atlas

 山賊――ゼノンの襲撃に対して、復元者の反応は異様だった。彼らは山賊の襲撃を、発生した略奪を受け入れ、また日々の生活へ戻っていったのだ。何の対策も批判もせず、まるで山賊の襲撃などなかったかのように、日常を取り繕っている。山賊への恐怖を感じてもいるはずだ。けれどそれは表情に表れず、誰も彼も笑顔を浮かべている。

 アトラスは、シーガルの収容所へ連れて行かれるヴァリアスの表情を思い出していた。陰と陽こそ違うが、結局はここも収容所と同じなのだ。復元者は心を殺して生きている。
「いくぞ」
「ヴァリアスだよ」
 ヴァリアスはアトラスの側へ走りよった。2人はゼノン達の残した足跡を辿り、山賊のアジトへと辿り着いた。
「なんだお前は! どうしてこんなところに部外者がいる!」
 アジトへつくなり、アトラス達は罵声を浴びせられた。
「兎よりも足跡隠すのが下手だからだよ!」
 ヴァリアスも負けじと言い返した。どうやらこの16歳の少女には勇気が備わっている。
「そういうことだ。山賊狩りに付き合ってもらうぞ」
 アトラスはにやりと笑うと、俊敏な動きで山賊の喉元に一撃を浴びせた。彼は地面に転がったスピリットを手にし、それを復元した。巨大な獣がアトラスの背後に表れる。
「なんだ!? どうして、俺達が復元した時はあんなに大きくなかった、肉厚も! どうしてこんなに復元した獣に違いがあるんだ!」
「悪いが手加減はできん、初めてだからな」
 アトラスの復元した獣はあたり一面を蹂躙した。叫び声がこだまする。

「煩いぞ、なにをやっている」
 そこへ表れたのはゼノン。彼は驚愕の表情を浮かべた。
「な!? なんだこれは。全滅している・・・!? お前がやったのか」
「どうやら引きずり出すことが出来たな。お山の大将」
 アトラスはふてぶてしい笑いを浮かべながら、腕を延ばし手招きをした。
「貴様、馬鹿にするなよ」
 月を背にして、2人の大男が対峙する。しかし勝負は一瞬でついた。アトラスのショルダータックルがゼノンを吹き飛ばし、弾き飛んだ空中のゼノンに対し、アトラスの豪腕が振り下ろされて、ゼノンは地面に叩き付けられ気絶した。気絶したゼノンが目を覚ますと、周りには彼を心配そうに見つめる山賊の仲間達とヴァリアス、そして月を見上げるアトラスがいた。
「驚いたな。お前はビルシュタインズの一員なのか」
「関係はない。ただの復元者だ。然るにゼノンよ、お前は何故に復元者を襲う?」
「・・・憎悪さ。人間は復元者を滅ぼそうとしているが、神は復元者を操ろうとしている。そんなものに縋って自己を押し殺す復元者達を俺は許せない。誰も復元者を幸せにしないなら、俺が滅ぼしてやる」
「そうか。ならばゼノン、お前は間違っている」
 アトラスは月に手を伸ばす。
「復元者は弱者だ。弱者を滅ぼしても、その先には新しい弱者が生まれるだけだ。滅ぼすべきは弱者ではない。強いものを滅ぼすのだ」
 アトラスは言い、山賊たちを見渡した。誰にも言葉は無かったが、言わんとすることは自然と共有された。ゼノンが口を開く。
「お前の名は」
「アトラスだ」
「アトラス、俺達の期待を引き受けてくれるか」
 ゼノンはアトラスにリーダーとしての役割と責任を問うた。アトラスはもう1度山賊達を見渡す。全員が1つのヴィジョンを共有していた。
「わかった、受けよう」
 アトラスはゼノン達の押収した宝の中から、紅色の仮面を選び、空へ掲げた。
「我が名はアトラス。復元者の期待を背負い、叶えるものだ」
 アトラスは仮面を身につけた。彼はこのとき、1人の復元者としてのアトラスではなく、記号としてのアトラス、人々を統べるリーダーとしてのアトラスとして生きていく覚悟を決めた。





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン←いまここ
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

ピックアップ記事

  1. 59736578-19f0-4460-a22b-36c70aa80895
    プロのイラストレーターの挿絵であなたの作品を一層魅力的にします! プロのシナリオライターがあな…
  2. アイン2
    こんにちは。 橋本橙佳です。 このエントリでは橋本橙佳が様々なクリエイタ…
  3. gaiden1
    これは、秘匿とされた物語。 &nb…

Twitter でフォロー

ページ上部へ戻る
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。