atlas

「アト・・・ラス」
 ビルシュタインは充血した目でアトラスを睨みつけた。ビルシュタインとアルネストが、同時にアトラスへ視線を注いでいた。
「ビルシュタイン。決着を付けよう」
 アトラスは両手をビルシュタインへ向けて構えた。ビルシュタインもその意図を察した。アトラスの右掌に左掌を、左掌に右掌を合わせ、力比べに応じた。アトラスは力比べに絶対の自信を持っていたが、塞がりきっていない傷口が、アトラスの集中を削いでいく。
 それでも並の人間であれば、アトラスの力によって押さえ込まれていただろう。ビルシュタインは、限界を超えた力――Xceedを発現していた。
 傷口から、血が垂れていくのを感じる。アトラスは、ビルシュタインに頭突きを食らわせたが、ビルシュタインはびくともしない。黒鉄の仮面の男は、痛みという感覚を超越していた。
「あああああああ!」
 ビルシュタインが両の腕に力を注ぎ込み、両手だけでアトラスを持ち上げ、ブレーンバスターを食らわせた。アトラスの傷口が開く。
「く、こんな時に!」
 アトラスは仮面の下で顔をしかめたが、ビルシュタインの追撃を察知し、身体をひねりかわした。今度は逆にアトラスが、ビルシュタインをバックドロップの体勢に捉える。
 しかしビルシュタインは黒鉄の手甲についた突起物をアトラスの傷口へぶつけ、バックドロップを崩した。崩れながらもアトラスは、ビルシュタインの右腕をロックし、関節技で揺さぶりをかける。ビルシュタインは義手を取り外して関節技から抜けると、アトラスへエルボードロップを仕掛けた。アトラスはそれを受けながらも身を起こして、スピードに乗ったドロップキックをお見舞いした。一進一退の攻防が続く。最後は2人、殴り合った。
 互いの兜に、カウンタークロスが入る。アトラスは兜の位置をクイと直した。
「今の動き、よかったぞビルシュタイン。まだ理性は死んだままか。そのままでは、俺に勝つことは出来ぬぞ」
 アトラスはビルシュタインとがっぷり四つに組み合った。そしてビルシュタインを持ち上げると、パイルドライバーの体勢を取り、地面へ思い切り投げつけた。これにはさすがのビルシュタインも沈黙・・・したかに思われたが。
 ビルシュタインは本能的に、アトラスの弱点へリソースを集中していた。下腹部へ蹴りをみまってから、アトラスに取り付き持ち上げると、傷口を下にして、パワーボム式に投げつけた。血飛沫があたりを汚し、アトラスは沈黙した。
「計画を実現するためには、コンピテンシーが足りなかったな」
 ビルシュタインは呟いた。アトラスははっはと笑う。
「理性を取り戻したか、ビルシュタイン」
「おかげで。しかし残された時間は少ない。その前に私は、過去との決別をせねばならない」
 ビルシュタインはアルネストを睨みつけた。ビルシュタインは神から精神に干渉を受けていた。それは壊れてしまったビルシュタインの精神の痛みを和らげるための処置だ。ビルシュタイン自身の精神は、既に憎悪に焼かれていた。
「アルネスト。私はお前によって、身体の、精神の自由を失った。何度憎悪しても、お前に対する怒りは消えなかった」
 ビルシュタインは階段を上っていく。
「しかし同時に、感謝もしている。お前はパティとリリィに手をかけなかった。私にとっては、もはや失ってしまったものだが。あのとき。彼女らを守ったという誇りだけが、私が私であるための・・・あるための・・・ああああああ!」
 言い切ることはできず、再びビルシュタインは獣へ戻った。彼はアルネストに猛進し、抱え上げると、吹き抜けから1階へ投げ下ろした。
 アルネストが地上に打ち付けられようという、その刹那。スヴィーナの召喚した神獣が、アルネストをキャッチした。
「ぎりぎりセーフ。アトラス、後はお願い」
「ああ、任されよう」
 アトラスは軋む身体を押して、壁にかけられた大剣を手に取った。2ベルトはあろうかという巨大な鉄の塊だ。アトラスは2階から飛びかかる黒鉄の魔戦士に向けて、この鉄の塊を振るい、そしてビルシュタインを真っ二つにした。

『ありがとう、アトラス。これでようやく私も、神の言葉から解放された。しかし黒鉄の仮面は、今後も引き継がれていくだろう。第2第3のビルシュタインが生まれるだけだ。お前達の戦いは、永遠に続く――』





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面←いまここ
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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