第13項 電気椅子とキャズムの溝

 カリアス・トリーヴァはマイノリティとしての戦略を考えるにあたって、社会学的なアプローチを実施していた。彼はこのように考察している。
『この時代の人々の性格類型は中世封建社会と宗教改革期の狭間にある』
 多くの群衆は、出身国の国民性(例えばデロメア・テクニカであれば科学技術に秀でていて、コミュニケーション能力に劣るといった)を認識し、国民性に由来する役割(デロメア・テクニカであれば学者や教育者)に服従することを義務付けられている。彼らは幼い頃から自分をとりまく周囲の人々の顔色を伺い、機嫌を損ねないことを第1に考えてきたはずだ。そうした人々にとっては、自分が何をしたいのか?よりも、有識者、有名人、権威者への恭順が重要な価値を持つ。これを伝統指向型という。
 もちろんガストンや、ジェダ、ユンケル、イシュタルは、伝統志向型の人物ではない。そうだ。彼らは周囲に服従せず生きてきた。彼らは国民性によって決められた役割のなかでどんどん他人を追い越してきた、強い人間だ。彼らが胸に抱く強い意志はこうだ。『失敗し周囲から辱められる可能性を恐れるのではなく、自分の才能に希望を抱き、拡大していく社会が期待するどんな目標をも必ず成し遂げる』
 だから彼らは優秀な人材になれたのだ。そして多くの群衆は、彼らのような優秀な人材に恭順する。カリアスが彼らの支持を集めることを目指したのは、そのためだ。
 そしてもう1つ、彼らのように優秀な人材−−これを内部指向型という—を語る上で重要な要素がある。内部指向形の人々は、社会的性格として自分よりも優秀な人に逆らうことが出来ない。例えば優秀な科学者であることが人生の目的となったジェダやイシュタルにとって、自分よりも優秀な科学者であるカリアスに逆らえる道理はない。論理的思考によって、カリアスに従う方が、メリットが大きいと気づいてしまうのだ。カリアスは内部指向形の人々のそういった性格すら利用した。彼は人間の行動心理を利用して戦略を創り上げていったのだ。
 こうしてカリアスは、デロメア・テクニカという国を手中に収める準備を整えた。あとは伝統指向型の人々に対して、内部指向形の優秀な人材が推し進める新しい伝統をアピールするだけでいい。つまりデロメア・テクニカの人口の16%をカバーできる地域で、復元者の処刑を行う。そうすることで普及率16%の壁、キャズムの溝を超えるのだ。そのとき、新たな流行が人々の間に広がるだろう。

***
 デロメア・テクニカにエレメンシア出身の10000人が入国したのは、ヴェルセルクの活動が本格化してからだ。彼らは両手に武器を携えて、デロメア・テクニカの各地に散らばっていった。
 ロキの従える1個小隊も、デロメア・テクニカの首都デロメアの中心部、アーダーカー公園に集まっていた。彼らは1つのアームチェアと、隣に電話ボックスのような鉄製の箱を、公園の真ん中に設置した。電話ボックスの中には石炭をくべる炉があり、上部には蒸気タービンが備え付けられた箱——直流発電機が設置されていた。
 公園に人だかりができる。頃合いを見て話し始めたのはロキだ。
「皆さん! 今日はデロメア・テクニカの最新技術を使ったショーをさせていただきます。ただその前に、1つ皆さんに小話をさせてください」
 ロキは周囲の人の視線が自分へ十分に集まるのを待ってから続ける。謎の器具で人々の関心を引き、話術で興味を引く。彼はプレゼンテーションの達人であった。
「4ヶ月前、オルヴェンスワンの西に神が降臨したことは皆さんも小耳に挟んでいるでしょう。この神は、神の軍勢と呼ばれる魔物を使って、人間を滅ぼすために東へ向かいました。しかしまだ、マタリカ大陸は損害を受けていません。なぜでしょう。答えは簡単。カリアス・トリーヴァという超越者、Xceederが人間を守るために降臨し、エレメンシア大陸の時を止めたからです。なら大丈夫だ!とホッとした人は、神の思う壺ですぜ。カリアスが時を止めたといっても、その効果は15年間しか持ちません。15年後、神々の軍勢は確実に、人間に襲いかかるのです」
 ロキは右手で鉤爪をつくり、ひっかく動作をしてみせた。
「人間は、未来を予想することが出来ます。皆さんも頭のなかに、神の軍勢に襲われて逃げ惑う未来を思い描くことが出来たでしょう。それは私達が、全生物の中で唯一、人間だけに与えられた、想像力という武器を持っているからです。しかし同時に私達の想像力は、未来の危機を回避するために、現在努力するという意志を奪ってもいます。なぜなら、きっと大丈夫だという楽観的な未来も想像することができるからです」
 ロキの言葉には説得力があった。人々は次々に頷く。
「しかし人間に襲いかかる未来は、残念ながら楽観的なものではありません。私はエレメンシア大陸で神の軍勢の姿を見ました。彼らはただ殺戮を行う生き物です。人間との対話など一切、不可能。だから私達は目覚めなければならない」
 ロキは目の前の赤毛の少女を指差した。少女は怯む。
「私達人間に、楽観的な未来を吹き込んでいる元凶。それは神の使いである復元者です。復元者とは、神が人間に似せて作った傀儡。それが人間の社会に紛れている。人間の髪色は黒、栗色、ブロンド、プラチナブロンドの4種類しかない。それ以外の髪色の人型の生き物は、復元者だ。私達人間は、復元者を排除しなければならない」
 ロキの指示で何名かの屈強な男が、赤毛の少女をアームチェアにベルトで固定した。
「違う! あたしは、復元者じゃない!」
「あんたが復元者じゃないと、誰が証明できるんだい? スピリットから神の軍勢を復元する復元能力は、あんたの意志で使うことも使わないこともできるだろう」
 それは悪魔の証明だった。ないことを証明することは、あることを証明するよりもずっと難しい。彼女は鉄製の帽子を被せられ、2000ボルトの電流を流された。 

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