第3項 クラリス・レイヤー

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 マックスたちの部隊は、人間の補給部隊を叩くことができなかった。それによって、ゼノンの前線部隊は次第に押され、最終的には撤退を余儀なくされた。ゼノン軍の戦死者8500名、人間軍の戦死者2万名を出したこの戦いは、後にシリウスの戦いと呼ばれた。恒星シリウスが見え始める時間に開戦し、シリウスが消える頃に終演したからだ。

 ゼノン部隊の敗北を受けて、何人かの人間がレバノンへと異動されることが決まった。マクシード・ライゼンハルトもそのメンバの1人であった。レバノンはエレメンシア最大の激戦区であり、この人事は実質『名誉の戦死を遂げよ』と言われているも同然だった。

***

 ――レバノン。
「エンドラル、よかった。生きていて」
 クラリス・レイヤーは、エンドラルの帰還に安堵の表情を浮かべた。
「俺は簡単には死なないさ。それよりすまない。補給部隊の4割はやられてしまった」
「6割が無事なら何とかもつわ。ありがとう、エンドラル。支払いは砂金でも問題ないかしら。貨幣工場が機能を止めてしまっていて」
「問題ない。砂金の方が喜ばれるさ。今は偽貨幣も多く出回っているからな」
 エンドラルはクラリスから砂金の入った小袋を受け取ると、半分ほどを取り分けて、胸元から取り出したポケットに入れた。
「補給物資は6割しか届けられなかったんだ。半分で良い。それよりクラリスも無事で良かった」
 エンドラルはクラリスへ軽く口づけをした。エンドラルとクラリスは、この戦時中に、ほのかな恋心を育てていた。
 エンドラルはクラリスを抱きしめると、耳元で囁くようにして言う。
「クレイモアが戦力を集中し始めている。レバノンは戦場になる」
「わかってる」
 クラリスは、この3年間でレバノンを統治する人間達の中枢に入り込んだ。いまや彼女は、レバノンの自治大使としての役職を得ている。

「この3年間で、私の願いは、ようやく実現が見えてきた。後はクレイモアを倒せば、ルクシオンの独立も達成できるわ」
 クラリスは穏やかに、しかし力強く言った。エンドラルはクラリスを強く抱きしめた。
「俺もレイドサイクロンに協力する。生き残るんだ」
「ありがとう、でも彼女が怒らないかしら」

 クラリスが心配していたのは、パイルシュレッドの隊長ファリス・レイリーンのことだった。その夜パイルシュレッドの停留地で、クラリス、エンドラル、アンドレイア、ファリスの4人で話し合いが設けられた。
「まーた、エンドラルが狂ったこと言ってるの? 信じらんない!」
 ピンクの長い髪をなびかせて、ファリスは怒った。
「勝手ばっかりして。私の気苦労も考えてよね!」
「すまない。ファリスには頭が上がらない。しかし今は、この通り」
 エンドラルはファリスに頭を下げた。ファリスは彼の頭を抑えて言う。

「私の方が今は上司なんだから、あまり勝手はしないこと」
 3年前のエンドラルとアドヴァーグの一件で、パイルシュレッドのリーダーはファリスへ移行していた。彼女は類い稀なる危機察知能力と、金銭感覚をもち、パイルシュレッドを引っ張っていた。
「特にレバノンは、クラリスさん達には悪いけれど、激戦区になるんだから。生き残るために、一度ズフィルシアへ移動することも考えた方が良いよ」
 ファリスは、ルクシオンを北上してズフィルシアへ逃げ込めば、まだクレイモアの影響が少なく、安全だと話した。

「クレイモアにレバノンを奪われてしまったら、また最初からになってしまうわ」
 クラリスは言った。
「人間も弱くない。命を賭ける価値はあると想っているの」
「俺もクラリスと一緒の考えだ。レバノンの女性をこれ以上哀しい目にはあわせられないだろう」
 レイドサイクロンの副官となったアンドレイアも飄々と話した。ファリスはため息をついて、真剣な目でエンドラルを見、彼を見送った。

 レバノンでの戦争は確実に近づいていた。



《第3部マクシード・ライゼンハルト目次》
第1項 マクシード・ライゼンハルト
第2項 エンドラル・パルス
第3項 クラリス・レイヤー←いまここ
第4項 エドガー・ラルティーン
第5項 将軍ルドルフ
第6項 復元者スヴィーナ
第7項 アトラス

第8項 エルフィ
第9項 ヴァルマサルサ
第10項 レイブン
第11項 人造の神
第12項 レイ
第13項 龍王プロメテウス
第14項 アルバ・ベータ
第15項 狂人達

第16項 グルジア侵攻
第17項 会談
第18項 停戦友好条約
第19項 72(セブンティツー)
第20項 1人の人間
第21項 決裂
第22項 プロフェッサーPO
第23項 エッジ
第24項 神の光

第25項 戦場の男女
第26項 カリアス・トリーヴァ
第27項 儀式
第28項 邪神ディアボロス
第29項 還元者
第30項 光
第31項 セフィロス
エピローグ3

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