第7項 グノーシス

「エスカ。エスカ」

「ん、んん?」

エンドラルの声に、エスカリョーネは現実に引き戻された。

「あれ、私。ごめんなさい、ぼうっとしてた」

エンドラルはじっとエスカリョーネの目を見た。

「大丈夫」

「うん、大丈夫。ありがとう」

「エスカ、どうした?大丈夫か?」

アインも心配そうにエスカリョーネの顔を覗き込んだ。

「はい。大丈夫です。初めての授業で、少し疲れちゃったかな。私、頭をつかうのが苦手で。えへへ。少し休みます」

「それが良い。エンドラル、エスカをテントまで連れて行ってあげてくれるか?」

エンドラルはコクリと頭を下げた。

「エンドラルくん、よろしくね。先生、今日はありがとうございました。夜道に気をつけます」

エスカリョーネはその場に立つと、深々と礼をした。2人は授業を先に抜けて、テントの方へと向かう。

エンドラルは右手でエスカリョーネの左手を引いていた。エスカリョーネは前を先導するエンドラルの右腕をまじまじと見ていた。エンドラル・パルスはわずか10歳の少年だ。しかしその腕は傷だらけで、鍛えぬかれたアスリートのように引き締まっていた。

「エンドラルくん、腕触っても良い?」

「別に構わない」

エンドラルは立ち止まって、エスカリョーネに右腕を差し出した。

「凄いね。大人みたいに硬い」

「1日16時間」

「え?」

「シャベルで穴を掘っていた時間」

「そっか。これくらい鍛えられるのも無理ないね。大変な場所だったね」

エンドラルは誇らしげに、二の腕を撫でた。

「でも、まだ鍛えたい。これじゃ国際連合の一員として戦えない」

「エンドラルくんは強くなれるよ。男の子だし、まだまだ成長期はこれからでしょう。たくさん食べて、たくさん運動して、たくさん寝て、そうしたら私の身長なんかすぐ追いぬいちゃうよ。もう腕力じゃかなわないと思うし」

エスカリョーネは力こぶを作ろうと、二の腕に力を入れた。ほとんど膨らまない。

「全然膨らまないや。エンドラルくんもやってみる?」

「やらない」

「そう?残念だな」

エスカリョーネは肩を落とす。エンドラルはそっぽを抜いたまま続けた。

「剣の稽古をつけて欲しい」

「剣?」

「イプシロンがエスカのことを魔法剣士だって言っていた」

「無理無理。私なんかに習っても、たいして上手くなれないよ。それこそイプシロンさんに稽古をつけてもらったほうが良いんじゃない?」

エスカリョーネは両手を振った。エンドラルはしょげてしまう。

「イプシロンは、お前を潰すことになるって言って稽古をつけてくれない」

「そ、そうなんだ。私の師匠になってくれたけど、私は潰されたりしないよね?」

「知らない」

エンドラルはエスカリョーネを置いて、テントの方へ歩き始める。

「ちょっとー、手引っ張ってよー」

「エスカ、もう元気」

エンドラルは振り返らず、スタスタと歩いて行く。エスカリョーネは置いていかれないように、彼を追いかけた。テントに戻ったエンドラルは、外に立てかけてあった木刀を持ち、素振りを始める。

「昨日も素振りしていたよね。頑張ってるね」

「能力がないと、レンジャーとして使ってもらえない」

「エンドラルくん、レンジャーの一員じゃなかったの?」

「レンジャー見習い」

エンドラルはボソリとつぶやく。今日はエンドラルについて新しい発見がいっぱいある日だとエスカリョーネは思った。

エンドラルは首をふるとエスカリョーネの方を向き、剣を構えた。

「エスカ、勝負」

「よーし、負けないよ」

エスカリョーネもテントに立てかけてあった棍棒を持つと、エンドラルに向き合った。そして静止もせず、エンドラルに向かって棍棒を振り下ろした。

エンドラルは棍棒を木刀で振り払うと、エスカリョーネの胸元に突きを繰り出した。エスカリョーネはその突きを寸前でかわしたが、次にエンドラルの繰り出した横薙ぎが、エスカリョーネの乳房をとらえた。

「いたっ」

エスカリョーネは座り込んで胸元をさする。

「もー、エンドラルくん狙ったでしょ」

「狙ってない」

「ほんとに?」

「本当」

2人が問答を繰り返していると、2本の竹刀を携えたイプシロンが呆れた様子でやってきて、竹刀でエスカリョーネの頭をぽんと叩いた。

「子供の前で何をやってる。この痴女が」

「ちょっと待ってください。変な噂を立てないで。エンドラルくんと模擬戦をして、胸元に木刀があたったのが痛かっただけです」

「なんだ?そうなのか。木刀があたったぐらいで痛がっていたら、俺の修行にはついてこれねえぞ」

イプシロンはガハハと笑った。

「エスカリョーネ。総司令官からお前の体調が悪いと聞いていたが、もう大丈夫そうだな。今日は北の森林地帯での修行を行う。その棍棒のまま参加してもいいが、この竹刀を使ったほうが上達は早いだろう」

イプシロンが2本ある竹刀のうちの1つをエスカリョーネに差し出した。彼女はその竹刀を見て、目的のために強くなりたいと思った。体調の不安は、消えていた。エスカリョーネは竹刀をギュッと持つと、イプシロンに導かれるようにして森林地帯へと足を踏み入れていった。

 

2人はルクシオンの森林地帯を行く。大股でズカズカと歩くイプシロンに追いつくため、エスカリョーネは定期的に小走りになった。

「師匠、そういえば、キャンプはずっとあそこに設置しておくんですか?」

「いや。あと3日もしたらまた移動するさ。あそこにキャンプを張っているのは、マタリカ大陸とユークリッド大陸から兵士たちが合流してくるのを待つためだ。今日は昨日よりも、人数が増えているだろう」

「そうなんですか?気づきませんでした」

「まあいいさ。一度キャンプが動き出したら、しばらく歩きっぱなしだ。体力をつけておけよ。ここのように水と食料が手に入る、開けた場所が近くにあれば良いが。ルクシオン出身の兵の話を聞いていると、それは無さそうだ」

「開けた場所はないかもしれませんね。水と食料には困らないと思いますけど」

エスカリョーネは故郷の森のことを思い浮かべた。

「それだけでも進軍するには助かるな。さて、じゃあこの辺りで修行をつけるとするか」

イプシロンは竹刀を握り、エスカリョーネと対峙する。

「エスカリョーネ。剣道の上達論として『三磨の位』があることを教えておこう。修行の中では3つの段階が繰り返し現れる。つまり、提示された課題に取り組む『習い』、習いを反芻して消化に努める『稽古』、稽古の中から習いの新しい側面や真の意味を見つけ出す『工夫』の3点だ。ぼさっと課題に取り組むんじゃねえぞ。俺の言ったことを消化し、お前なりに理解していけ」

「わかりました!」

「竹刀を用いた基本打突の練習をする際に大事なのは、相手を叩く・切る・突くという動作の結果を重視するのではなく、相手はあくまで目標であり、自分の動作の正しさや間合いをはかる物差しのようなものと考えることだ。修行は2人1組で行うが、究極的には個人プレイでいい。

種々の素振り、種々の切り返し、付きや払いといった種々の基本打突、基本の連続技、相手の打突に応じる抜き技や返し技、種々の連続の打ち込み、そのいずれにおいても、自分自身の体の動きを最適化することに意識を集中しろ。

身体の各部位は、自分の意志で最大稼働範囲まで動かせるか、上体はリラックスできているか。体の中心の筋肉を使えているか。各動作で必要な筋肉だけを、バラバラに動かせているか。筋肉同士が干渉しあっていないか。最大パワーを最初の一瞬に出せているか。

まずは中段の構えから単純に竹刀を振り下ろす素振りをやってみろ。そうだ。それができたら次は跳躍しての素振り。・・・そうだ。最後は体側にそって手首を返しながら、剣先で8の字を描く要領で竹刀を操作し前身後退を繰り返す素振りだ。それぞれを10回1セットとし、これを100セット行う」

イプシロンは早口でまくし立てる。エスカリョーネもなんとかついていった。彼女が手順を間違えると、イプシロンは強い口調で注意した。そうして100セットが終わる頃には、エスカリョーネも少し要領を得ていた。

「だいぶ上手に振れるようになりました。手が痛いです」

「ローマは一日にして成らず。毎日続けることが重要だ。それを忘れるなよ」

「わかりましたー」

エスカリョーネは脱力しながら言った。体を動かすことで、少しはルミナスへの憎しみが紛れた。それでも、手を止めると思い出してしまう。

『どうするつもりだ』

フレスヴェルグがエスカリョーネに語りかけた。

(まずは居場所を突き止めないとね。キャンプが動く前に、ケリを付けなきゃ)

エスカリョーネは決意を新たにした。

 

***

 

その頃ミストルティンは、キャンプ地側の砂漠地帯で、サンスポットと魔法の修行を始めていた。2人の修行は、空手の型を決める準備運動から始まる。そうして一通り動いて体を温めた後、静かな砂漠の砂丘の上で始まったのは、サンスポットによる講演だった。

「基本属性の鍛錬は、身体の声に耳を傾けることから始まるわ」

サンスポットは指先を立てて言う。

「例えば指先に血液を集めるよう、意識を集中したら、指先が暖かく感じられないかしら。これが風属性の感覚です。逆に指先の血液を身体に戻そうとすると、少しだけ指の周りが冷たく感じられる、わよね。これが水属性の感覚です。熱、冷、内部。それが風属性と水属性の特徴ね」

ミストルティンはふむふむと頷いた。サンスポットは満足そうにはにかんだ。

「今度は手の甲に意識を集中します。さっきみたいに、体の内部でどうこうしているって感覚はないわよね。自分の体の外。そこに熱を発生させるのが火属性。逆に熱を奪うのが地属性ね。この2つは感覚がつかみにくいかもしれないわね」

「火属性だと思っていたものが風属性だったので、驚きました」

「ふふっ。ミストちゃんもそう思う?私も初めて聞いた時そう思ったの。魔法の難しいところよね」

サンスポットは髪をかきあげて言った。

「サンスポットさん、質問です」

「はい、どうぞ」

「火属性と風属性だと、どちらのほうが火力が出るのでしょう。今の話だと、風属性は自分の体の中から溢れる力を使うもので。火属性は外の力を借りて使うもののように感じられました。それであれば、火属性のほうが際限なく火力を高められるのかなって、思ったのですけど」

「さすがミストちゃん。良い所に気がついたわね」

サンスポットはミストルティンの鼻頭をつんと触った。

「ミストちゃんが言ってくれたとおり、風属性と水属性は内部から溢れる力を使うわ。一方の火属性と土属性は自分の外にある力を借りて使う。ここまでは良いわよね」

ミストルティンはうんうんと頷く。

「問題は、どこまでを自分の内部として捉えられるか、なのよね。内外の境界はどこにあるのか。それは自分が制御できるマナの境界と同義なの。身体の中に存在するマナはもちろん自分で制御できて欲しいけど。才能のある魔法使いは自分の体の外のマナですら制御できるわ。風属性や水属性を究めるのであれば、自分の制御できるマナの領域を広げていくことが大事よ。それらのマナは自分の思い通りに動かせるわけだから、風属性や水属性の魔法使いは安定して力が発揮できるわね」

「なるほどです。私はまだ、自分の中のマナも制御できていないです。鍛錬しないと。あ、そういえば火属性や土属性の魔法使いさんは、力が安定していないんですか?」

「これまたいいところに気づいたわね。そうなの。火と土の魔法使いはね、外部のマナと自分の波長をどれだけ合わせられるかで、出せる力が変わるのよ。お伽話で、『この魔法使いはマナに愛されている』なんて台詞が出てくることがあるわよね。それくらいマナに愛されていたら、すごい力が出せるわ。それこそ風属性の魔法使いができないようなことも、出来る時がある。火属性や土属性の魔法使いは、普段から外部のマナとコミュニケーションを取ることが重要になってくるわね」

「サンスポットさんは火属性だから、マナとのコミュニケーションが大事なんですね」

「あら、覚えていてくれたの?嬉しいわ。そうそう、私も毎日マナの声に耳を傾けるようにしているのよ。いざという時にそっぽを向かれないようにしないとね。じゃあ翻って最初に質問の答えだけれど、火属性と風属性だと、どちらのほうが火力が出るか。答えはどちらも火力が出るけど、最大出力は火属性のほうが強い。ただし安定して力を出せるのは風属性といったところかしら」

サンスポットはあははと笑った。

「高位の3魔法についても少しだけ話しておこうか。雷属性の魔法は、先ほど言ったマナの内部と外部、その境界線で生じる摩擦を利用したものよ。内外の摩擦が強ければ強いほど、強力な雷魔法が放てるわ。だから内部と外部のマナを共に強化することで、雷魔法の威力も上がっていくはずよ。ミストちゃんが目指すのはこの方向ね」

「ありがとうございます。今まで何となく、で魔法を使っていましたけど、どうすれば強い魔法が使えるようになるのか、具体的にイメージできるようになりました」

「それは良かった。私も教え甲斐があるわ。さて最後に光と闇属性だけど。・・・この2つについては私もよくわからないの。この2つの魔法が使えるかどうかは、天性の才能だと思う。おそらく、私達の住んでいる三次元プラス、マナ次元の四次元世界の外側にある何かを使った魔法だと考えられているわ」

サンスポットは指先で髪をくるくると回していた。

「あまりイメージが湧かないですね」

「そうなのよね。私の周りにも、この2属性の使い手がいなかったから、話を聴くことができないの。1つ言えることは、大人になってから光と闇の魔法を身につけた人は誰もいないということよ。この2つに関しては10歳までに素質を開花させる必要があるわ。この『精道コンパス』を作った人も、10歳で光属性の才能を開花させた魔法使いだったみたいよ」

サンスポットは不完全なコンパスを取り出して言った。

「さあ、自分のマナを広げるための練習に入りましょう。まずは静かな環境で、自分の中のマナとゆっくり語り合う時間が必要よ」

サンスポットは両手のひらを胸の前に広げた。砂丘の頂上に、石でできた台座が発生する。

「さて問題です。これは何属性の魔法でしょうか」

「つ、土属性ですか?」

「正解。さすがミストちゃん。はい、じゃあこちらの台座に座って。目を閉じて身体の声に耳を傾けて。私は横で同じようにしているから。あ、靴は脱がなくていいわよ。砂丘の上に置いとくとどっか行っちゃうから」

ミストルティンは小さくなりながら、サンスポットの作り出した台座の上に膝を置いた。ひんやりと冷たい石の感覚がミストルティンに伝わる。

「これが土属性なんですね」

「そう。火属性が得意な人は、土属性や風属性も得意なものよ。私は二番目に好きかな。冷たくて気持ちがいいからね」

サンスポットはまた、あははと笑う。ミストルティンは安心して台座に座り、目を閉じて瞑想を始めた。

サンスポットも同じように瞑想を始める。サンスポットが周囲のマナを手なづけてくれているからだろうか、ミストルティンはいつもよりも自分の中のマナを強く感じ取ることが出来た。

 

 

そんな中——。広大な砂漠の砂の中を移動する影があった。

ゼクスシュナイデが1人、『グノーシス』バール。八本の足を持つ巨大蜘蛛であるバールは、2匹の下僕の蜘蛛を連れて、この砂漠を徘徊している最中だった。

「思わぬ掘り出し物に出会えたものじゃ」

バールは砂漠から両目だけを露わにすると、砂丘の頂上で瞑想している2名の魔法使いを視界に捉えた。彼は下僕の蜘蛛に、問う。

「もちろん仕留める、でかんしょ?」

「「仰せのままに」」

「つまらんのう」

バールは吐き捨てると、下僕の蜘蛛2体に、魔法使いを仕留めるチャンスを与えた。下僕の蜘蛛たちは表情を変えなかったが、足はカサカサと小刻みに動いている。喜んでいるようだ。

「名も無き蜘蛛共、あの2名を仕留めてみせい。そうしたらお前たちに名前をつけてやろう。嬉しい、でかんしょ?」

名も無き蜘蛛たちは反応を示さず、2体でサンスポットとミストルティンを挟みこむように動き始めた。バールは八本の足をすかしていた。

 

瞑想に集中していたサンスポットが、砂漠の異変に気づいた。

「何か来るわね」

サンスポットは耳を澄ます。カサカサという砂が擦れる音がわずかに響いている。それは少しずつ大きくなっていった。

「ミストちゃん。修行は中止よ。次は実践に移ります」

「え?実践ですか?」

「おあつらえ向きの的が2つ来たみたいよ」

カサカサ、カサカサ。砂漠を進む音は次第に大きくなり、ズバアという音と同時に、黒黒とした身体を砂から現した。それは1ベルト近くある、巨大な蜘蛛だった。

「ひぇ!く、蜘蛛」

「あら?ミストちゃん苦手なの?」

「だ、大丈夫です。あまり大きいものでなければ・・・」

「めちゃくちゃ大きいわね」

「ひぇえ!」

ミストルティンは蜘蛛から顔を背けた。蜘蛛の1体がチャンスと見てミストルティンに襲いかかる、が、それを止めたのはサンスポットの作り出した石の壁だ。

「ミストちゃん。蜘蛛が怖いのはわかるわ。じゃあ、その蜘蛛に身体を掴まれたらどう思う?もしかしたら触覚で、顔を撫でられちゃうかもしれない」

「絶対嫌です!」

「じゃあ集中しましょう。相手は大してスピードもないわ。落ち着いて、身体の内外のマナに声を傾けて。体の内部のマナが、蜘蛛を怖がって震えているならちょうどいいわ。内部のマナのゆらぎが大きければ大きいほど、外部のマナとの摩擦は大きくなる。さあミストちゃん。蜘蛛に向けて雷を打って!」

サンスポットの言葉と同時に、もう1体の蜘蛛がミストルティンに襲いかかった。

「来ないでえええ!」

ミストルティンの指先から電撃が放たれる。それは蜘蛛の身体を貫通し腸に巨大な穴を開けた。

「ケ・マラビージャ!」

サンスポットが拍手している。

「ミストちゃん、もう1匹いるわよ」

「ど、どこですか」

「後ろ!」

サンスポットの声と同時に、ミストルティンの背後から蜘蛛が飛び出してくる。ミストルティンは体を屈めて、お腹のそこから声を上げた。

「やだあああ!」

ミストルティンの身体から、電流が扇状に放出された。蜘蛛はその雷撃に体を貫かれ、絶命した。

「これまたケ・マラビージャ。少し理論を学んで瞑想するだけでもこんなに違うのね。ミストちゃんセンスあるわ」

サンスポットが派手に拍手をしていた。

 

それを見ていたバールは面白くない。

「なんじゃそらあ」

砂の中で戦闘を見守っていたバールが、表舞台に姿を現した。2ベルトはある巨大な蜘蛛だ。

「ワシがやらねば誰がやる、でかんしょ?」

 

「お、大きい」

バールを見たミストルティンはたじたじになる。

「こいつは手強いわね」

サンスポットは瞬時にバールの実力を把握していた。

「ミストちゃん、さっきの2匹を倒してくれてありがとう。ここは私が引き受けるわ」

サンスポットはミストルティンを下がらせ、バールと対峙した。

 

バールは、この小さきものの抵抗を、甘く見ていた。こんな小さきものでは、ゼクスシュナイデの一員である自分に傷一つつけることはできないだろうと高を括っていた。

「プルスラスと違って、ワシは装甲に自信あり、でかんしょ?」

バールはそれだけ言うとサンスポットに突進を仕掛けた。さながら戦車のような巨体が、サンスポットに向かって一直線に向かってくる。サンスポットはそのバールを視界に捉え、自分の外にあるマナへ意識を集中し始めた。そして彼女は、笑う。

「ライナロック・エルプション!!」

彼女が両腕を目の前で交差させると、そこから巨大な火の玉が5つ発せられた。火の玉は隕石のような速さで、バールの方へ向かって飛んで行く。バールはその火の玉を寸前のところで避けた。しかし八本の足のうちの二本は、火の玉の高熱によって曲がってしまった。

「なんじゃこりゃあーー!」

バールは声にならない声を上げて、砂漠に潜っていった。

 

「取り逃がした、か」

サンスポットは右手を腰に当て、胸を張って言う。

「凄い・・・」

「火属性の極大魔法の1つよ。無詠唱で唱えられる魔法の中では、最強の攻撃力を持つ魔法ね」

「極大魔法?」

「まだ教えていなかったわね。少し先の話になるけれど、前借りして話しちゃいましょう。各属性の魔法には、誰もが使える型のようなものがあるのよ。A難度、B難度、C難度ってね。極大魔法っていうのは、ウルトラC、いわゆるD難度の技のことよ。また、雷の魔法の型も教えてあげるわね。今日はお疲れ様でした」

サンスポットはミストルティンの頭を撫でた。

「ありがとうございます。さっきの蜘蛛はまた来るでしょうか」

「わからない。でも、ここのキャンプに長居するのは危ないかもしれないわね。砂漠の警備を増やすよう、レイアスに取りあってみるわ。予定ではあと3日、持てばいいんだけれど」

サンスポットは指を折った。あと3日で、各国に散らばっている国際連合軍がこのキャンプに集結する予定になっている。そこから、贖罪の地へ向けての旅が始まるのだ。

「どちらにせよ、今考えても仕方ないわ。今日は戻ってご飯を食べましょう。狩りに出たコンボイの人たちが、鹿の肉を沢山とってきてくれているはずよ。いっぱい食べて元気をつけなくちゃね」

サンスポットはバールとの戦いなど無かったかのように、朗らかに笑った。

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