第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか

パンサーとローディアは、厳かな装飾が施されたドアを開けた。

パンサーの目に飛び込んできたのは、紫色の髪をした、翼を持った中性的な男性だ。その瞬間に彼はディーオーエムオーの言った対消滅は起こらないと安心すると同時に、神というものの神格性を再認識した。

『あ、よかった。やっぱり神様はこうでないと』

パンサーは右手を自分の左胸にあてる。いつもよりも鼓動が脈打っていた。

けれどもパンサーは、セフィロスの表情に違和感を感じていた。神の表情は、この場にいる誰よりも悲しそうに見えたからだ。

 

「セフィロス様、お目にかかれて光栄です。私はローディアと申します。プロスフォラ様のご紹介で来ました。あの、9年前、私に声をかけてくれたのは、あなたですか?」

ローディアは恍惚した表情で話す。セフィロスはゆっくりと口を開いた。

「私は、復元者を道具だと考えている」

セフィロスには、ローディアの気持ちなどまるで届いていないようだった。

「そんな私が、君に声をかけられるとは思えない。君の耳に届いた声は、君自信の創り出した幻だ」

セフィロスの言葉は、ローディアの期待を打ち崩した。

「そう、ですか」彼女は涙を浮かべていた。

「私は精神の神、だが。今私の心を満たしているのは、怒りだけだ。同胞の神を殺された怒りだけが私を突き動かしている」

セフィロスの言葉を聞いて、部屋の真ん中を闊歩したのはディーオーエムオーだ。

「それがお前の活動の根源かい」

ディーオーエムオーはセフィロスの目をまっすぐに見た。あまりに不細工なジャガイモと美形の神の絵面は、はたから見ると笑いそうになる。笑いをこらえるパンサーの隣で、ディーオーエムオーは真剣に話し続けた。

「なぜ世界が存在するのか。なぜ世界がこうなっているのか。それを突き詰めたとき、あらゆることに原因がある。よって世界が存在することにも原因がある。それは普通の物事ではありえず、原因としての神が存在する。これを神の宇宙論的証明という。世界を創りだした神は全知全能、かつ完全なる善でなければならない。そう考えたとき、お前は本当に神かという疑問が湧く。怒りという色にまみれたお前は、神の資格を失っている。例えば神とは、私のように冷静な存在のことを言うのではないかい?」

「神を語るジャガイモとは、新しいな」

セフィロスの言葉に、ディーオーエムオーは癇癪玉のように怒りだした。

「ジャガイモとは誰のことだい! 私は神ぞ! ディーオーエムオーぞ!」

「君の理論が正しいなら、君も神では無さそうだな」

セフィロスは苦笑した。彼は立ち上がると、両手と翼を広げて訴えかけた。

「例えば君が友人を殺されたとして。その事実をどう受け止める? 友人を殺した存在に対して怒りを抱くことは、神であっても正常な反応ではないだろうか」

「それが神らしくないと言っとるんだい」

ディーオーエムオーは足を揃え、腰に手をあてて言った。

「神に友人など必要ないだろう。ディーオーエムオーランドの管理人は1人だけだい」

「神は世界の管理をしてはいないよ。神も賽を振るのだ」

セフィロスの言葉に、ディーオーエムオーも頷いた。

「そりゃそうだい。私とて、この世界にわからないことはたんとある。万物の動きの全てに確率が存在していて、神ですら把握できない奇跡が起こることももちろんあるぞ。しかし神は、それらの事象に心を揺るがされる必要はないだろう」

ディーオーエムオーはふぉぉと言いながら両手を天空へ掲げ、目を見開く。

心なしかディーオーエムオーに後光が差しているように見えた。

「世界は神を中心に回っている。神はこの世界にとって太陽のような存在だい。ならば神は、自分のことだけ考えていればいいんだい!」

「君は究極の利己主義者だな。それは神ではない。モンスターだ」

「それはお前だろう。人間たちに哀しみしか与えられない、神の姿をしたモンスター。それがお前だい」

ディーオーエムオーの言葉へ、セフィロスは僅かに反応した。

「君の精神を喰う」

「私を捉えられるかい」

ディーオーエムオーはセフィロスを中心に真円を描きながら、床を滑り始めた。

「ディッディッディッ」

ディーオーエムオーは回転のスピードを上げていく。次第にディーオーエムオーの姿が断続的に見えるようになった。今やセフィロスから一定の距離に、ディーオーエムオーが確実に存在しているという証拠はない。陽子の周囲を回る電子のように、ディーオーエムオーの存在は波動関数で求められる確率でしかない。

「自分の存在を確率に昇華することで、私に捉えられないようにしたつもりか。だが」

セフィロスはディーオーエムオーの存在確率を瞬時に計算し、精神を喰う方向を定めた。彼が精神を喰うと決めたのは、ローディアの居る場所だった。

「君にも情があるはずだ。必ず、君は彼女を守る」

セフィロスの体から金色の影が飛び出し、ローディアへと迫る。しかし、セフィロスの読みは外れた。ディーオーエムオーはその時、遥か上空で優雅に佇んでいたのだ。

ローディアの精神が、喰われる。

 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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