最終項 ギブ・アンド・テイク

アーダーカー公園に、ロキ・ラグラナダとロゼッタ・ビルセアがいた。
「おい! どこいくんだよ! ロゼッタ!」
「黙ってて! 私、あなたのこと嫌いになった」
ロゼッタはロキの方を振り向かず言った。
「なんでだよ。お前、俺のこと好きだったじゃん」
「そんなこと言ってないし」
ロゼッタは少し顔を赤らめていた。
「一生懸命、勉強していたあなたは好きだったけど。それは復元者の人に、こんな酷いことをするためだったの? そんなことのために勉強してたの?」
「俺は面白いから勉強してたんだよ。例えばアドラー心理学、面白いじゃん。『俺達は過去の原因によって突き動かされるのではなく、いまの目的に沿って生きている』。勇気が出る言葉だろ? 詐欺師だった過去なんて、無かったことになるんだから」
「それは良いことだけど。もうっ、自分勝手すぎる」
「そういう男に振り回されるの好きだろ?」
ロキはケラケラと笑いながら言う。ロゼッタはロキを睨みつけた。
「教えて。あなたは復元者の人たちが、本当に悪い人だと思ってるの?」
「・・・悪いか悪くないか、じゃないんだよ。別の種族なんだ。共存できないのは当たり前だろ」
「だからって、電気椅子にかけるなんてこんな酷いこと。どうして思いつくの? 別のやり方だってあったかもしれない」
ロゼッタは目に涙を浮かべていた。ロキは彼女の両肩に手を置く。
「お前な。ちょっとは想像しろよ。俺達がここで手加減して、神が動き出した瞬間に復元者が裏切ったとするだろ? それで復元者がお前を殺したら、俺の後悔はどこにぶつけりゃいいんだよ。俺はできるだけのことをやっておきたいんだよ」
「ズルい・・・ズルいズルいズルい! チャラいーー!」
「チャラいってなんだよ。俺は一途だぜ?」
ロキは、ロゼッタの心を動かすために、まず与えることを学んだ。
ガストン・レオパルドは復元者から奪うことを誓い、多くの人間も同様に奪うことを重要視する世の中になってきている。
『それでも、やっぱり人ってのは』
ロキは思う。
『与えられたら、何か返してくれるもんなんだよ』
ロゼッタがロキの胸にか弱いパンチを繰り出す。ロキはそれを受けて笑っていた。
「ロゼッタは可愛いな」
ロゼッタが上目遣いでロキを見る。ロキは彼女の頭をぽんと撫でた。
『与えたってどうせ、って、冷めるんじゃなくて。失敗しないように安心安全を求めるんじゃなくて。ロゼッタのために、何だってしてみよう』
ロキはロゼッタを抱きしめた。ロゼッタは目を丸くしたが、何も言わずロキの温かみに包まれていた。
しばらくしてロゼッタは、両手でゆっくりロキを押し離し、言う。
「約束して」
「なんだよ」
「これから何をするときも、私に最初に本心を教えて」
「じゃあ、お前も1つ約束しろよ」
ロキはロゼッタの目を真っ直ぐ見た。
「俺以外の男と、遊びに行ったりしないこと。俺以外の男と付き合わないこと。俺以外の男と、結婚しないこと」
「バカ」
ロゼッタはそれだけを言うとロキに背を向けてズカズカと歩いていった。
ロキは頭を掻きながら、彼女の隣まで小走りで駆け、それから並んで歩いた。
2人は自然と、手を繋いでいた。

ロキがこの数ヶ月間熱心に学んでいたのは、恋愛心理学だった。ロゼッタを振り向かせることに躍起になり、いつしか彼は本当に彼女のことを好きになっていた。自分はモテると思い込むとか、悩みを打ち明けるという小技も使った。
そして今は、こうして隣を歩いている。
『これが心理学を利用した結果だっていうかい? 好きな子の気持ちを自分に向けるために、学問を利用するなんて。悪いやつだって、思うかい? でもさ、俺は自分の目的のために、頭を沸騰させながら学んだんだ。苦労は報われなきゃ、主人公じゃないじゃんさ。自分が主人公なんだぜ、この世の中は』
ロキは建設中のエメラルドタワーを見上げた。
デロメア・テクニカ最高層ビルとなる予定の、バベルの塔だ。
『心理学も生物学も化け学も物理学も電磁気学も同じ。科学の知識そのものは中性的。使う人間次第で神にも悪魔にもなる』
誰かを守るために、誰かを傷つけなければならないのなら、それは仕方のないことだ。人間は神ではない以上、すべてを手に入れることはできないのだから。何かを捨てながら生きていく。それが人間なのだ。
ならばせめて—大切な人の手のひらだけは。
ロキは改めて、カリアスについていくことを誓った。

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第1項 刑務所から始めよう

第2項 ダイナマイトと時の歯車

第3項 科学発展の基礎

第4項 魔女狩り

第5項 自由意志と豆の木

第6項 プラチナブロンドの兄妹

第7項 心の相互作用

第8項 科学者の協働

第9項 アトム

第10項 熱力学と鋼の世紀

第11項 電磁気の姫

第12項 マイノリティカルストラテジー

第13項 電気椅子とキャズムの溝

第14項 プロジェクトレボリューション

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