第13項 村医者ルドルフ2

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「昨日はゆっくり休めましたか?」
 ルドルフは朝食のパンを並べながら、パティに話しかけた。
「はい! ホテルの布団はとても暖かくて、ぐっすり眠れました」
「それはよかった。このホテルの布団は、村の羊から採れた羊毛を使っています。この村の羊は縮れの強い毛が採れますので、寝具を作ることに適しているんです。縮れによって作られたスペースが、布団の中に空気の通り道を作るからです。温かさと、吸湿性が素晴らしいでしょう」
「ほんとすごかったです。なんだか綺麗になれた気分!」
「どうりで、昨日よりも。冗談です。どうぞゆっくりしていってください。朝食にはコーヒーも合いますよ」
 ルドルフはパティとだけ話すと、その場を後にした。
 リリィはその場にふさぎ込んだ。
「お姉ちゃん、どうして話さなかったの?」
「無理よ。あの人はパティが好きなのよ、私とは目も合わしてくれなかった」
「そんなの朝の一幕だよ。待っていても何も始まらないよ? ほらほら」
「あなたみたいに能天気になりたいわ」
 リリィはパティの明るさを羨ましがった。けれどもこの日の夜も、次の日の朝もリリィはルドルフと会話することが出来なかった。リリィのいない場でパティと楽しそうに話しているルドルフを目撃したという情報も耳にしている。

「やっぱり避けられてるんだわ」リリィは頭を抱えた。
「大丈夫だよ。そうだお姉ちゃん、ルドルフさんコーヒーが好きなんだって。オルヴェンスワンのエスプレッソが飲んでみたいって言ってたよ。取り寄せてプレゼントしようよ」
「それはパティが届けた方が良いんじゃない? 盗み聞きしたみたいで、私はなんだか嫌だな」
「お姉ちゃんがネガティブになってる。じゃあ今度3人でご飯いこう!」
 パティの強い希望で、リリィ、ルドルフ、パティの3人で食事に行くこととなった。心無しかルドルフも緊張しているように見える。ある程度食事が進んだ後、パティは用事を思い出したと言って席を立った。
「ちょっとパティ?! すみません、自由な子で」
「いいえ。とても朗らかで、優しい妹さんだと思います」
 ルドルフは慈愛に満ちた目で言った。
「こんな素敵なチャンスを、彼女はつくってくれた」
 ルドルフは、リリィをじっと見た。そのまっすぐな目線に、リリィは頬を紅潮させる。ルドルフは胸元から、赤いバラを1輪取り出した。
「貴方のような素敵な女性にこそ、この花は似合います。受け取ってください」
 リリィは花束を受け取り、そして2人は、唇を重ねた。

 翌日、ルドルフは1通の封筒を村長へ渡した。
「村長、この手紙を出しておいてくれ」
 村長は宛名を確認し、秘密裏に進めようとだけ言った。
「ありがとうございます。ところで村長、例の仕掛けは?」
「君がホテルに滞在している間に、全て完了している」
「わかった。始めよう。その手紙が届いた日がマイルストーンとなる」
 ルドルフはその日を2日後と睨んでいた。

 そして3日が経った。
「私は村のはずれの掘建て小屋で、研究を続けているんです」
 ルドルフはリリィを連れて、ログハウスタイプの掘建て小屋までゆっくりと歩いていた。20分は歩いただろうか。何でもない会話だったが、リリィにとっては本当に楽しい時間だった。小屋に辿り着かなければ良いのにと思うこともあったが、彼女は小屋を目にすると、目を輝かせた。
「お洒落な家。想像力が働きそう」
「ここはビルシュタインズの皆さんには秘密にしていてください。あまり賑やかなのは得意じゃないんです。あなただから招待した。どうぞ、こちらへ」
 ルドルフは掘建て小屋の中にリリィを案内した。大量のフラスコやビーカー、本が山積みになっている。アルコールランプの匂いがわずかに残っていた。
「私が最近研究しているコーヒーです」
 ルドルフは笑いながらコップに口を付けた。リリィとルドルフは静かに時を過ごした。夕刻となり、リリィは名残惜しそうに小屋を後にした。
 隊に戻った彼女は、部下よりもたらされた情報により、現実に引き戻された。 





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2←いまここ
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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