atlas

「さあ、お前達はどうする。忍びの者と共に滅ぶことを選ぶか、それとも我々と共に生きることを選ぶか」
 ビルシュタインはアトラスに剣を向けた。アトラスははっはと豪快に笑う。
「ビルシュタインよ、我が名はアトラス。お前のようなこわっぱと共に歩もうとは思わん」
 ビルシュタインズの面々がざわつく。黒鉄の魔戦士は強く叫んでいた。
「神に選ばれしビルシュタインズを愚弄するとは。身の程を知れ!」
「神の後ろ盾が無ければ身動きの取れぬ小物が何を言う。この俺が力というものを見せてやる」
 アトラスは山肌に植わっている大木を両手でつかみ、引き抜いて、ビルシュタインへ投げつけた。ビルシュタインズの面々はクモの子を散らすように逃げていく。1000名が窮屈に並んでいたため、隊列は混乱し、統率が取れなくなっていた。
「行くぞゼノン! 山での戦いは我々に地の利がある。綺麗に勝つ必要は無い、山を駆けるモンスターとなれ!」
 アトラスは言うと、さらに山肌のいくつかの木を引き抜き、ビルシュタインズの面々へ投げつけた。それから柔らかくなった山肌を蹴りで掘り起こし、擬似的な土砂崩れを起こした。馬は足をとられ、行動力が激減する。
「よし、なんとかやってみるぞ、お前達、続け!」
 ゼノンもこれを勝機と見、ビルシュタインズへと襲いかかった。絶望的なまでの被我兵力差を引っくり返す、アトラスの影響力――それは地位でも後ろ盾でもない、圧倒的な力だ。

 狭い山道で繰り広げられたこの戦いは、アトラスという怪物によって蹂躙されていた。アトラスは山肌を駆け、馬に乗るビルシュタインズの兵達を蹴り飛ばし、その度にビルシュタインズは後退を余儀なくされた。アトラスはさらに奪い取ったスピリットを復元し、山道を完全に制圧した。
「あんなの反則だよ、普通じゃないよ」
 パティは震える声でそれだけを言った。彼女はまだ小さなスヴィーナを守るように抱え、森を降りていた。けれどスヴィーナは、圧倒的な力を持つアトラスの戦いぶりに陶酔していた。
「あっ」
 パティは木々に足をとられた。ゼノンと山賊達がすぐ側まで迫っている。
「いたた。ごめんねスヴィーナちゃん、私が絶対に守るから」
 パティはスピリットを携え、山賊達の襲撃に備えた。
「もう大丈夫だよ。パティ」
 スヴィーナは何かを決意した目で、パティの前に立ちはだかった。
「ありがとう」
「スヴィーナちゃん!」
 パティは気づいていた。スヴィーナが自分のついていきたいと考える強い存在を見つけたことを。けれど今の状況でそれを認め、彼女をアトラスの元へ向かわせるわけにはいかない。自分が助かりたいからスヴィーナを見捨てたんじゃないかって、後悔だけはしたくないからだ。
「だめだよ!」
 パティはスヴィーナに後ろから抱きついた。
「ここから無事戻って、それから考えよう? スヴィーナちゃんの選択を私も応援したいって思う。だけど今はまだ、ビルシュタインズのスヴィーナちゃんなんだ。私の仲間なんだよ」
 パティの温もりがスヴィーナに伝わる。少女は顔をくしゃくしゃにした。
「だったら、木なんかに躓いてるんじゃないわよ!」
 スヴィーナはパティの持つスピリットを奪うと、巨大な獅子を復元し、山賊達を払った。スヴィーナに操られた獅子は力強く、俊敏に動き回り、道の中央に陣取って咆哮をあげては、ビルシュタインズの撤退ルートを切り開いた。
「ほえー、すごいねえ」
「そこ、気が抜けるからしゃべらないでくれる」
 スヴィーナはパティに抱きかかえられながら、後方の山賊達を見やり、獅子を操作して退路を維持した。強い意志が人を変える――スヴィーナの復元者としての能力はこの時、覚醒した。

 アトラス達は戦いに勝利した。この戦いは後に『疾風の森を駆ける王者』として伝説となる。しかし忍び達はアトラス達に感謝こそすれど、協力をしようとはしなかった。忍びの者達に変化が訪れるのは、この数ヶ月先のことだ。





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者←いまここ
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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