第8項 エルフィ

max

 レバノンの戦いは終わった。TX640による焦土作戦の後、ガスマスクを装着した2万の軍勢が、レバノンの全ての家屋の人間を虐殺し尽くした。その姿は後に『悪魔の行進』として絵画が描かれたし、これ以後悪魔の使いといえば、ガスマスク風の顔をつけた二足歩行の生き物というのが定着するほどに、レバノンの惨劇の物語は人々の間に広がっていた。

 マックスも、レバノンでの出来事以来、気持ちが酷く落ち込んでいた。自分の呼びかけが、間接的にエンドラルとクラリスを死地へ追いやってしまったと、責任を感じていたのだった。マックスはアトラスの計らいにより、ヴィヴァリンの比較的平穏な戦場へ左遷された。

 そこでの生活は大半がパトロールだった。剣を抜く場面と言えば、稀に起きる小競り合いを仲介する程度。
『戦士でなくても出来る仕事じゃないか』
 マックスは次第に、そう考えるようになる。そしてまた、自分が何のために生まれてきたのかを考えるようになった。虚無感が胸を満たしていき、胸のモヤモヤは高まるばかりだった。

 そんなある日、マックスは森林地帯で、ガサゴソという大きな音を聞いた。ゲリラ兵の存在を警戒した彼は、できるだけ気配を消して音源の側へと近づいた。そしてブレイブソウルを引き抜こうと考えた瞬間、物音の主に拍子抜けした。そこには羽の生えた4足歩行の動物と、その動物を撫でる少女がいた。
「なんだ君は」
「あ、驚かせてしまってごめんなさい。この子が疲れてしまって、ここで休ませてもらっていたんです」
 少女は答えた。とても可愛らしい声。
「そうだったのか。ん、膝から血が出ている」
 マックスは腰のポケットから救急道具を取り出すと、少女の膝を消毒して絆創膏を貼ってやった。
「これぐらいの怪我だったら、痕も残らない。き、君みたいな子の足に傷が残ったら大変だ」
「ありがとう。私エルフィって言います。ラスタラスタから来ました」
「ラスタラスタ? 精霊の島だな。そんな遠いところからよく来たね」
「はい。この子――エシュロンに乗って飛んできました。エシュロン、しばらく休んでいて」
 エルフィと名乗った少女がそう言うと、エシュロンと呼ばれた天馬は姿を消した。
「スピリットが残らない・・・復元能力じゃないのか」
「私は精霊の娘だから。復元能力とは違う形で、友達を召喚することが出来るんです。それより、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「あ、俺はマクシード・ライゼンハルト。マックスでいい」
「わかった。ありがとう、マックス。素敵な名前ね」

 エルフィは言って笑った。そのあと2人は、たわいもない話をした。マックスはクレイモアでの戦いの話を、エルフィはラスタラスラでの平穏な話を。話の中で、エルフィが16歳でマックスの1つ下だということもわかった。マックスは話しながら、胸のドキドキを抑えられなかった。

「そうだ。もしよかったら、ラスタラスラに来ませんか? ラスタラスラの田舎町は、ここと比べたら凄く静かで、いいところですよ」
 エルフィの誘いに、マックスは少し迷って、頷いた。彼はヴィヴァリンでの生活に疲れていた。エルフィはマックスの疲れを見抜いていたのかもしれない。それにマックスは、クレイモアでの生活に疑念を抱き始めていた。

「エシュロンももう大丈夫かな」
 エルフィはエシュロンと呼ばれる天馬を召喚した。
「2人分になるけど、ちょっと我慢してね」
『エルフィ ノ ウンパン デ、 オモサ ニハ ナレテイル』
「もう、私はそんなに重くないから。さ、マックス。私の後ろに乗って。お腹のところを抱いててね。結構揺れるから」
「あ、ああ」
 マックスはぎこちなくエルフィに抱きついた。甘い香りがマックスの鼻をかすめる。エルフィは少しこそばゆそうな表情を見せたが、すぐ前を向いて、エシュロンに取り付けられた手綱をとった。2人を乗せた天馬は空を駆けた。

 空から見るエレメンシア大陸――特にヴィヴァリンやサイドランドにまたがる地域は、緑の美しい大地だった。マックスはこの大地で戦争が起きるのは、皆がこの美しさを知らないせいなんじゃないかと、そんなことを考えていた。



《第3部マクシード・ライゼンハルト目次》
第1項 マクシード・ライゼンハルト
第2項 エンドラル・パルス
第3項 クラリス・レイヤー
第4項 エドガー・ラルティーン
第5項 将軍ルドルフ
第6項 復元者スヴィーナ
第7項 アトラス

第8項 エルフィ←いまここ
第9項 ヴァルマサルサ
第10項 レイブン
第11項 人造の神
第12項 レイ
第13項 龍王プロメテウス
第14項 アルバ・ベータ
第15項 狂人達

第16項 グルジア侵攻
第17項 会談
第18項 停戦友好条約
第19項 72(セブンティツー)
第20項 1人の人間
第21項 決裂
第22項 プロフェッサーPO
第23項 エッジ
第24項 神の光

第25項 戦場の男女
第26項 カリアス・トリーヴァ
第27項 儀式
第28項 邪神ディアボロス
第29項 還元者
第30項 光
第31項 セフィロス
エピローグ3

 

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