第3項 不完全性定理

「地上はどんなところなんだい? 私は地上を見たことがないんだい」

ディーオーエムオーはパンサーに語りかけていた。

「私もその穴を通って地上に出たいんだい。しかしどうにも足が滑って、穴を登ることが出来ないんだい」

パンサーは、滑るにも程があるだろうとツッコミながらも、この茶色の物体がたった1人でこの空間に閉じ込められていたのだと気づいた。

「なんだよ、だからお前スケートをして、時間を潰してたのかよ」

「神様の遊びだい」

パンサーは苦笑して、ディーオーエムオーを見下ろしていた。

「じゃあ、外に出ようぜ。俺がお前を押して歩いていけば、お前も外に出られるだろ」

パンサーの言葉に、ディーオーエムオーがムクッと起きる。

「神を解き放つものが現れたのかい! 私は神ぞ! ディーオーエムオーぞ!」

「はいはい」

パンサーはディーオーエムオーの手をつかむと、穴の方へ連れて行った。穴の正面にたどり着くなりディーオーエムオーはピョンと跳ねて穴を登り始めるが、直立不動の状態でズザザと音を立てて滑り落ちていく

「押してやるよ」

パンサーはディーオーエムオーを押しながら、穴に足をかける溝を掘りながら登っていく。ディーオーエムオーはパンサーに押されながら、ほらがいをボォーボォーと吹いていた。

「外に敵兵がいるかも知れねえから、ほらがい吹くのやめろ」

「神に歯向かうものがいるのかい?」

「腹をすかせた悪鬼どもさ。お前、ポテトサラダにされても知らねえぞ」

「ディッ」ディーオーエムオーは背筋をピンと伸ばした。

パンサーはディーオーエムオーを見て苦笑いを浮かべていた。

「そのままにしてろよ」

パンサーは一歩ずつ、長い穴を登り続けた。10ベルト程度登ったあとにディーオーエムオーが滑り落ちて、わなわなと怒りに震えたりもしたが、パンサーは諦めずに再度穴を登り、目的地に到達した。

穴の出口から、仁王立ちのディーオーエムオーが生えてくる。

「これが地上かい!」

ディーオーエムオーはパンサーに持ち上げられていた。

「おい、地上に着いたならどいてくれ。重いんだ」

ディーオーエムオーはパンサーの声に頷くと、隣の芝生に体育座りをした。

初めて見る麦畑に感動しているようだった。

「どうだよ地上は」

「やはり私の力は素晴らしいな。神の創る世界はこれほど美しいのかい」

「また言ってやがる」

「本当のことだい。お前は私を神ではないと言うが、ディーオーエムオーが神ではないという公理を使って、この世界が美しい理由を証明してみなさいよ。必ず矛盾が発生するだろう」

ディーオーエムオーは麦畑をガサガサと踏み荒らして、虫や小動物を探し始めた。

「しかしディーオーエムオーが神だという公理を使っても、どこかで矛盾が発生するだろう。どんなに正しい公理に対しても、矛盾する公理を創ることができるからな。そのとき、どちらが嘘の公理かを判断することは出来ない。ディーオーエムオーを神とした定理も、ディーオーエムオーを神としない定理も作れるからな。これが理性の限界ぞ。真理は証明できないんだい。これを不完全性定理というぞ」

ディーオーエムオーは毛虫を捕まえ、パンサーに見せた。

「例えば神である私でも、こんなに足のある動物がいることは知らなかった。全知全能の神にも知らないことがあるんだい」

「お前が神様じゃないって前提にすれば、矛盾はないんじゃないか?」

「いや、それは考えるまでもない。どこかで、ディーオーエムオーが神でなければ説明のつかない部分にたどり着くだろう」

「・・・そうか?」

パンサーは首を傾げた。

「そりゃあそうだろう。その証拠に私は、神の佇まいをしているではないかい」

ディーオーエムオーはスクッと立ち上がると、麦畑で一歩を踏み出した。このジャガイモはカーリングの球のように麦畑を滑っていく。

「ここでも滑れるのか!」

「ディッディッディッディッ、ディッディッディッディッ」

ディーオーエムオーは加速しながらフォアクロスで麦畑を大きく縦断した。そして。

先ほど登ってきた穴にスポッと落ちた。

「ああ!? おい! ディーオーエムオー!!」

「ディーーオーーエム、オーーかーーい」

ディーオーエムオーの声が穴にこだましていた。

「お前ふっざけんなよ」

パンサーはディーオーエムオーを抱えてもう一度穴を登らねばならないという事実に、頭を抱えた。

「もう、放っていこうかな」それはパンサーの心の声だった。

 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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