「なんだよ、冗談だろ?」

パンサーは目に涙を浮かべていた。再会したローディアは背が高くなり、髪が伸びていたが、パンサーの知っているローディアの面影があった。パンサーはローディアに触りたい衝動を押さえきれず、一歩足を踏み出してしまう。そのとき、神衛隊の隊長と思しき人物が、2人の間に立ってパンサーの動きを静止した。

「我々は神衛隊だ。神の命を受けてこの周辺の治安を守っている。先日、ここに銃を持ったハンターが出たと聞いている。君たちのことも調べさせてもらおう」

「ご苦労だったな」

言ったのはディーオーエムオーだ。腕を後ろで組み、胸を張って神衛隊の真ん中をスタスタと歩いていく。パンサーはこのとき、ローディアを連れてきてくれたディーオーエムオーに神格性を感じつつあったのだが、ディーオーエムオーの一言を聞き、彼が元から神衛隊とつながりがあり、自分を崇拝させるために奇跡——バタフライ効果の演出をしただけなのだと想像した。

「ディーオーエムオー、お前」

パンサーは失望した様子で呟く。しかし神衛隊から発せられたのは意外な言葉だ。

「誰だ?お前は」

冷たい視線がディーオーエムオーに注がれる。

「なんでだい! お前たちは神の使いじゃないのかい!? 神の顔を忘れるとは何たることだい!」

ディーオーエムオーはほらがいを吹いた。隊長は頭を抱えており、ローディアがかわりに話をし始めた。

「我々はセフィロス神の元で働いています。神を愚弄するなら、あなた達を処罰する必要が出てきます」

「ディーオーエムオーランドの住人が何を言っとるんだい! 私をセフィロスのところへ連れていきなさいよ。神の名を語る道化は処罰しなければならんぞ!」

それはお前のことじゃないのか?とパンサーは思いながらも、目を大きく見開いて何かを発しながら癇癪玉のように憤怒しているディーオーエムオーを見つめていた。

「わかりました。それではセフィロス神のところへお連れしましょう」

ローディアは呆れたように言った。ディーオーエムオーは自分の発声の衝撃でひっくり返っていた。

「ローディ・・・」パンサーが声をかけようとするが、彼女は聞く耳を持たない。

「2人に手錠をかけておいてください。あのジャガイモにはさるぐつわも」

 

神衛隊の乗るトラックの荷台に乗せられた2人は丸い手錠を付けられていた。パンサーは右手、左手のそれぞれにはめられた手錠と、それをつなぐ鎖に目を落とした。

『結局一言も話せなかったな』

隣を見ると、手錠とさるぐつわに加えて、目隠しまでされたディーオーエムオーが佇んでいる。

『こいつもすっかり静かになっちまって』

パンサーは笑うと、リアウインドウ越しにローディアの姿を見た。

「お前、ローディアだよな?」

パンサーの言葉に、ローディアが振り向いた。

「ジロジロ見ないで」

「やっぱり。大人っぽくなったけど、ローディアだな。兄貴、覚えてないか?」

「馬鹿なことを。今更、そんな姿で私の前に現れないで」

彼女はプイと前を向いて、リアガラスを上げた。パンサーは天上を見上げる。

「随分嫌われちまったな。俺はこんなに変わってねえのに・・・何でお前はそんなに変わっちまったんだ? 訳が分からねえよ。一緒にいたはずじゃねえか、なあ」

パンサーは膝を抱えた。すると、パンサーの肩に手を置く人影があった。

「お前の周りの時間が止まっていたのではないかい?」

声の主はディーオーエムオーだ。彼は拘束具を脱ぎ捨て、堂々と立っている。

「な!? お前、ディーオーエムオー。動けないはずじゃ」

「神の動きを止めることができると思ったかい。私のいた場所を見てみなさい」

見るとそこには、渦を巻いた手錠とさるぐつわ、目隠しが落ちていた。

「これは対数螺旋と呼ばれる螺旋だい。美しいだろう? 私に触れたものは、全て美しくなる運命にあるのだい」

ディーオーエムオーは胸を張った。パンサーもその手錠を拾い、まじまじと見た。

「不思議な図形だな。見ていても飽きない」

「オウムガイの殻や、台風、銀河の渦巻きにも見られる形ぞ。例えば中心を一定の角度で捉えながら移動すると、自然と対数螺旋を描くことになるんだい。隼が獲物を捉える時の動きを想像してみるといいだろう。私が実践してやってもいいぞ」

ディーオーエムオーは、パンサーを中心に一定の角度で捉えながら周囲を滑って接近してきた。螺旋の中心では凄い早さになり、パンサーにぶつかる寸前で止まる。

「わかった、わかった。すげえ威圧感を感じるから止めてくれ」

「ディッディッ。ちなみに対数螺旋を描きながら遠ざかっていくと、ものすごい早さで遠ざかっていくことになるから気をつけるようにな。このトラックの荷台程度ではすぐにはみ出してしまうぞい」

パンサーは、ローディアも自分と同じ1点を見つめていたのだと、そして2人が隔てた時間の間に、2人は遠く離れてしまったのではないかと、そんなことを感じた。

 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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