第10項 レイブン

max

「できるだけ足音は消していけ。精霊はヒトの数倍耳がいい」
 アドヴァーグは兵隊達に隊形を指示すると、自らはエリカを引き連れて精霊王の城門へ近づいた。彼がいま動いているのは、3年前のように精霊を殺して人器を造るためではない。正確にいえば、3年前と同じように人器を造るため精霊王ヴァルマサルサや、龍王プロメテウスの調査を行っていた過程で、ある事実を知り、人間にとって絶対的な脅威となる”それ”が使用される前に、精霊王を倒さなければならないとの確信に至ったのだった。彼は、エンドラルとの戦いでリソースを使い切っていたため、巨大組織――フォルス提督の率いる『人間による自治を目指す組織ファルコン』に協力を仰ぎ、暗躍部隊レイブンの一員に加わり、兵と装備の提供を受けていた。彼がつきとめた情報とは――。

「おっと、これ以上は近づけさせないぜ」
 アドヴァーグの目の前に立ちはだかったのはライド。
「アドヴァーグ、なんだか変な生き物がいます」
「エリカ、出来るだけ手を出すな。まずは俺が様子を見る」
 アドヴァーグは剣を抜いた。ライドとの決闘が始まる。3年前の戦いで右肩を負傷したアドヴァーグだが、世界一の剣豪であった父から受け継いだ才覚と、彼自身の鍛錬が、そんな傷を感じさせない。そうなると凄いのはライドだ。この不思議な生き物は、アドヴァーグの動きについてきていた。剣同士がぶつかり合う音が響き合う。

「これでは、城の中の獲物が起きてしまうな」
 アドヴァーグは兵隊に、退却の指示を出す。同時に自身も夜の闇へと姿をくらまそうとする。
「逃がすか!」
 ライドが走り込む。それに対してエリカが銃を放った。サイレンサー付きのワルサーモデルだ。だが銃撃の衝撃と共に、エリカの腹部へ強い衝撃が走った。エリカは気絶していた。

「おせーぞ、ハテプ」
 エリカの腹部に強烈な一撃をお見舞いしたのは、全身茶色の物体――巨大なハンバーガーみたいなものの頭に、赤い角がついている生き物だった。この物体はグローブをつけていて、その強力なパンチでエリカを気絶させたのだった。
「わるいネ、わるいネ。よく寝てたネヨ」
「敵は逃がしたが、とりあえず1人捕えたから良しとするか。今日から警備を増強すっぞ。猫族の戦士たち――ジャスティンとフィーナにも伝えとくか」
 外の喧噪に起こされて、ヴァルマサルサも外へ出ていた。
「何があった」
「侵入者です。1人は捕えました。人間、のようですね」
 ライドはエリカを担ぎ上げると、城の地下にある牢へ閉じ込めた。

 ――翌日。エリカに対する尋問が行なわれた。
「女よ、何が目的でこの島に侵入した? この島が不可侵条約の対象だと知っての行動なのかね」
「それはあなた自身、わかっていると思いますが」
 エリカは気丈にヴァルマサルサを睨んだ。ヴァルマサルサは何も知らない、という風な表情をした。
「しばらく牢に閉じ込めておけ。ただし食事は抜きだ。女、気が変わったらまた話しにこい。いつでも待っているぞ」

『この程度で尋問とは。やはり精霊のやり方は甘いわ』
 エリカは微笑を浮かべる。全てを悟ったような表情で、彼女は牢へ戻った。夜を待ち、彼女は歯に仕掛けていた小型爆弾を起動させる。
『アドヴァーグ、どうかヒトの未来を、守って』
 爆発音があたりに響き渡った。
「合図だ。エリカ・レイフォード、最後まで、大義であった」
 アドヴァーグはエリカの冥福を祈ると、精霊王の城へと軍隊を進めた。
「敵方には腕のいい戦士がいるぞ、気をつけろ。俺は精霊王のもとへ向かう!」
 アドヴァーグは城の中へ走り込んだ。城の中では精霊王が兵団の統率をとる。
「ここは危ない。マックス君。エルフィと一緒に裏のトンネルから逃げるのだ」
「精霊王、俺もあなたと共に戦わせてください。死ぬ気は、無いんでしょう」
「いいだろう。エルフィ。1人で行けるな。必ず後で合流する。信じて、前だけを向いて走りなさい」
 ヴァルマサルサは娘を抱きしめ、そして送り出した。

「わかりました」
 少女は強いまなざしで2人を見やり、もう振り返らなかった。
『お父様、マックス、無事でいて』



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《第3部マクシード・ライゼンハルト目次》
第1項 マクシード・ライゼンハルト
第2項 エンドラル・パルス
第3項 クラリス・レイヤー
第4項 エドガー・ラルティーン
第5項 将軍ルドルフ
第6項 復元者スヴィーナ
第7項 アトラス

第8項 エルフィ
第9項 ヴァルマサルサ
第10項 レイブン←いまここ
第11項 人造の神
第12項 レイ
第13項 龍王プロメテウス
第14項 アルバ・ベータ
第15項 狂人達

第16項 グルジア侵攻
第17項 会談
第18項 停戦友好条約
第19項 72(セブンティツー)
第20項 1人の人間
第21項 決裂
第22項 プロフェッサーPO
第23項 エッジ
第24項 神の光

第25項 戦場の男女
第26項 カリアス・トリーヴァ
第27項 儀式
第28項 邪神ディアボロス
第29項 還元者
第30項 光
第31項 セフィロス
エピローグ3

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