オルヴェンスワンに神が降臨してから7日。

カリアス・トリーヴァが、エレメンシア大陸の西側に重力子を集めた。

重力子とは、エーテル物理学における4つの力(電磁気力、弱い力、強い力、重力)、そのうちの重力を司る素粒子である。この重力子1つ1つは極めて小さな力を持つが、質量が0であるため、1箇所に大量に集めることができる。

通常、重力子は他の物質に付随して存在している。天体のように巨大な塊ほど、強い重力を持つのはこのためである。

しかしカリアスはこの重力子を、物質と切り離し、単体でエレメンシア大陸の西側に集めた。これは彼が『あの世』と呼ばれる6次元世界で習得した秘術であり、4次元世界に転生した後に一度だけ使える魔法であった。

エレメンシア大陸の西側に集められた重力子は、その地域の時間に影響をおよぼしていた。そもそも時間とは、世の中のあらゆる物質を構成するクォーク(原子の元である陽子を生み出すもの)同士の動きの差を相対的に捉えたものである。大量の重力子によって巨大な重力が発生すると、クォークが進むことの出来ない空間が生み出される。そうすると時間が停止することになる。だが、時間も永遠には止まらない。

カリアスは、15年間の時間を作ったという。重力子も、エントロピー増大の法則には抗うことが出来ないのだ。密集させた重力子は次第に拡散していき、止まっていた時間は次第に動き出すこととなる。カリアスは、鮮やかな手腕でデロメア・テクニカの実権を握ると、15年の間に革新を起こさなければ人間の未来はないと言い、プロジェクトレボリューションという技術革新のためのプロジェクトを発足させた。

この物語は、それから14年後に始まる。

***

オルヴェンスワン中央部シバーム。この町で時間が動き出したのは、カリアス・トリーヴァが時を止めてから14年後のことだった。第3次『時の開放区間』と呼ばれるエリアだ。このエリアの時間は、当初15年間止まる予定だったが、ダイダリアサンの起こした洪水によって重力子が散乱され、動き出すのが1年早まった。

時が止まる前に17歳だった少年パンサーも、このエリアで時を止められていた復元者の1人だ。目を覚ましたパンサーは、目の前に広がる光景に、めまいを覚えた。

「なんだ? 土埃・・・え? 戦争?」

彼は14年間を止まった時の中で過ごしたのだ。

「なんだよこれ、訳わからねえよ。そうだ、ローディアは?」

パンサーは周囲を見渡す。ローディアとは彼の2つ下の妹だった。ローディアはパンサーに懐いており、兄と同じ色の服を着て、兄と同じ物を食べて、兄と同じことをして遊び、将来は同じ場所で働きたいと言った。パンサーもそんな妹を可愛がっていた。だが、いまローディアはいない。

「とにかく、今はこの場所から逃げないと、巻き込まれて死んじまう」

パンサーは軽く周りを見渡して、兵士の少ない道をめがけて走り出した。周囲の石造りの建物は、酷くボロボロで今にも崩れそうだ。14年間、この土地はずっと戦場だったのだろう。

「あそこの十字路を曲がれば、教会があるはずだ」

オルヴェンスワンは宗教国家であり、いたるところに教会が建てられている。教会には教徒しか知らない秘密の抜け道があり、地下のシェルターにつながっている。パンサーは、教会の地下であれば戦争の影響を受けないだろうと考えた。だが、十字路を曲がった彼の目に飛び込んできたのは、教会を取り囲む兵士の姿だった。

「ここにも兵隊がいるのかよ!」

パンサーは十字路を曲がるのを止めると、走ってきた道を少しだけ戻って、石造りの建物の間にある小道に入った。人1人が何とか通れる道だ。彼は両サイドの建物の壁に手をつっぱり、建物の屋根に登った。兵士のいない箇所はないかを確かめるためだ。すると、教会の西側には兵士がいないことに気づく。パンサーは舌を舐めると、さっそく壁を降りて、兵士のいないエリアに向かって走り出した。だが。

「いま何か動いたぞ! 仕留めろ!」

それは兵士たちの罠だった。教会の西側に侵入したパンサーを、兵士たちが追いかける。教会の西側には建物などの身を隠せる場所がない。だから数で勝る兵士たちが追いかけっこをするには最適なエリアだった。パンサーはまんまと騙されたのだ。

「くそう! 捕まったらどうなるかわからねえ!」

パンサーを追う影は少なく見積もって5人。その影から逃げ切るためにパンサーは息を切らしながら走り続けた。教会の隣にある麦畑を彼は駆けたが、ついに行き止まりになってしまう。

『もう、だめだ』パンサーがそう思ったその時。彼は足元の穴に吸い込まれた。真っ暗なトンネルを滑り落ちるパンサー。もしかしたら地下のシェルターにつながっているかもしれないと感じながら、彼はトンネルの終わりまで重力に身を任せた。

そしてたどり着いたのは、床、壁、天井全てが紫色の空間だった。

「なんだ? ここ」

パンサーは目をこすった。目の前に1つ、棺が置かれている。彼は恐る恐る棺に近づき、手を近づけた。するとプシューという音とともに、棺の蓋が開いた。そこには、1ベルトほどもある茶色の物体が横たわっていた。パンサーが目を丸くしていると、茶色の物体が目を開けて、ぬっと身を起こし、ゆっくりとパンサーを見た。

「私の眠りを妨げるのは誰だい? 私は神ぞ。ディーオーエムオーぞ」

この茶色の物体は、何故か茨城弁で話し始めていた。
 


第1項 2体目の神
第2項 フラクタル
第3項 不完全性定理
第4項 バタフライ効果
第5項 対数螺旋
第6項 パラドックス
第7項 神の方程式
第8項 対称性
第9項 なぜ何もないではなく、何かがあるのか
第10項 フィボナッチ数
最終項 ゼロ

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