gaiden1

 

これは、秘匿とされた物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知識は大いなる武器だ。

だが、それだけでは救えないものもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝  騒がしい茶会

 

 

 

「全体的に何なのこれ」

 

遠い目でそう問いかけたのは、アイン=スタンスラインだ。

季節は冬。

極寒も極寒、日付は4240年、12月24日。

完全に冬休みのド真ん中。絶対に誰もいないはずの学校にて。エル・クリスタニアアカデミーのあらゆる校舎や施設は閉鎖されている時期だというのに、強制的と言っても差し支えない感じで図書館が開かれていた。

その少年は見知った顔とテーブルを囲んでいた。

怒涛のクリスマスイヴに哀しい顔をしているのには理由があった。

 

「何ってねえ。ほら、どこかのお馬鹿さんが女の子を一人救う代わりにこの学校を退学になったじゃない? そのさようなら会というか」(←ナビリア=コペンハーゲン)

「まったくだ、本当に馬鹿の一言に尽きる。こういう輩がある意味最も厄介なんだ、俺がせっかく一目置いてやっていたというのに」(←ロックバンド=ブリューナク)

「うう、ごめんなさいアイン、私のせいで……」(←マスマティカ=アスロット)

 

隣の席にチョコンと座る黒髪の三つ編み少女がそんな風に言う。

なぜだかエル・クリスタニアアカデミー社交部、その四英傑が大集合なのだった。

アイン、ナビリア、ロックバンド、マスマティカ。

この四名が社交部のパーティーに出ただけで二〇〇〇万エレンを超える融資金を稼いでくるのだから、大物揃いも大物揃いであった。

そんな彼らが顔を突き合わせて、アカデミーの保有する図書館のテーブルに座って紅茶の良い香りを楽しんでいる理由は、胸元を大きく露出した赤いワンピース型のドレスに身を包んだナビリアお姉さんが教えてくれた。

「まあ良いじゃない? クリスマスイヴに甘いスコーンに紅茶なんて最高よ」

「このクソ寒い日の早朝に呼び出し喰らったと思ったらさようなら会? 本当に? たったそれだけ???」

「そうよ」

会話は始まったばかりだというのに本格的に面倒臭くなってきたのか、赤いマニキュアを塗った指先を眺めて短い返事をする少年の向かいの席のナビリア。

アインはまだ納得がいかないのか、ビシィ!! と窓の外を指差す。

思いっきり吹雪いていた。

窓まで真っ白である。

これでもまだマシになった方なのだ。カッコイイ男の子を目指している者としては絶対に秘密だが、この図書館に来るまでに足を滑らせて合計七回もコケてしまうほどのとんでもない天候である。

「外は大雪だっつってんのに!? 俺はクリスマスプレゼントでも買わなきゃいけないのかとギリギリまで悩んでいたのに本当にそんな事で呼び出されたのかな!?」

「うふふ別に良いじゃない? それにさようなら会というかどちらかというと数ヶ月前のマルルト=ストラトスの事件を思い出させて退学前に自分の失敗を思い出させようって魂胆の会だしうふふ」

「この天候を上回るほどの悪意がここに!!」

「まあぶっちゃけクリスマスイヴなんかにやる事ないからみんなで暇潰ししようって感じなんだけれどね」

ついにアイン=スタンスラインはテーブルに崩れ落ちた。

どうやら本当にただのお茶会らしい。……ただ、たぶんこの会の中身は腐っている。『あなたのやった事は確かに正しいですけど結局はマスマティカの余計な事件に首を突っ込んだ事による結果なのですから十分に反省なさい』的空気がビシバシ伝わってきて正直つらい。

「あうあうあうあうあう……」

「気にしなくて良いよマスマティカ。君のせいじゃない」

三つ編みのマスマティカが隣でオドオドしていたので、軽く頭を撫でてやるアイン=スタンスライン。

どういう訳か少女の顔が爆発したみたいに赤くなるが、少年の掌の銃弾の傷跡を見て申し訳なさそうに俯いてしまう。

「退学の件も君が気にする事じゃないよ。俺が選んだ道なんだ、学長の計らいで編入できるトコがあるだけでもありがたいさ」

「は、はい、その……うう」

「ふふ、良かったわねアイン。地元で泣かせた女の子の心の傷がやっと塞がるチャンスなんじゃない? でもまあアインは転校するから多少の遠距離恋愛になっちゃうけどねー」

「ねえナビリア、今日はどうしたの? 良い事か悪い事か、とにかく何かあったんだね正直に言ってご覧? そして理由を聞かせなよ、ほらその少し顔を出し始めている小悪魔系の微笑みをやめるトコから始めようじゃないか!!」

「というより元カノの傷が癒えていない事については否定しないのね。すぐに前を向くタイプだと思っていたからちょっと意外だわ」

「悪かったね! そしてどこで知った俺の恋愛経歴を! より具体的にはピーキューの事は君に話していなかったはずだけど!!」

「あらまあ、だったら男のユミルに迫られた方が嬉しいのかしら」

「ユミルは先輩なんだからコメントに困る! 一度迫られているから笑い飛ばす事もできないし! というかそれを聞いて何になるの、ナビリアは俺からどんな答えが出るのを望んでいる訳!?」

うふふふふふふふふ、と薄気味悪い笑みを浮かべてナビリアに適当に意見を流される辺りも残念感が漂うアインなのだった。

世界を変えるための知識もこんな時は全然使い物にならない。

どれだけ高い志を持っていたとしたって、周囲の舞台が整わなければ輝かないのが才を持つ頭脳の哀しい特徴であった。

と、完全に自己を確立する男・ロックバンド=ブリューナクが紅茶を飲む片手間、といった具合にアインを慰める。彼の手元には文庫本サイズの文学書が置かれていた。

「まあお前ならどこでもやっていけるだろうさ。アイン、どこであろうと同じ事だよ。お前はお前らしくあれば良い」

「ありがとうございますロックバンド。あなたも俺がいなくてももう大丈夫そうですね」

「随分調子が良さそうではないか。その分だと大丈夫そうだ」

一切目線を合わさずにそんな風に言う赤髪のロックバンド=ブリューナクに、アイン=スタンスラインはわずかに微笑む。

「ああ、そうそう。そういえば、言わなきゃならない事があったのだけれど」

スコーンを小皿に追加でおかわりしながら、黒髪ロングのナビリア=コペンハーゲンがそう切り出した。

一瞬だけ身構えるアインだったが、しかし紅茶に口をつける事で努めて高水準の頭脳を平常値に調整する。

「ねえったら、アイン」

「どしたのナビリア」

「にしても、あなたもつくづく波乱の人生を送っているわよね。なんというか、そういう星の下に生まれついたんだとでも言われなければ納得できない業というか」

「? ナビリア、話が見えないんだけど?」

「いやねー」

何となく。

本当に薄っすらと。虫の知らせとでも言うべきか。

アイン=スタンスラインのその背筋にほんのわずかな悪寒が走る。

「あなたはこの秋に起きた、政治家マルルト=ストラトスの事件は確実に終わったと思っている。確かにマスマティカも救い、彼女にマルルトの手が伸びないようアイン自身が退学という責任を負う事で全てを丸く収めたわね」

「ナビリア」

「だけど本当に? 何か忘れ物はないかしら。そう、マスマティカが救われたその達成感によって頭の隅に追いやっていた問題が」

「ナビリア、一体何を言っているんだ」

「思い出しなさいアイン、できるだけ早くね。あなたほどの頭脳ならそんなに時間はかからないわ。私を失望させないようにね」

「ナビリア、俺の質問に答えてくれ。本当に突然何を言って……っ!?」

「無理よ」

答えではない返答が返ってくる。

彼女はただ笑っていた。

くすりと。真新しいスコーンを一口かじってからナビリア=コペンハーゲンは静かに微笑む。

「悪いけど、答えている暇はないわ」

その笑みは妖艶、かつ魅惑的。

そのまま小悪魔の赤いドレスの少女は告げた。

 

「もう来るわ。構えた方が良いわよ」

 

ゴゴゴン……ッ!! と大地を揺らす音が聞こえたのはその時だった。

直後であった。

もはや何が起きたか認知する方が困難だった。

 

ズガドゴルグメシャア‼‼‼ という爆音と共に壁が破壊される。

 

そして驚きの変化はそれだけに留まらない。

その壁に開いた大穴から飛び込んでくる影が二つあった。

一つは赤髪ロングの少女。

もう一つは、一五メートルオーバーのパワーショベル付きの重機であった。

 

 


こちらの作品は東雲良様からいただきました!
本編第1章オースティア、エル・クリスタニアアカデミー時代の一幕を、
軽快なタッチで描いていただきました。

ウィットに富んだ会話劇にも注目です。

■東雲良様
小説家になろう:http://mypage.syosetu.com/551118/
Twitter:https://twitter.com/NVL_camvas812


朝  騒がしい茶会(1)
朝  騒がしい茶会(2)
朝  騒がしい茶会(3)

昼  摑みどころのない本質(1)
昼  摑みどころのない本質(2)
昼  摑みどころのない本質(3)
昼  摑みどころのない本質(4)

夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(1)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(2)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(3)
夜  音色で溢れるクリスマスイヴ(4)
From_Another_World.
? No_Recording.
あとがき(東雲良さま)

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