gaiden1

(+α)

 

しかし。

この話には続きがあった。

その未来に生まれる最高のバンドすらねじ伏せるほどに美しく儚い、透き通る歌声を耳にする前の事だった。

アイン=スタンスラインはふと違和感を覚えた。

そう、あれほど妹を想っていたはずの姉がいつまで経ってもこちらにやって来ないのだ。

「ステラ……?」

背後を見る。

戦いの最中、ずっと屋上の隅にいたステラは、やはりそこにいた。

だが何か様子がおかしい。キョロキョロと、まるで周囲の情報を取り込む事に必死であるかのように、忙しく辺りを見渡していたのだ。

「ステラ? ステラ、大丈夫か?」

「あっ、お姉ちゃんだ!」

棺から飛び出して駆け寄って行く歌姫のレベッカに続き、アインもステラに近づく。

すぐに妹の姿に気づいたのか、少年とお揃いの赤と白の防寒具を纏った少女はレベッカを抱き締める。

「まったく、どうしたんだステラ。レベッカを無事に保護できてホッとしたのは分かるけどさ」

いつも通りとも言える、憎まれ口が返ってくるかと思った。

あるいは、初めてお礼を言われたりするのかもしれないとも。だけどそれは必要のない言葉だ。アインが勝手に首を突っ込んで、勝手にレベッカを助けただけの話なのだから。

しかし、流石にその天才的な頭脳でも、『その言葉』は予見できなかった。

 

「あっ、あなたは誰なのです!? わたくしの妹を拉致した犯人であれば容赦はしないのです‼‼‼」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

本当に何を言われたのか、一切として理解できなかった。

ただその瞳を見れば分かる。怯えに混じる完全な敵意。もはや今日という時間を積み上げて培ってきた信頼は存在しない。

「何が……?」

まるで傷ついたレコードのように、ステラ=サンクチュアの記憶が飛んでしまったのだ。

何で、どうして。

そんな疑問を解消する事も忘れて、アイン=スタンスラインはただ呆然とする事しかできなかった。

「一体何が起きたんだ……???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

From_Another_World.

 

 

「ああ、もうこの姿をする必要もないのですね」

長い赤髪に赤白のコート。果たして白いミニスカートを穿いていると、一目見ただけで見抜ける者はいるのだろうか。

同色のマフラーと手袋を取り外して、ステラ=サンクチュアと全く同じ姿形をした少女は告げる。

「ふう」

真っ白、では足りないほどの純白の世界であった。

そして変化が起こる。

しゅるしゅるしゅる……という衣擦れの音と共に、赤と白の服、足元の茶色のブーツまでが空気に溶けるように解けて、やがては完全に消えていく。

一秒後にはすっかり裸になった少女は、しかし指を一度鳴らすだけで材質不明瞭な白いドレスに覆われていた。

赤色だった髪の毛もどんどん色素が抜けていき、長い白髪へと早変わりする。

裸足が好きなのか、真っ白な美しい足でペタペタと音を立てて、地平線しかない白い空間をどこまでも歩いて行く。

黄金比の美しさを誇る美少女はぶすう、と人間らしく唇を尖らせる。

「むう。静かなのもつまらないのです」

白い少女がパチンと音を鳴らすと、洋服のタンスが現れた。

少女がそこに赤白のマフラーと手袋を収納すると、途端にタンスが空気を振動させて話し出した。まるで鍵盤か何かのように、数多ある収納用の引き出しをパカパカと開閉させて声を奏でたのだ。

『お疲れさん、ミス・シャーロット=キャンバス。「海外旅行」はどうだったんだよ?』

「ええ、そうですね」

どうやらタンスに意志があるのではなく、タンスに通信機器のような機能を搭載して、誰かと話しているらしい。

『復元』などではない。

そんな安いテクノロジーでは語れない、何か『技術レベル』などという言葉にカテゴライズできない高次の現象であった。

ステラ=サンクチュアの皮を脱ぎ捨て、シャーロット=キャンバスとなった少女は土産話を持ち出した。

「今回の視察は悪くなかったのです。わたくしと全く同じ口調の少女がいたというのもなかなかに楽しめました」

『だけどアンタの行動は全部そのステラって子が起こす行動を模しているんだろう? つまりアンタの意志が介在する余地はない。アンタは人格を乗っ取れるだけで、シャーロット=キャンバスで動く事はできないはずだけど』

「ええまあ、そんな事をしてしまえば世界の法則が乱れますし。ただ、それでも有意義だったと言っているのです」

『へえ、そりゃまた。まあ? 確かにアンタが別の次元から持ち帰ったものを大切に取っておくなんて珍しいからなあニヤニヤ』

「う、うるさいのですタンスのくせに」

『タンスじゃねえよ話している俺はダンディーなイケメンだよこの野郎!!』

マナ次元や二次元三次元、六次元などという言葉も存在するが、きっとここがどの次元なのかを定義する事に価値はない。

『彼女』を縛るものなどこの世に存在しない。

そもそもとして、神という枠などにカウントしてはいけないはずだ。

そんな有限の次元のものと同列に見る事自体が、シャーロット=キャンバスへの侮辱となってしまう。

約二〇〇〇年前に勃発した最終戦争。その際に開発された神をも穿つエーテル兵器など、おそらく彼女は指先一つで弾き飛ばせるだろう。

どころか、指を鳴らすだけでこの世の法則を変えて全てを滅ぼす事さえ。

「……アイン=スタンスライン、か」

創造主にして支配者。

……そう思い込んでいる神すらも、母性の塊のような包容力でもって慈しみ世を閲覧する唯一の少女。

神とシャーロット。

おそらく、どちらが優れているかを論じる事に意味はない。そもそもシャーロットの役割は、数多ある世界の行く末を見守る事なのだから。

青い瞳をした少年など赤子にしか映らないほどの知能を誇る純白の少女は、しかしわずかに頬を染め、まるで温かい思い出を反芻するかのようにこう告げた。

「思いのままに人生を謳歌すると良いのです。それが結果として世界を変えていくのであれば、わたくしはそれを見てみたい」

その透明な瞳は愛というよりも、慈悲の色が溢れていた。

どんな局面になっても、ステラ=サンクチュアの持つサンタクロースのインスピレーションの力を借りようとはしなかったあの少年を思い出しながら。

「この物語は秘匿としよう。あなたの記憶からも、その他の物的記録からも、何もかも全ては消しておく事にするのです」

シャーロットの手にはスマートフォンがあった。

マルチバースの観測者たる象徴。

この世の全ての情報が検索できるそのデバイスには、先ほどまで行動を共にしていた少年の顔写真とどこまでも詳細なプロフィールが映し出されていた。

トントン、とスマホを叩き、記憶消去に必要な操作を完了させる。

やがて飽きたと言わんばかりにスマホを放り投げて、もう一度パチンと指を鳴らす唯一無二の白い少女。

途端、地に落ちようとしていたスマートフォンと言葉を話す洋服タンスが白い空間から消失する。

この一秒すらも支配しながら、白き少女は観察と観測のためにその地を歩く。

シャーロット=キャンバスはただ一人、次の時代へと進んでいく。

「まあ、あなたほどの知性を持ってしても」

そして、誰もいない地平線だけの純白の世界で彼女は告げた。

あるいは、全く別の世界にいる赤子同然の少年に向けて。

 

「それでも、この世の一〇〇%を変える事などできないでしょうけれどね」

 

 


こちらの作品は東雲良様からいただきました!
本編第1章オースティア、エル・クリスタニアアカデミー時代の一幕を、
軽快なタッチで描いていただきました。

ウィットに富んだ会話劇にも注目です。

■東雲良様
小説家になろう:http://mypage.syosetu.com/551118/
Twitter:https://twitter.com/NVL_camvas812


朝  騒がしい茶会(1)
朝  騒がしい茶会(2)
朝  騒がしい茶会(3)

昼  摑みどころのない本質(1)
昼  摑みどころのない本質(2)
昼  摑みどころのない本質(3)
昼  摑みどころのない本質(4)

夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(1)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(2)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(3)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(4)
From_Another_World.
? No_Recording.
あとがき(東雲良さま)

 

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