第15項 ホリデュラ侵攻

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 ビルシュタインズが敗退してから1週間。パティ・ゼクセリアは黒いフードを被り、ドラッグゲル・ドゾンに戻ってきていた。そして彼女は村のはずれで、リリィ・ゼクセリアの身につけていたネックレスを見つけた。ルドルフが回収して、墓をつくっていたのだ。側には小さなバラが1輪添えられていた。
 パティはリリィのネックレスを握りしめ、泣き崩れた。

 ヴィヴァリンの首都ホリデュラの居城。パティは、リリィのネックレスを手にしたまま、ビルシュタインの前に跪いた。
「お姉ちゃんが亡くなりました。ドラッグゲル・ドゾンの村のはずれで」
「そうか、残念だったな」
 ビルシュタインはあっさりと言った。パティは両手を握りしめた。
「ビル、本当にこれが、あなたのやりたかったことなの?」
「どういう意味だ」
「神様は、私たちを守ってはくれなかった。私たちのやっていることは、本当に世の中のためになるのかな。こんなに哀しいこと、どうして続けられるの? 私は、自分勝手で、都合のいいことを言ってると思う。家族を亡くしてようやく気づくなんて、本当に馬鹿だ。今まで何人もの命を奪ってきていたのに」
「パティ、君は疲れているんだ。今日は休め」
「ねえビル、もう昔には戻れないのかな。また、2人で静かに暮らそうよ」
「それは出来ない相談だ」
 ビルシュタインは使いの者を呼び、パティを寝室へ連れて行かせた。それから彼はため息をつき、窓から夜空を見上げた。月に黒い雲がかかっていた。
「ビルシュタイン、パティに何を言ったの」
 そこにいたのはスヴィーナだった。
「パティが泣いていた。場合によっては、私は貴方を許さない」
「姉を亡くして気が立っていたんだ。今はビルシュタインズにとって重要な時期だ。泣いている場合ではない。君もわかるだろう」
 ビルシュタインの言葉に、スヴィーナは口を噤んだ。ビルシュタインは既に、パティとは違う視点で物事を見ている。木を見て森を見ぬに陥らないよう、プロジェクト全体のリスクを考え、動いている。
「リリィが抜けた穴は、本当に大きいな」
 ビルシュタインは呟いた。アトラスのチームの足音が目の前まで迫っていた。

 ルドルフを仲間に加えたアトラスは、各地で連勝を重ね、破竹の勢いでルクシオン東部、ヴィヴァリン北部を平定していった。既に軍は1万を超えようかという規模に拡大していた。後はビルシュタインズの本拠地であるホリデュラへ侵攻するのみだ。
「ビルシュタインを仕留めることができれば、世界の風向きは変わるだろう。ビルシュタインを倒す役目、それはアトラス、お前に一存したい」
 作戦会議の場で、ルドルフが発言した。この軍師は既に部隊から圧倒的な信頼を得ていた。
「もちろん、リスクは承知の上だ。万が一アトラスがビルシュタインに破れることがあれば、我々のチームは崩壊する。それでも、この大一番はアトラスが戦い、勝利すべきだ。大衆はわかりやすいストーリーを求めている。アイン・スタンスラインがブラエサル・グリードリッヒに勝利したときのように」
「ルドルフ」
 ゼノンが口を挟む。
「俺もその意見に賛成だ。そしてさらにいえば」
 ゼノンはアトラスを見やった。
「俺達のリーダーは、万が一にもビルシュタインに破れることは無いだろう。目の前にいるこの男は、大陸最強の戦士だ」
 作戦会議の場に出席していた全ての人間が頷いていた。アトラスは腕組みをし、ただその期待を受け止めている。謙遜するでも無く、高慢になるでもなく、ただ強者という事実だけを、彼は全身で表現していた。
「決まりだな。であれば、後は我々が道を切り開くだけだ」
 ルドルフは笑った。

 2週間後、アトラスのチームによる、ホリデュラへの侵攻が始まった。
 ビルシュタインズは精彩を欠き、大敗ではないにせよ、小さな負けを繰り返していた。スヴィーナの部隊こそ健闘したが、彼らは少しずつホリデュラの中心部である寺院へと追いつめられていった。ルドルフとゼノン、アトラスを含めた部隊が寺院へと乗り込んでいく。寺院の中央に、黒鉄の男はいた――。





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻←いまここ
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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