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 世界は未曾有の危機を迎えていた。
 エレメンシア大陸の西端の地オルヴェンスワンへ神が降臨して、どれだけの月日が経ったろうか。神は、『復元者――スピリットから物質を復元する能力を持つもの』を自らが造り出した傀儡だと評し、従え、勢力を拡大していた。オルヴェンスワンを制圧した神の軍勢は、勢いそのままにルクシオン、ヴィヴァリンへと歩を進め、これらの地域に住まう人間を殺戮し、人間と復元者の関係を破壊していった。

 しかし人間も黙って滅ぼされる運命を受け入れたわけではない。
 カリアス・トリーヴァという別の次元から現れた超越者の力によって、人間は革新し続ける知恵を手に入れた。人間はライフルを構え、鎧を纏い、爆弾を抱えて復元者に対抗していく。ルクシオンの中心部レバノンを戦場に、人間と復元者の戦いは激しさを増していた。

 そしてヴィヴァリンの1都市シーガルでは、人間が優位を得て、復元者を収容所へ入れは、大量虐殺を行なう、ということが繰り返された。復元者たちは人間達を恐れ、村はずれの山奥に塹壕を築き、ひっそりと生きていた。16歳の赤髪の女性ヴァリアスもその中にいる。

 人間たちがパトロールを行なう真夜中は、息を潜めて見つからないように監視をしなければならない。安心して眠ることも許されない日々が続く。ヴァリアスは、生命維持のための食事・睡眠といった本能的・根源的な欲求を満たしたいと考え生きていた。16歳の少女が抱くにはあまりに寂しい、人が欲する、最低限の望みにすぎない。ヴァリアスが唯一楽しみにしていた娯楽は、空腹から解放されるために行なう狩りだった。

 雪の舞う冬。この日も彼女は、山の麓でキノコ狩りをし、兎を狩っていた。兎は前足が短く後足が長いから、山を下るのは得意ではない。兎自身もそれを自覚しており、上へ上へと逃げる習性がある。また、兎の足跡を追っていくと、途中で急に足跡が途切れる場所がある。わざと大きく跳ねて足跡を消し、天敵から身を守っているのだ。けれど習慣的に、その周辺で寝ていることが多かった。ヴァリアスがこの日見つけた足跡も、突然消えており、付近で兎が休んでいることが想像できた。彼女は持ってきていた仕掛けを置き、兎をその仕掛けに誘い込むことを考えていた。
『今日は御馳走ね』
 ヴァリアスはそう考えながら、手を叩いて音を出し、兎がカサカサと動き出すのを確かめて、仕掛けの方へ兎を誘い込むべく走り出した。そして見事兎を仕掛けで捕えることに成功した。
 しかし兎を捕らえた喜びもつかの間、彼女は背中に寒気を覚えた。そこには武器を構えた2人の人間が立っていたのだ。人間は人形のように動かず、目玉だけを動かしてヴァリアスを見ている。見つかっていない?ヴァリアスのそんな期待はすぐに絶望へ変わる。人間達は彼女の赤い髪を確認すると目配せをし、棍棒で彼女を殴り始めた。
『やめて、痛い。ごめんなさい、ごめんなさい』
 ヴァリアスは心の中で叫ぶが、その叫びは誰にも届かない。彼女は縄で縛られ、ジープへ乗せられた。彼女を捜しにきた復元者の仲間達も、根こそぎ捕えられ、このジープに乗せられている。ジープはシーガルの収容所へ向かうのだろう。彼女は自分が仲間を不幸にしたと膝を抱え、自らの不注意を酷く後悔していた。彼女の心は死んでいく。
 そのヴァリアスに話しかけられた野太い声――。
「何故お前達は、諦めた目で世界を見ているのだ」
 ヴァリアスは目を開いて声の主を見た。2ベルトはあろうかという大男。茶色の長髪がたてがみを思わせ、瞳はギラギラと輝いている。
「あなたは?」
「わからぬ。ただアトラスという名が与えられたことだけは覚えている」
 アトラスという男はそれだけを言うと、ヴァリアスの頭に手を置いた。大きな掌から、ぬくもりが伝わってくる。
 そうしているうちに、ジープがシーガルへ辿り着いた。

 人間達はヴァリアスらについてくるよう指示をした。復元者の集団はこれから始まる収容所での生活を想像して沈黙していた。誰もが心の奥で、ヴァリアスを恨んでいた。16歳の少女は、人々の視線から、その感情を敏感に察していた。
 そのときのことだ。人間に急かされて立ち上がったアトラス、この男はヴァリアスに一目目配せすると、人間の1人を思い切り殴り飛ばした。





《クレイモアクロニクル目次》
第1項 アトラスという男←いまここ
第2項 ビルシュタインズ
第3項 ビルシュタイン
第4項 山賊ゼノン
第5項 パティ・ゼクセリア
第6項 スヴィーナ
第7項 忍びの森
第8項 疾風の森を駆ける王者
第9項 アルネスト・リークラク
第10項 忍者エッジ
第11項 リリィ・ゼクセリア
第12項 村医者ルドルフ1
第13項 村医者ルドルフ2
第14項 村医者ルドルフ3
第15項 ホリデュラ侵攻
第16項 ペルソナ
第17項 救い
第18項 黒鉄の仮面
第19項 カリスマ
クレイモアクロニクル エピローグ

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