第12項 村医者ルドルフ1

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 ルクシオンの贖罪の地に、1人の医者が佇んでいた。彼の目の前には、傷ついた初老の男性が横たわっている。神と復元者の戦争に巻き込まれて負傷した歴戦の勇士だ。しかし男性は、医者の処置を断っているようだった。
「人の生き死には、神のみぞ知ることだ」
 男性は弱々しく言った。彼は死を受け入れているようだった。生への執着を捨て、ぐったりと項垂れた男性の姿を見て、医者はニヤリと笑う。
「頑固者め。人は人の生き死にすら変えられる。それが医学であり、科学だ。俺はお前にメスを入れる。後は生きるも死ぬも勝手にしろ」
 医者―――ルドルフは気絶した男性にメスを入れ、完璧な処置を行なった。
 しばらくして目を覚ました男性は、溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。
「なぜ私は生きている? なぜ? こんなにも世界は美しい。私は、生きたい」
 ルドルフは男性の姿を見届けると、村医者に後を任せ、贖罪の地を去った。

 ヴィヴァリンの最西部ドラッグゲル・ドゾン。静寂に包まれた村のはずれに、ログハウスタイプの掘建て小屋がある。Yシャツにグレーのベストを羽織ったルドルフは、ここでコーヒーを湧かしながら、学術書を読みあさっていた。学問の合間にルドルフが考えるのは、エレメンシア大陸を2分する神と復元者の戦いのことだ。
「アトラスは一度たりとも負けてはならなかった。神に相対するためには、それが条件だ」
 ルドルフは神に歯向うものだ。幼少の頃より医学や科学を嗜み、勉学に秀でた才能を持つルドルフは、復元者がたとえ神に創られた存在であっても、神に運命をゆだねることを受け入れていなかった。しかし今、神を後ろ盾とするビルシュタインズの勢力が拡大し、支配地域を広げていた。そこでは神に屈服しない人々が凄惨な扱いを受けていると聞く。唯一神に対抗する存在となり得たアトラスも、シーガルでの敗北以来、勢いを失っている。世界は、神の意向に飲み込まれつつあった。
「だが俺は諦めはしない。起きたことは取り返せば良い」
 ルドルフは反撃を胸に誓った。そして1週間後、彼にチャンスが訪れることになる。リリィ・ゼクセリアの率いるビルシュタインズの主力部隊が、ドラッグゲル・ドゾンに駐留することとなったのだ。ドラッグゲル・ドゾンの村長は、ビルシュタインズへの対応を、村で最も聡明な人物であるルドルフへ一任した。村長もまた、古い人間の友人をビルシュタインズに殺された過去を持っており、ビルシュタインズに憎しみを抱いていた。
 ここはドラッグゲル・ドゾン、平穏な戦場と呼ばれた土地だ。ルドルフは村長の命を受け、まずはリリィ・ゼクセリアを精一杯迎え入れることに決めた。
 予告されていた時間に、リリィの騎馬隊が村の門をくぐり抜ける。中央広場で馬を止めると、リリィは村の代表に挨拶がしたいと言って馬を下りた。リリィの声に反応したのはルドルフだ。彼は上下黒のスーツにネクタイを身につけ、洗練された立ち振る舞いで花束をリリィに手渡す。
「ようこそ、姫。何もないところですが、精一杯のもてなしを用意しております。戦いの疲れを癒す手助けになれば幸いです」
 ルドルフはリリィに対して、爽やかな笑顔を振りまいた。

『お姉ちゃん、あの人すっごい格好良いね』
 パティはリリィに耳打ちした。しかしその言葉はリリィの耳に入っていないようだった。あ、だめだこれとパティは思う。
『ちょっと、お姉ちゃん、しっかりしてよね』
「わかっているわよパティ。私がこの程度でぐらつくわけ無いでしょう」
 すごくぐらついているように見えるのですがとパティは思いながらも、ニヤニヤ笑ってリリィを見つめていた。
「なに? その目」
「んーん? 何でもない! おもてなし楽しみだねえー」
 パティはリリィの腕を引っ張って、ドラッグゲル・ドゾンのホテルへ向かった。彼女らはこれまで食べたことの無い山の幸と、激辛のパクシャパを頬張り、ルドルフ達との会話を楽しんだ。医者であり、学者でもあるルドルフの話は、理論派であるリリィの胸に響いた。
 宴の後、夜風に当たりながらルドルフは想う。『人は、不確定な未来の不確定要素を少しでも減らすために、プロジェクトを計画し、実行し、監視する方法を造り出した。人は人自身の手で未来を創ることが出来るはずだ』と。
 彼は不敵な笑みを浮かべていた。
 





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1←いまここ
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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