第15項 狂人達

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 アルバ・ベータはメルッショルドの裕福な家に生まれた。武器の製造工場で働く父親が、巨額の保険をかけた上で事故を起こし、右半身の麻痺を煩った。彼は巨額の保険金を受け取り、障害者年金も受け取り続けた。母親は介護を続けていたが、アルバが10歳の時に新しい夫を作り、遺産を置いて逃げていった。アルバ・ベータは父親の介護を行ないながら、人間の身体がどんな風に動くのか、どう動いたら痛みが走るのか、そんなことを父親の身体と、自分の身体で実験し始める。同時に彼は、どうすれば楽に死ねるかを考え始めた。

 アルバ・ベータは残された遺産を使って、化学を学んだ。12歳の頃、彼は純正のヘリウムガスを用いて、父親を安楽死させた。人間は酸素濃度が極端に低い気体を肺に吸い込むと、身体の中にある酸素が奪われ、意識を失う。すると呼吸が停止し、20分もしないうちに死に至る。アルバ・ベータはこの実験を行なった後、さらに人間を殺してみたいと思うようになった。その興味は化学ガスにとどまらず、物理的な殺傷兵器にも広がっていった。

 特にカリアス・トリーヴァのつくった最新兵器に興味を持ち、戦場で兵器が使用される様を見てみたいという欲求に駆られていく。小さな強盗グループを立ち上げたのはこの頃だ。そして天才発明家アーサー・ラーレンティアと出会った。アーサーは銀色の長髪をなびかせた”人間”で、生き物の意志を操りたいと考える狂人だった。彼はアルバと共に行動するようになってから、特殊なチップの開発に成功する。強盗ついでに人間をさらって、そのチップを人間に埋め込んでリモコンで操るといったことをしていた。

 彼らのパトロンは、ゴッズ・ヴァルスと呼ばれる実業家だった。龍の仮面をつけたこの男は、スピリット鉱山や石油プラントを経営し、多額の金を所持していた――噂によると龍の仮面を付けた3、4人の人間がゴッズ・ヴァルスを名乗っており、別々に活動していたといわれる。

 アルバとアーサーの隣には、フィーと呼ばれる緑髪の女性もいた。彼女は復元者と人間のハーフだったが、復元能力は使えなかった。人間からは復元者扱いされ、復元者からは人間扱いされるはみ出し者で、次第に、自分は強くあらねばならないと考えるようになる。彼女は殺人鬼のナイフを集めることが趣味で、多くの人間の血を吸ったナイフを見ると、息が上がって動悸が激しくなった。アルバやアーサーとの出会いは、骨董品屋の中だった。アーサーが特殊な古文書を欲しがったために侵入したこの店で、2人はフィーと出会う。彼女も、骨董品屋に貴重なククルナイフを盗みに入ったのだった。彼女の手口が鮮やかだったため、アルバはフィーをスカウトした。アーサーもまるでルパンだなあと笑っていた。

 この頃彼らは、『プリズン』を名乗るようになる。”牢獄”の意をもつこのチーム名は、アルバが名付けた。世界は理性によって抑圧された牢獄で、そこに生きる我々は皆囚人だ、と。これ以降彼らは狂気の行動を繰り返していく。

***

 狂気――それはこのマタリカ大陸だけでなく、エレメンシア大陸にも溢れていた。クレイモアによる戦争もそうだが、強大な狂気はエレメンシア大陸の最東部サイドランド。その森の中に、存在していた。

 男の名はゼットバーン。彼は暗黒教団という宗教集団の教祖だ。上半身裸で座して瞑想を行ない、紫の髪をなびかせる彼は、”精霊”だった。
 彼は、永い時を生きた精霊にも関わらず、ヴァルマサルサやプロメテウスのような『安定』ではなく、『滅び』を望んでいた。
「世界には哀しみが満ち満ちている。この凄惨な世界を救うために、人間と復元者は、共に滅びなければならない」

 ゼットバーンは人々に、救世神の存在を説いた。いまオルヴェンスワンに降臨しているのは、神だが救世神ではないのだという。救世神は、世界が本当に苦しんでいる時に降臨し、不要なものを浄化する。だから信じて待つのだと。

 ゼットバーンの教えは精霊を中心に信じられた。ラスタラスラに棲む若い精霊――レイのような若者が、人間や復元者に対して強行に出るべきだと話すのは、暗黒教団の教えが、わずかながらラスタラスラにも影響していたためだ。

 ゼットバーンは、『邪神ディアボロス』を蘇らせようとしていた。ヴァルマサルサが神を蘇らせたように、彼も人造の神の降臨を願っていた。そして『邪神ディアボロス』の胴体は、このサイドランドの地で発掘が行なわれている。
「あとは頭か。だが、入れ物はあっても、このままでは魂は宿らないだろう。マナ次元から、魂をこの3次元空間へ定着させるための、『鍵』が必要だ」
 彼は教徒を使って邪神の復活に必要なパーツを探させていた。

 彼はサイドランドの森で時を待つ。ディアボロスに降臨してもらい、そして願わくば・・・世界を滅ぼして欲しいと、彼は祈っていた。



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《第3部マクシード・ライゼンハルト目次》
第1項 マクシード・ライゼンハルト
第2項 エンドラル・パルス
第3項 クラリス・レイヤー
第4項 エドガー・ラルティーン
第5項 将軍ルドルフ
第6項 復元者スヴィーナ
第7項 アトラス

第8項 エルフィ
第9項 ヴァルマサルサ
第10項 レイブン
第11項 人造の神
第12項 レイ
第13項 龍王プロメテウス
第14項 アルバ・ベータ
第15項 狂人達←いまここ

第16項 グルジア侵攻
第17項 会談
第18項 停戦友好条約
第19項 72(セブンティツー)
第20項 1人の人間
第21項 決裂
第22項 プロフェッサーPO
第23項 エッジ
第24項 神の光

第25項 戦場の男女
第26項 カリアス・トリーヴァ
第27項 儀式
第28項 邪神ディアボロス
第29項 還元者
第30項 光
第31項 セフィロス
エピローグ3

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