プロスフォラは、長い外套を引きずって赤絨毯の上をゆったりと歩き、部屋の真ん中まで来たところでディーオーエムオーと対峙した。

ローディアとパンサーは、目の前のパンとジャガイモのにらみ合いにめまいを感じながらも、事の顛末を見守っていた。

最初に動き出したのはプロスフォラだ。このパンは外套を脱ぎ捨てると、両手をピンと張って絨毯につき、それから額を絨毯につけて三点倒立をした。

「なんだ? 何やってるんだ?」

パンサーは事態が飲み込めない。

この大道芸の意味を察したのはディーオーエムオーだけだ。

「なんと美しい三角錐だい。額から両手の先、足先までの長さが完璧に一致している。3次元単体とも呼ばれる、3次元ユークリッド空間の基礎となる図形だい」

「プロプロプロ。この図形の意味を察することが出来るとは、貴殿は只者ではないな。だが、ならばこそ、この3次元単体の美しさの前にひれ伏さざるをえない」

プロスフォラはさらに両手両足をピンと張り、完璧な三角錐へと近づく。

だが、ディーオーエムオーはビクともしない。もちろん後ろでこのパンとジャガイモのやり取りを見ていたローディアとパンサーもピクリともしていないが。

「なぜだ! なぜお前はそんなに冷静でいられる!」

プロスフォラは取り乱した。

ディーオーエムオーはプロスフォラの顔を覗き込むようにして言う。

「そらそうだろう。なんでお前は三点倒立しとるんだい」

ディーオーエムオーの辛辣な言葉が突き刺さる。プロスフォラはその場にコロリと倒れた。ディーオーエムオーは後ろで手を組んで、周囲をウロウロしている。

「それがお前の全力かい。ならば私が神の煌めきを見せてやろう」

ディーオーエムオーはそう言うと、ローディアとパンサーの方を向き、無表情で真っ直ぐに歩き始めた。すると不思議な事が起こった。ディーオーエムオーの身体が右斜め上に浮かび上がり、それから地面へと沈んでいったのだ。ローディアの目から見ると、ディーオーエムオーは螺旋を描いて回っているようにみえる。

「こ、これは・・・」

プロスフォラは動揺を隠すことができない。ディーオーエムオーはまわり続ける。

「どうだい。この空間を複素数空間と仮定すれば、私の描く螺旋が何を示しているか、お前ならばわかるだろう。ただの螺旋ではないぞ。私の動きを実数平面、虚数平面に投影してみなさい。それは三角関数の波のグラフを描いている。つまりこれは」

プロスフォラは信じられないという風に頭を振る。

「e^ix=cos⁡x+i sin⁡x・・・!」

「その通り。これこそが神の方程式、を導くオイラーの公式だい」

「お前は、本当に神なのか?」

プロスフォラが問う。ディーオーエムオーはコクリと頷いて即答した。

「そうだい。すべての生命は私が育てた。そこにいる者たちも私の息子たちだい」

パンサーはこの言葉に納得できなかった。勝手にこのジャガイモの息子にされている。しかも人類全員が、だ。それは人類に対する冒涜ではなかろうか。

「そうか。だが、それはセフィロス様の言葉と矛盾する。復元者はセフィロス様の創りだした存在のはずだ。つまりどちらかが、嘘をついている」

その言葉にパンサーも頷いた。ディーオーエムオーの言葉が虚言で間違いない。

だがディーオーエムオーは哀れみの目でプロスフォラを見、首を振る。

「どちらが嘘かを今証明することは出来んぞ。セフィロスとやらに会ってみなければ」

「私も、どちらに仕えるかを判断しなければならない。貴殿に神の居場所を教えよう。どうか、私の仕えるべき神を証明してくれ」

プロスフォラは頭を下げた。ディーオーエムオーはプロスフォラの丸い頭をじいっと見ている。そこへローディアが駆けつけた。

「プロスフォラ様。私もセフィロス様に会わせてください。私は9年前、1人ぼっちになったとき、セフィロス様の声を聞いたような気がしました。優しい声でした。その声に導いていただいて、神衛隊に拾ってもらえたのです。どうか1度だけ。1度だけでもセフィロス様にお会いしたいのです」

プロスフォラは、ローディアの頭へ短い手をそっと載せた。

「君のことは覚えている。ずいぶん大きくなったね。あの頃の君は、兄と生き別れてずっと泣いていた。いいだろう。君もセフィロス様のところへ行きなさい。そして君の過去にけじめをつけるんだ」

プロスフォラはパンサーの方を見た。この古びたパンは、ローディアとパンサーの関係を見抜いている。頭を掻くパンサーへ、プロスフォラは声をかけた。

「君も一緒に行くんだよ」

パンサーはプロスフォラの言葉を聞いて背筋を伸ばし、頭を下げた。

「プロプロプロ。ではセフィロス様の居場所を教えよう。セフィロス様は・・・」

言いかけたところだ。ローディアの隣の僅かなスペースへディーオーエムオーが颯爽と駆け寄り、プロスフォラの頭を思い切りトゥキックで蹴り飛ばした。ドカァと音がして丸い頭が首から取れ、斜め45度の角度で飛んでいく。

「・・・え?」

ローディアの声が漏れた。その場の誰もが唖然としている。

「プロスフォラー!!」

パンサーが叫ぶ。眼前ではディーオーエムオーが右手を上げて勝鬨をあげていた。

 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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