動するのかと思ってた」

「明後日らしいよ。明日は移動の準備でバタバタするね。ほんの3日間しかいないけど、ここには沢山物があるってわかったから」

ミストルティンは山積みになった食器を見ながら言った。

「そうだね。私もこんなに沢山のものを見たのは初めてだったから、驚いたよ」

エスカリョーネはミストルティンに話を合わせながら、頭のなかで作戦の決行日を変更するかどうかを考えていた。ルミナス・カラフルへの復讐——当初それは今夜と考えていた。しかし移動が一日伸びたことで、決断を先延ばしにする余裕ができてしまった。

『どうするつもりだ?』

フレスヴェルグの言葉が決断を強いる。

(今夜、やるよ。もう決めたから)

エスカリョーネは、先延ばしの誘惑を断った。決行は今夜だ。

 

食事を終えたエスカリョーネは、この日も雑念を抱きながら修行に取り組んだ。イプシロンの目つきが鋭くなっていく。エスカリョーネは、いつ雷が落ちるかおどおどしながら、自分の気持を騙し騙し修行をこなしていった。

 

そして彼女はまた、キャンプ中央の大きなテントが見える場所に位置取り、時を待った。彼女は夜が更けて、ルミナスが隣のテントに帰るのを確認すると、周囲の明かりが少しずつ消えていく様をじっと見ていた。

 

深夜。あたりの明かりが全て消え、虫の声だけがこだまする時間帯。エスカリョーネは動き出す。

(行くよ。フレスヴェルグ)

「ファンタズマ・アーキ」

エスカリョーネはコスチュームを変更した。黒い帽子と白のワンピース。この格好はプルスラスと戦った時以来だ。

『いいんだな。これは国際連合へのクーデターになる』

(構わない。お父さんとお母さんを奪った原因を、私は許さない)

エスカリョーネは音もなく、ルミナスの眠るテントへと近づいた。

「バルムンク」

エスカリョーネの右手に、氷の剣が生まれる。彼女はその剣を使って、テントの入口をバッサリと裂いた。

テントの中に足を踏み入れたエスカリョーネは、そこに横たわる美しい顔立ちの青年ルミナス・カラフルをまじまじと見た。このあどけない少年が、精霊シュワンを狂わし、ズフィルシアと世界を隔てる障壁を取り除かせた張本人だ。

(この人のせいで、私は)

エスカリョーネはバルムンクを上段に構えた。あとはその剣を振り下ろせば、ルミナスへの復讐が終わる。

(私は・・・!)

 

「そこまでだ」

エスカリョーネを止めたのは、元リベラリア軍人ライロック・マディンだった。彼はエスカリョーネに近づくと、バルムンクをひょいと取り上げた。エスカリョーネはそれに抵抗しなかった。バルムンクはエスカリョーネの手を離れるとすぐに消えてしまった。

「・・・どうして、わかったんですか」

「ルクシオン出身で、女の子2人だけでここまで来たのだろう。ならば何を失ったのかは自ずと想像がつく。そして、その原因がどこにあるのかも」

エスカリョーネはその場にしゃがみ込み、両手で顔を覆った。ファンタズマ・アーキはすでに解けていた。

「エスカリョーネ。どんな理由があろうと、これは国際連合への叛逆だ。規則に則り、野山獄で反省してもらうことになる」

ライロックはエスカリョーネが泣き止むまで、その場にとどまり続けた。

 

翌朝、エスカリョーネはキャンプ西部の野山獄に繋がれた。獄と言っても鉄格子があるわけではない。自然を利用し、囚人をつなぎ留めておく場所を野山獄と呼んでいた。具体的には、キャンプ近隣の崖のくぼみに杭を突き刺し、杭と囚人を鎖で繋いでいる。エスカリョーネは首と両手に輪をかけられ、そこに鎖が繋がれた。この輪は繋がれた者の魔力を打ち消す特殊な素材でできており、サンスポットでも断ち切ることが出来なかった。

 

エスカリョーネが野山獄に繋がれたというニュースは、ミストルティンにショックを与えた。彼女はサンスポットと朝食を囲んでいる間、ずっと後悔のつぶやきを発していた。

「エスカ、2日前から少しおかしかったんです。たまにぼうっとしていて。私が気づいてあげればよかった」

「ミストちゃん、あなたのせいじゃないわ。エスカリョーネが何かを抱えていたのだとしても、あなたのおかげで随分楽になったはずよ。だって昨日も一昨日も、彼女は笑っていたじゃない」

サンスポットはミストルティンの隣に座って、彼女を励まし続けた。

 

エンドラルも同様に後悔していた。

「寝る前までエスカが帰ってこなかった。でも何もしなかった」

エンドラルに寄り添うように、アインがしゃがんでいた。隣には立ち上がって腕を組んだイプシロンもいる。

「どうりで修行に身が入ってないと思ったら、こんなこと考えてやがったのか。なんで気づかねえんだ俺は」

「イプシロン。エンドラル。2人のせいじゃない。いまエスカには気持ちを整理する時間が必要なんだ。彼女には、国際連合のルールに則って、しばらく野山獄で頭を冷やしてもらう。けれど戻ってきたら、また前みたいに接してあげてくれよな」

アインの言葉は、エンドラルとイプシロンに響いた。

エンドラルは力強く頷く。

「いい子だ。それにしてもエスカは、入って間もないにもかかわらず、沢山の人に愛されているな。さてと」

アインは腰を上げた。

「俺はこれからエスカに会いに行ってくる。なにか伝えておくことはあるか?」

 

***

 

野山獄。エスカリョーネは鎖で繋がれた両手のひらで顔を覆い、泣いていた。ルミナスを殺そうとした自分と、ルミナスを殺せなかった自分に、それぞれ後悔を抱いている。彼女はどうすればよいかわからなくなっていた。

「辛そうだな、エスカ」

エスカリョーネに声をかけたのはアインだ。彼女はアインに顔を見られないよう、崖の方を向いた。

「嫌いになったでしょ」

エスカリョーネは消えそうな声で言った。アインは彼女の傍に座った。

「いいや、全然。ライロックから顛末を聞いた時は驚いたけれど。どうしてエスカはそんな行動に出たんだろうって、疑問に思った。君はいつも明るくて、みんなの人気者だ。だけど心の底には、辛いものを抱えていたんだろう。よく頑張ったね」

アインの優しい言葉に、エスカリョーネはまた嗚咽した。

「お父さんと、お母さんが。死んじゃったの。・・・魔物に襲われて。私、そのときのことが忘れられない」

エスカリョーネの嗚咽は止まらない。

「どうしてそんなことになったんだろうって、考えて。原因を作りたかった。世界の果てを消した人が悪いんだって、思いたかったんだよう」

アインは泣きじゃくるエスカリョーネの頭を撫で続けた。エスカリョーネはアインの胸に顔を埋める。

「だけど、剣は振り下ろせなかった」

「剣を振り下ろせなかった。どうして?」

「わからない。誰かを恨んで良いのか、わからない」

「エスカは誰かを恨みたい?」

アインの問いかけに、エスカは首を振った。

「私、誰かを恨みながら生きていきたくない」

「優しい子だ」

アインはエスカリョーネが泣き止むまでそうしていた。そしてエスカリョーネが泣き止むと、エンドラルとイプシロンから預かった言葉を伝えた。

『早く戻ってくるのを待っている』と。

 

野山獄から立ち去るアインに声をかけたのは、ライロック連隊砲術兵隊長レイアス・プロミネンスだ。

「あの娘と話をしたのか」

レイアスは頭にターバンを巻いた褐色の男で、ブラウンのローブを羽織っている。絵に描いたような魔法使いという出で立ちだ。

「ああ。あの子はまだ幼い。悩みながら前に進めばいいさ」

「甘いな」

レイアスはアインの言葉を遮るようにしていった。

「この国際連合軍は甘すぎる。女子供も戦士として育てなければ、いざというときに甘えが出る。このままではズフィルシアに勝てんぞ」

レイアス・プロミネンスは『ウラノス』の王で、贖罪の地をズフィルシアに奪われた張本人だ。彼はズフィルシアの強さをよく理解していた。だから国際連合軍に厳しさを求めていた。

「レイアス。忠告ありがとうございます。厳しくしなければズフィルシアに立ち向かえないこと、重々承知しています。けれどあの若い少女には、もう少しだけ時間をあげてください」

アインは頭を下げた。レイアスは納得のいかない表情を浮かべながらも、アインの熱意に当てられたのか、引き下がった。

「わかった。しかし何度でも言う。ズフィルシアの力はこんなものではない。気を引き締めてかかることだ」

「ありがとうございます」

レイアスは国際連合軍の今後の進行ルートを検討するため、キャンプ中央の大きなテント―—作戦本部へと向かった。アインもレイアスが見えなくなるまで待ってから、野山獄の方をもう一度見た。

 

アインが視線を空に向けたのは、偶然だったかもしれない。しかしながらその偶然は、彼に上空から飛来する敵影を捉えさせた。

「全軍、戦闘準備だ!」

アインの宣言が、国際連合軍に緊張をもたらす。

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