第4項 バタフライ効果

パンサーがディーオーエムオーをもう1度穴から救い出した後、2人はこれからの旅の目的について語り合った。

「俺は妹を探したい。きっとどこかにいるはずなんだ」

「そんな暇があったら素数でも数えていなさいよ」

ディーオーエムオーから容赦のない言葉が浴びせられる。

「おい、ディーオーエムオー、1つ言わせてくれ。素数数えてる方が暇だろ?」

ディーオーエムオーはふるふると首を振り、スタスタと歩きだした。

「我々は登らなければならないだろう、この無限に続く素数階段を」

2歩目、3歩目、5歩目、7歩目、ディーオーエムオーが少しづつ浮いていく。

「ま、まじかよ? 空も飛べるのか、お前」

「君には見えないのかい? 世界は数字にあふれているんだい。その法則に従えば空を歩くなどたやすいことだろう」

パンサーは目を凝らしてみたが、ディーオーエムオーの足元の階段は見えない。

「だめだ、俺には見えねえ」

「そうかい。ならば仕方ないぞ。ではお前にディーオーエムオーを降ろす権利をやろう。素数階段は無限に続くからこのままでは私は大気圏を突破してしまうぞい」

「降りれねえのかよ」

パンサーは呆れながら、ディーオーエムオーを持ち上げ、地上に降ろしてやった。

 

「それで、妹を探していると言ったかい?」

「お、おお。何とか覚えていてくれたか」

「私は神ぞ! ディーオーエムオーぞ! 一度聞いたことは、八百屋のオレンジをピラミッド型に並べると一番沢山入る証明ができるくらいの期間は忘れないんだい」

「それ明日には忘れてねえか?」

パンサーは笑う。ディーオーエムオーは起立して腰に手を当てて静止していた。

「で、ディーオーエムオーはどうする?」

「バタフライ効果を使って、お前の願いを叶えてやろうかい」

「は?」パンサーは眉間にしわを寄せた。

「俺の願いって、妹に会いたいってことか? お前ローディアを知ってるのか?」

「1ミリも知らんぞ。しかし君は1人でもその子を探しに行くのだろう? ならば私が共に行くことで、妹を探すという行為の初期状態にわずかな変化が及ぼすことができるだろう。初期状態が違えば、結果は大きく変わるんだい。これをカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性、通称バタフライ効果と言うぞ」

「よくわからねえけど、一緒に探してくれるってことだな。まあ、1人で旅してたら、気が滅入っちまいそうだから、ディーオーエムオーが来てくれるなら有り難いな」

「あたりまえだい! では、さっそく羽ばたこうかい」

「おいおい、バタフライ効果ってそういう意味か? 俺は空なんて飛べねえんだぞ」

「1匹の蝶の羽ばたきが別の場所で竜巻を引き起こすかもしれない、というのがバタフライ効果の語源だい。ならば、私の羽ばたきにもそれくらいの効力があるだろう。ディーオーエムオーの羽ばたきは君の妹をここに連れてくるはずだい」

「そんな馬鹿なこと・・・」

パンサーは言いかけて止めた。ディーオーエムオーは真剣に麦畑に向かって、一度だけ、手を羽のようにしならせて振った。

——しかし風1つ起こらない。

「なあ、ディーオーエムオー。いくらなんでもそんな魔法みたいなこと起こらねえよ」

「まあ待ちなさいよ。ここにキャンプを張って、何日か休むぞい。バタフライ効果は長期になるほど大きな変化をもたらすからな」

ディーオーエムオーの自信に、パンサーも頷いた。彼らは麦穂で風をしのぎながら、近くの木になっている果物を食べて腹を満たし、その場に数日間滞在した。

 

ディーオーエムオーの羽ばたきは風1つ起こさなかったが、その場を飛んでいた小虫に影響を及ぼしていた。ディーオーエムオーの手を避けるために小虫は軌道を変え、それによって動きの大きくなった小虫は、近くのバッタによって捕捉された。次の瞬間には、ジャンプしたバッタが、パクリと小虫を捕食していた。バッタは小虫を咥えながら向かいの麦に着地し、麦が揺れる。その揺れに気づいたのはあたりを飛び回っていたセッカだ。セッカは、麦に捕まって足元が安定するのを待っていたバッタに向けて滑降し、そのまま咥えた。バッタは暴れるが、しかしセッカは無情にもクチバシに力を加え、バッタを絶命させる。大きな獲物を捉えたセッカは近くに着陸し、ゆっくりとバッタをつついていった。それを見ていたのはキツネだ。このキツネは音もなくセッカに忍び寄り、鋭利な爪でセッカの羽を掻いた。セッカは身動きが取れなくなり、キツネによって捕食された。キツネが満足そうにセッカを食べていると、あたりに雷鳴のような破裂音が響いた。ハンターがライフルを使ってキツネを仕留めたのだ。

この一角ではハンティングは禁じられているが、キツネやタヌキがよく見られるので、時折このようにハンターが現れる。その銃声を聞いたのは、教会を守る兵士たちだった。彼らはここ最近、ハンターの活動が活発になっていることを懸念していた。一般人に影響が及ぶことを危惧した隊長は翌日、オルヴェンスワンの神——セフィロス直属の部隊である神衛隊に連絡をして、警備を増強するよう伝えた。

そして3日後、麦畑に派遣されてきた神衛隊を見たパンサーは、目を疑った。

この神衛隊に、ローディアが所属していたのだ。

 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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