atlas

 アルネストは、ビルシュタインのつけていた黒鉄の仮面を取り外し、それをアトラスに向けてみせた。
「アトラス。黒鉄の仮面は単なるモチーフに過ぎない。これを身につけていることだけが、ビルシュタインの条件だとするならば、あとはわかるな」
「理解しております」
 アトラスはアルネストから仮面を受け取ると、その仮面をじっと見つめた。
「この仮面、お預かりします。それからこの剣、使ってしまった」
「問題ない。元より芸術品だ。振り回せる人がいるとは思わなかった」
 アルネストはニヤリと笑った。
 アトラスはその巨大な大剣の柄を強く握りしめた。
「アルネスト。俺達はあなたとの決別を選択することになるだろう。これまでの支援、いたく感謝しております」
 アトラスは、深く頭を下げた。『人間』であるアルネストは全てを察して頷くと、召使いにアルネスト邸を引き上げる準備をするよう、申し付けた。

 アトラスとスヴィーナは、ホリデュラへ帰還した。ホリデュラでは、ルドルフとゼノンが戦線を維持していた。指揮官を失ったビルシュタインズの士気は低く、既に戦況は落ち着きを見せていた。それでも神の言葉を信じるものたちは、戦いをやめようとしなかった。
「アトラス。この戦いは、どちらかが滅ぶまで続くかもしれん」
 ルドルフが嘆いた。彼は虚しさを感じながら、ビルシュタインズをあしらい続けていた。ゼノンも疲弊している。アトラスは2人を見やると、ルドルフにビルシュタインの黒鉄の仮面を掲げてみせた。
「これは。そうか、ケリはついたんだな」
「ルドルフ、ビルシュタインズを寺院の広場に誘い込んでくれ」
 アトラスは大剣を地面へ突き刺し、腕組みをして、ビルシュタインズが寺院の広場に集まるのを待った。
 喧噪があたりを包んでいた。ビルシュタインズは、倒すべき敵を捜している。そこへ姿を見せたのは、アトラスだった。アトラスは黒鉄の仮面を広場の中央へ投げ入れた。
「貴公らの掲げていた男、ビルシュタインは倒れた」
 アトラスは巨大な剣を携え、広場の中央まで、ゆっくりと歩いていく。
「ビルシュタインズの諸君。貴公らは、人間から迫害を受ける復元者を救うという、大きな志のため、立ち上がった。その想いは尊く、これほどまでに人々が熱狂するだけの力があった」
 アトラスは天を仰ぐ。アトラスは理解していた。黒鉄の仮面が単なるモチーフであり、復元者が自己を捨て、神に縋り続ける以上、次のビルシュタインが生まれるとするならば。それを防ぐ方法は、復元者を飲み込んでしまう他無い。
「人間達は言う。復元者はいつ神の手先になるかわからない、だから収容所へ入れ、大量虐殺を繰り返すのだと。しかし、そんなことが許されてよいのか。かつて、アイン・スタンスラインの時代、人間と復元者は同じ未来を描いて、手を取り合ったではないか。その未来を絶ったのは、神だ。神という不明瞭な存在が、人間と復元者を隔て、惑わせた。私はそれを許すことは出来ない」
 ビルシュタインズの面々は聞き入っていた。
 アトラスは拳を握り、大きな声をあげた。
「復元者よ! お前達が今戦うべき相手は、神だ!」
 咆哮が辺りを包む。
「人間が復元者を認めないならば、復元者だけの国をつくれば良い。しかしその国を治めるのは、神ではない。復元者だ。人々よ、世の中にもっと叫びをあげろ。自分という咆哮をあげるのだ! このアトラスと共に。クレイ、モア!」
 Cry more、アトラスの声を皮切りに、人々が次々と声をあげた。10人、100人、そして1000人、広場を埋め尽くした全ての人々が、Cry moreと絶叫するまで、そう時間はかからなかった。
 アトラスは天へ右手を突き上げる。アトラスの強い主張が、その場にいる全員を突き動かした。ビルシュタインズの兵士達は、黒衣を脱いでアトラスの元へ跪き、忠誠を誓った。
 ――カリスマ。これこそが、アトラスの力であった。

 後に世界の変革を担う組織クレイモアは、この瞬間結成された。
 ルドルフはアトラスがこの日語ったストーリーを書類にまとめ、人々に配った。人間と神への叛逆をまとめたその文書は、クレイモアの理念として、長く語り継がれていくこととなる。 





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ←いまここ
クレイモアクロニクル エピローグ

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