第14項 プロジェクトレボリューション

デロメア・テクニカの各地で、ロキが行ったような死刑執行ショーが行われた。
デロメア・テクニカの人間たちは、人間社会を蝕む悪の存在に恐怖し、その悪を最新の科学技術が打ち倒す様に興奮した。人間たちは未知への恐怖から復元者を排斥し、現代の魔女狩りはデロメア・テクニカ各地に広がった。
1ヶ月をかけずして、流行は普及率16%の壁を完全に超え、『神と復元者を討ち滅ぼす』が人々の共通認識となった。デロメア・テクニカの国全体を囲う壁の建設が始まり、一定の間隔で関所が設けられることが決まった。髪の色を見て人間と復元者を区別し、復元者を国内に侵入させないためだ。デロメア・テクニカは今、国内に巣食う復元者を排除し、純粋な人間の国になろうとしていた。
***
ガストン・レオパルドはこの社会的事情を鑑み、ある決意を固めた。
ガストンは首都デロメアの最も高いビル−−といっても高さ300ベルトのエメラルドタワーが竣工すればそのアイデンティティを奪われるが—の一室に、チョパルキン・バルディッシュを呼びつけた。そこはかつてチョパルキンがふんぞり返っていた部屋だった。
復元者の兄弟であるバルディッシュ・ブラザーズは、既にデロメア・テクニカで人気を失っていた。そのためチョパルキンはこのオフィスを既に売り払っている。
「悪趣味な野郎だ。昔裁判で負けた腹いせをしようってのか?」
チョパルキンは眉間にしわを寄せて言った。ガストンは表情を変えずに言う。
「チョパルキン・バルディッシュ。あんたの会社、わしに譲ってくれんか」
「てめえ、何をぬけぬけと。俺達から何もかも奪うつもりか?」
ガストンはバルディッシュ・ブラザーズの経営する軍事企業を手に入れたいと願っていた。
「てめえらのような畜生に、売る会社はねえんだよ、こんちくしょう」
「チョパルキン。あんたに与えられた選択肢は2つしかないんだよ。ここでわしの提案を受けて会社を売るか、いずれ電気椅子にかけられて会社を奪われるか。何もわしはタダで譲れというわけじゃない。もしも今会社を売ってくれれば、弟くんの命も含めて、助けてやる。ロマリアでもアルテリアでも、好きなところへ逃げられるよう、わしが手配しよう」
ガストンの言葉は、資本主義社会の中であまりにも不平等な提案だった。だが彼はこの不平等を受け入れざるを得ない、それがデロメア・テクニカの復元者の現状だ。
「ぐぐ、ぐぬぬ」
チョパルキンは、自分がこれまで手塩をかけて育ててきた会社を、こんな理不尽で失いたくないという怒りと、弟と自分の命を失いたくないという生の本能の狭間で揺れ動く。だが彼のデストルドー、つまり死へ向かおうとする欲動は、生の本能に打ち勝つことはできなかった。
「わかった」
チョパルキン・バルディッシュは頭を下げた。ガストンはその姿を見て恍惚する。
『息子を奪った復元者から、すべてを奪ってやった』
ガストンの胸に渦巻いていたのは、復讐が達せられた満足感と、人間のこれからの在り方に対する確信だ。
『わしは今日確信した。人間の性格は3種類に分けられる。自分が得る利益よりも多くを与えようとするギバー、自分が与えた利益よりも多く利益を得ようとするテイカー、自他の利益を同じにしようとするマッチャー。この3種類はモレ無くダブリ無くの関係にあり、人は絶対にこの3種類のいずれかに所属する。そして』
ガストンはチョパルキンにタクシーチケットを2枚渡すと、窓から外を見下ろした。
『世間ではギバーこそが、周囲の人間を幸せにしながら大成功するという作り話が、まことしやかにささやかれている。人類が空前の成長を遂げたアイン・スタンスライン時代こそ、誰もがギバーとなり、与え与えられる時代だったじゃないかと。しかしそれは、復元者の作り出した幻だ。人間をギバーに作り替え、人間から何もかもを奪おうとする復元者が作り出した、まやかしだ。これからの時代は違う。人間は奪わなければならない。復元者から金を土地をそして自由を! 奪わなければならない』
ガストン・レオパルドは誓う。復元者から奪い続けることを。
そして彼の願いは今や、デロメア・テクニカの国民全ての願いになりつつあった。

***
1200万人。これはカリアス・トリーヴァという1人の男が動かした、デロメア・テクニカの国民の数だ。彼が死なせた復元者の数は200万人。もしかしたら赤毛というだけで殺された人間もいたかもしれない。カリアスは彼らを切り捨て、黒、栗色、ブロンド、プラチナブロンドの髪色が人間だという単純明快なルールを定めた。恐怖に支配された人間たちは、カリアスの定めた規則に固執し、変化に対応できない、訓練された無能となった。髪の色だけで、人が殺される時代が到来したのだ。
カリアスは多くの悲しみを背負う決断をした。復元者との絆を失うことで初めて、人間の世界に神と対峙する基盤を造り出すことができた、のだ。今の彼は、秘密結社ヴェルセルクの首領として、人間を発展へ導くことに一点の迷いもない。
「カリアス様、行きましょう」
イシュタルの言葉に、ゴージャスな衣服に身を包んだカリアスが立ち上がる。
「始めよう。人々に紙とペンを。人類は、皆クリエイターになる必要がある」
人間の叡智。それを128の組織に分け、技術分野の研究開発を行う、プロジェクトレボリューション。破滅を免れるための人間の叛逆が、今ここに始まった。

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第1項 刑務所から始めよう

第2項 ダイナマイトと時の歯車

第3項 科学発展の基礎

第4項 魔女狩り

第5項 自由意志と豆の木

第6項 プラチナブロンドの兄妹

第7項 心の相互作用

第8項 科学者の協働

第9項 アトム

第10項 熱力学と鋼の世紀

第11項 電磁気の姫

第12項 マイノリティカルストラテジー

第13項 電気椅子とキャズムの溝

第14項 プロジェクトレボリューション←いまここ

最終項 ギブ・アンド・テイク

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