atlas

「待て」
 野獣と化したビルシュタインの前に、アトラスが立ちはだかる。
「まだ勝負はついていない」
 しかしアトラスの言葉も、ビルシュタインには届いていないようだった。ビルシュタインは武器すら持たず、アトラスに殴り掛かり、首元に重いパンチを加えると、そのまま窓の外へと飛び出した。巨大な鷹を復元したビルシュタインは、そのまま北の方角へ消えていった。
「アトラス、まずは応急処置をしよう」
 ルドルフはアトラスの甲冑を脱がすと、鮮やかな手さばきで傷口を縫合した。
「消毒する。少し染みるぞ」
 アトラスは顔をしかめたが、うめき声1つあげず、処置を受けきった。『もう一度戦う』という強い意志が伝わってくる。
「ルドルフ、感謝する」
「気にするな。それより彼女は」
 ルドルフはパティの方を見やった。スヴィーナがパティを抱えている。
「パティは、本当にいい子だった。私が1人で絵を描いていたとき、声をかけてくれたの。彼女がいなければ、ビルシュタインズに居続ける理由なんて無い」
 スヴィーナはアトラスの前に跪いた。
「私は、スヴィーナと申します。どうか、貴方達と一緒に戦わせてください」
「わかった。こちらこそ、頼む」
 アトラスはスヴィーナに頭を下げた。後にアトラスとクレイモア四天王と呼ばれる戦士達が、ついに集った。そこへエッジの矢文が届く。
『ビルシュタインはアルネスト邸に向かっている』
 エッジのもたらしたこの情報は、アトラスに決断を迫った。
「よし、スヴィーナ。お前の復元能力で、俺をアルネスト邸へ運んでくれ。ルドルフとゼノンは引き続きホリデュラで指揮を執れ。エッジ、聞こえているな。道案内は頼んだぞ」
 誰かがこのとき戦況を分析していたならば、こう答えを出しただろう。アトラスと四天王の5人が集った時点で、『勝利』という2文字以外の結果は得られない、と。
 スヴィーナは巨大な獅子を復元すると、アトラスと共に獅子に跨がった。
「パティ、あなたは望まないかもしれないけれど、私はビルシュタインを許せない」
 スヴィーナが強く呟くと、アトラスは彼女の頭をなでた。
「なに? 大人面しないでよね」
「気に障ったならばすまない。しかし俺は、君のように強い女性をあまり知らない。共に戦ってくれて、ありがとう」
 スヴィーナは少し照れていた。

 アルネスト邸では、既に殺戮が始まっていた。ビルシュタインは武器を持つことすら忘れ、甲冑をつけた腕で、アルネストの付き人達を殴り殺していた。男は狂気に飲まれ、痛みも哀しみも感じることが出来ず、ただ人を殺すことでしか、自分の生存確認を出来ないでいた。
「哀れなものだな」
 2階の吹き抜けから、ビルシュタインを見下ろすのはアルネスト・リークラク。
「神に縋りし者の末路か。No.11」
 アルネストは、かつてビルシュタインがアルネスト邸で奴隷のように扱われていた時、つけられていた番号を呼んだ。ビルシュタインは咆哮をあげ、アルネストへ向かってナイフを投げつける。アルネストはすんでのところで、ナイフの一撃をかわした。
「かつて人間は、神を目指して、学問に取り組み、技術を高めた。人智のおよそ及びもつかない、完璧な方程式こそが神の設計だと信じていた。人間にとって神は、目標であり精神的支柱だった。しかし14年前、神が降臨し、人類にその不完全な姿をさらした瞬間だ。利口な人間は神をあがめられなくなった。物質世界の中にしか救いは無いと気づかされた。それでも神を完璧だと信じ、神に縋って生きていく人々。俺はお前達を理解することが出来なかった。No.11。何だその姿は。まるで獣ではないか」
 アルネストは軽蔑の目でビルシュタインを見ていた。
「あああああああああ!」
 ビルシュタインは声にならない声をあげた。

 そこへ、アトラスとスヴィーナを乗せた神獣が到着した。




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《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い←いまここ
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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