gaiden1

 

遠い。

本当に洒落で済まないレベルで目的地が遠い。

「寒過ぎるのです!! これ本当にどうにかならないのですか!?」

「……公共交通機関はこの大雪で完全に停止。他の移動手段もスリップなんかの危険で危なっかしい。何だかんだで徒歩しかないんだよ」

「それは唇と手の先と太腿を痙攣させて言うものじゃないのです!!」

「仕方ないだろう、ない袖は振れないんだ。……いやあ、それにしても格好つけて喫茶店を飛び出したは良いけどさらに雪が強まっていないかな? ちょっと泣きそうというかもう眠いんだけど」

「寝たら死にます!! 雪山でもないのにどうしてこんな台詞が飛び出すか教えて欲しいでしょう? だったら言いますが何なのですその薄着!? コートも羽織らずにパーカーのみの上着、しかも中身はノースリーブの肌着とか!! 大馬鹿野郎なのは分かりましたから根本的な命の限界ってのを知るべきなのです!!」

「ふっ、分かっていないねステラ。これは外と内で色が違うオトナなパーカーであって、ノースリーブは動きやすさとクールさを兼ね備えた完璧なファッションなのさ(がくがくっ!!)」

「完璧なファッションでしたらそんな震えは発生しないのです」

アインでさえ適当な事を口走ってしまうほどの極寒なのだ。

はあ、というステラのため息ですら、かじかむ指先を温めるために利用するほどであった。

本拠地までは約一〇キロ。

交通網を使えばそう大した距離ではないが、今は完全に大雪でアクセスが死んでいる状態だ。

徒歩にてマルルト一二人の使徒が使っているらしい会議用の小屋を目指す。

そして四〇〇メートルほど進んだだけで限界が来た。

「だっ、ダメだ! せめて手だけでも保護しよう。ステラ、どこかで手袋を買っても良いかな?」

「大賛成なのです。手がかじかんで肝心な場面でナイフも握れないようでは死んでも死に切れないのです……ッ!!」

夕方から祭りがあるからか、それとも単純にクリスマスイヴ効果だからか、まだ昼前だというのに辺りは喧騒で賑わっていた。

仮面などをつけて仮装をしている数名のグループとすれ違うが、頭から二本のツノを生やした美女のトナカイのコスプレに注目している余裕もない。

食事やプレゼント用のショップなどの出店も多く軒を連ねる予定だ。多少フライング気味だが少し多くチップを渡せば、手袋の一つや二つは売ってくれるはずだ。

この辺りはレジ打ちを必要としないレシート無用の出店ならではの利点だったりする。

そんな訳でプレゼント用らしい冬物を売っているショップに目をつける。いかに綺麗に見えるかと商品の陳列に悪戦苦闘していた、物腰の柔らかそうな中年の男性に声を掛ける。

「すっ、すみません! 手袋を二つほど欲しいんですけど!!」

「はっは、何だ兄ちゃん。この時期に手袋とコート忘れるなんざあり得ないぞ。追い剥ぎにでも遭ったのかよ」

「あはは……。ちょっと色々不幸が続いていまして」

「そうかい。まあクリスマスイヴは始まったばかりだ、楽しんで行こうぜ」

気前良く手袋を二つと、おまけにマフラーまで売ってくれた中年の男だったが、ややお節介が過ぎた。

お金を払って出店を離れると、早速ステラ=サンクチュアがこんな風にぼやいたのだ。

「どうしてペアルックなのです……ッ!?」

「この時期に男女で歩いていたらそう思われても仕方がないんじゃないかな、自然の摂理というか。……はふう、マフラーだけでもこんなに違うものか。これなら凍死しなくて済みそうだ」

「しかも赤と白のカラーをチョイスしてわたくしのファッションに合わせる辺りもニクいのです……ッ!! 普通にお気に入り認定しそうですし!?」

「ええと、それの何がまずいの?」

「わたくしにもミニスカサンタの服装にプライドというものがあるのです」

「ああ、確かに街で見かけるミニスカサンタコスって可愛いよね。王道で不動の人気ばヴぉあっ!?」

「……今、あのクソ邪道をわたくしと同列に見たのです……???」

アンバランスな淡い青のズボンの上に赤白のマフラーを装着するアインの語尾が解読不能になった理由は簡単だ。

毛糸の手袋を纏ったステラの手が地面に積もった雪を摑み、両手で包んで氷の結晶を砕きつつ圧縮したと思ったら、流れるような動作でその卵の殻よりも硬そうな雪玉を少年の顔面にぶつけたのだ。

なんかまた知らない内に地雷を踏んづけてしまったらしい。

そして今度は爆発した。

そう、異文化交流の時間なのだった!!

「なにっ、どこにステラの琴線があるのかマジで分からない!!」

「あんな一〇〇〇エレン前後でこしらえた赤いだけの薄っぺらい布のどこか良いのです!? わたくしの本物のサンタクロース服を見てもまだその物言いとか信じられないのです、この節穴さんめ!!」

「えっと、お金の問題なのかな? 実は家一軒買えちゃうくらいの価値があるサンタコスでしたーとか」

「家一軒も買えませんわハードル上げるんじゃねえのです!! そしてコスプレじゃないってまだ分かっていないのです!?」

さらに雪玉が三つほどカッ飛ぶ。

ただ、不意打ちでなければ普通にアインは回避できるらしく、地元の狩りで培ったえげつない反射神経によって一つも雪玉がヒットする事はなかった。

そして、それが再びステラの苛立ちを加速させていく。

「そもそもお金の問題じゃないのです! これはサンタクロースの家系に代々伝わる物品で相棒のトナカイと意思疎通するための制御デバイスでもあり……!!」

「そっかそっかー。難しい事が分かるなんてステラはえらいなー」

「全体的に流され始めているのです……ッッッ!? もっ、もうあなたにはプレゼントを渡すものかーなのです!!」

「いやー、だけどサンタクロースって言えばお爺さんがやっているイメージなんだよね。ほら、ヒゲ生やしてやたらと大きな白い布の袋を持ってさ。まあ確実に主流なのは女性がお腹と太腿を出してウインクをかますあの心拍数の早くなる格好な訳だけれども」

「こちらのプレゼント拒否のテロ活動も基本的に無視なんてチョー悔しいのですぐぬぬぬぬぬぬぬ……っ!!」

飢えた肉食獣みたいな唸り声を上げるステラサンタだったが、しかしピンと思いつく。彼女はやればできる子なのだ。

「ふっふっふ」

「サンタクロースなら『ふぉっふぉっふぉ』じゃない?」

「それお爺さん限定なのです!! ……こほん。なるほどなるほど。つまりアインはサンタクロースの服とはワンピースのように繋がっているのが基本であって、わたくしのようにミニスカートを穿いてから赤いコートを羽織るのは絶対におかしい、と。そういう事なのですね」

「まあ別にどっちでも良いんだけど。俺はサンタ服にそこまでの情熱を持っている人じゃないし」

「異文化交流中にどっちでも良いとか絶対に持ち出したらいけないフレーズなのです!!」

さらに雪玉が一つ飛んできたので、もはやゲーム感覚で会話の途中であらかじめ作っておいた自らの雪玉をぶち当てる事で迎撃に成功するアイン。

何だかんだで高スペックゆえに、これくらいの芸当は朝飯前だったりする。

雪玉を再び攻略された事によってステラの頬がさらにさらに膨らむが、彼女は胸を張っていた。そう、少年にやられっ放しのステラの逆転が始まろうとしていたのだ!

「となれば解決は簡単です」

「どうするの」

「決まっています! わたくしがミニスカを脱ぎ捨ててサンタコスの女子どもと同列に!! そして脱げば脱ぐほどランクが上がるというのなら、つまりそう最後にパンツを脱げばわたくしがあの有象無象どもの頂点に躍り出るのです!! ふはあははははははははははははははははははははーっっっ‼‼‼」

どうやら喫茶店でナビリア=コペンハーゲンお嬢様に毒され過ぎたらしい。

そう判断したアインは、ステラの頭を冷やしてあげるべく、一等大きな雪玉を少女の額のド真ん中にぶち当てて差し上げた。

 


こちらの作品は東雲良様からいただきました!
本編第1章オースティア、エル・クリスタニアアカデミー時代の一幕を、
軽快なタッチで描いていただきました。

ウィットに富んだ会話劇にも注目です。

■東雲良様
小説家になろう:http://mypage.syosetu.com/551118/
Twitter:https://twitter.com/NVL_camvas812


朝  騒がしい茶会(1)
朝  騒がしい茶会(2)
朝  騒がしい茶会(3)

昼  摑みどころのない本質(1)
昼  摑みどころのない本質(2)
昼  摑みどころのない本質(3)
昼  摑みどころのない本質(4)

夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(1)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(2)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(3)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(4)
From_Another_World.
? No_Recording.
あとがき(東雲良さま)

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