atlas

「何だ貴様! 我々に逆らうのか?」
「逆らうも何も、俺はシーガルまでの道案内を頼んだに過ぎない」
 アトラスは飄々と言った。殴られた男は立ち上がると、もう1人の人間と共に携帯していた小刀やライフルを構え、アトラスを威嚇するが、大男は1歩もひるまない。そうこうしているうちに人間の1人が誤ってライフルを発砲した。しかしアトラスはそれをかわして人間に豪快なハイキックをお見舞いすると、そのまま2人目の顔面へ膝蹴りをかました。さらにジープの運転手も引きずり出して、フロントドアに顔面を押さえつけて殴り、気絶させた。

 復元者達は圧倒的な力を見た。アトラスは町並みを確認すると1人呟く。
「ここも俺の生まれ育った土地ではなさそうだ」
 大男は少し寂しそうだった。ヴァリアスは大男の右腕に、何かへ縋るように抱きついた。
「アトラスは、自分の生まれ育った場所を覚えていないの?」
「そうだな。わずかな記憶と潮の香りだけが脳裏に焼き付いている」
「それならもう少し南の方かもしれない。ここは海からだと遠いよ」
 ヴァリアスが腕を引っ張ると、アトラスも僅かに笑顔を浮かべた。

 そのとき、復元者の男性が叫びだした。
「あんた! なんてことをしてくれたんだ。ヴァリアスも、その男から離れた方が良い。人間様に楯突いて、復元者狩りでも行なわれたらどうするんだ。俺達はひっそりと生きていければそれで良かったんだ! 困るんだよ、あんたみたいなやつがいると」
 男は叫びながらも、最後の方は力なく言った。男は両手で顔を抑え、うずくまってしまった。アトラスが顔をしかめていると、後ろから白いひげを生やした老人に話しかけられた。
「気にせんで良い。あなたのおかげで私たちは助かった。それは感謝こそされ、糾弾されるようなものではない。彼はシーガルから、山奥へ戻るまでの帰路が不安なんじゃよ。人間に見つからず、無事帰れる保証など無いからな」
 老人は、ふさぎこんでいる男の肩に手を置いた。
「どうじゃ。よければワシについてこないか? シーガルの中にも復元者が生きられる場所はあるんじゃ」
 老人は人々の羨望の眼差しに満足そうに頷くと、人々をシーガルの一角へと案内した。その一角はシーガルの繁華街にありながらも、人間達の干渉を受けていないように思われた。ヴァリアスは不気味さを感じる。本当はここは人間の住処で、この老人は自分たちを人間達のアジトへ誘導しているのではないかと疑っていた。
「ワシを警戒しているようじゃな、お嬢ちゃん」
 老人は壁に取り付けられた小箱からスピリットを取り出すと、それをランプに復元してみせた。
「これで信用してもらえたかな? ワシはこの通り復元者じゃ。この通りに住まうのは全て復元者じゃ。人間はこの通りに干渉することはできない」
 ヴァリアスは目を丸くする。本当に復元者が自由に住むことの出来る世界があるのだと希望が胸を満たしていく。
「それじゃあ、私たちもこの通りに住むことが出来るの?」
「もちろんじゃ。ただし条件がある」

 この狡猾な老人は、左腕を覆うシャツをまくり上げた。二の腕のあたりに葡萄をモチーフにした紋章が刻まれている。
「この通りはビルシュタインズに所属するものだけが住むことの出来る土地。ビルシュタインズとはすなわち神に認められた復元者のグループじゃ。希望者はワシと同じようにビルシュタインズに入ってもらう。そうすれば住む場所と食事を提供しよう。温かい風呂にも入れる。ビルシュタインズに入らないものたちは、この通りを戻って、人間の目の届かない場所まで逃げ延びれば良い」
 復元者達に選択の余地はなかった。彼らは老人の言う通り、ビルシュタインズへ入るための手続きを進めていった。ただ2人、ヴァリアスとアトラスを除いては。
「お嬢ちゃん、先ほど活躍した大男の兄ちゃんも、さあ並んで並んで」
「悪いが俺は遠慮させてもらう。まだシーガルを一周もしていないのでな」
 アトラスは老人に背を向けると、手を振って歩いていった。ヴァリアスも頭を下げ、アトラスに続いた。
「ねえ、アトラス。どうしてビルシュタインズに入らないの?」
「あの交渉は誠実ではない。交渉においてはメリットとデメリットを説明し、相手の意志を尊重しなければ、ゆくゆくに禍根を残す」
 アトラスの言葉はヴァリアスには少し難しかったが、うんと頷いた。 





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男
第2項 ビルシュタインズ←いまここ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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