第1項 マクシード・ライゼンハルト

max

 アイン・スタンスラインの死去から17年、大洪水から3年の月日が経った。
 ユーグリット大陸オースリベラリアは、大洪水による被害を受けてはいたものの、国王アマダブラム・デュランの指示のもと、人間と復元者が助け合って復旧活動、神の軍勢の処理にあたり、少しずつ元の景色を取り戻していた。

 復元者と人間、神の軍勢が争う世界の中で、オースリベラリアが平定を保っていられるのは、ひとえに旧王リノアン・デュランの貢献が大きかった。復元者である彼女は、毅然とした態度で、オースリベラリアの国民性が、魅力的な教育にあることを説き、教育を受けたものは皆同じ人種だと謳った。かつてリベラリアとオースティアという2つの国だった大地が、手を取り合って成長したように、今度も人間と復元者が手を取り合って成長しようと謳った。

 リノアンの声かけに国民は一丸となって団結し、この素晴らしい国を維持していこうという気運が高まった。だから世界が混沌に包まれた今も自治を保っている。オースリベラリアの特徴である教育システムも維持されていた。

 マクシード・ライゼンハルトは、このオースリベラリアで生まれた。6歳からオールリベラリアの義務に則ってフォルクスコールに入学し、6年間の初等教育を受けて、ギムナジウムに進学。モラトリアムを謳歌し始める。宝物商の父を持つ彼は、生活にほとんど不自由したことが無く、本を読んだりオペラを見たり音楽を聞いて、文化的な生活を送っていた。また、新聞や伝聞により、世の中で起きている戦争の様子を頭に思い描いたりしていた。

『何故俺は、こんな平穏な世界にいるのだろう。俺は何のために生まれてきたんだろう』

 彼はオースリベラリアの義務教育というレールに乗る人生を送っていた。特にさしたる目標も無く、将来は父親を継いで宝物商になるのだろうと予見していた。

 そんな彼に転機が訪れたのは、16歳の誕生日を迎えた日だ。彼は家の宝物庫から宝剣ブレイブソウルを盗み出し、ユーグリット大陸最東部の国メルッショルドを経由してエレメンシア大陸へ向かったのだ。ブレイブソウルは刀剣が赤く輝く魔法剣で、かつてアイン・スタンスラインがズフィルシアで戦争を行なった際に用いたと伝えられる名刀だった。

 マクシード――マックスの目的はクレイモアへの入隊だった。サイドランドからヴィヴァリンに入った彼は、人間と復元者の紛争に巻き込まれた。人間の死を間近に見たことの無かった彼は、爆弾によって粉々になった肉片が、彼の目の前に転がったとき、吐き気とめまいに襲われ、両足の痙攣を起こしてしまった。人間たちは動けないマックスを見ると、棍棒で彼を叩き殺そうとした。そこで彼を救ったのはクレイモア四天王の1人ゼノンだった。銀の仮面をつけたこの男は、人間離れした力で両刃の斧を振り回し、人間を全滅させた。ゼノンはマックスがオースリベラリアの出身だと知ると、こう伝えた。

「ここは、ヒトの来る場所ではない。帰る場所があるならば、早急に立ち去れ」
 ゼノンはマックスへオースリベラリアへの帰還を促した。けれどマックスは引き下がらない。彼はゼノンにクレイモアへの入隊願望を伝えた。
「俺は、自分が何者なのか知りたいんです」
 マックスの言葉に、ゼノンは少し間を置いて諭す。
「ここはヒトを獣にする」
「それでも、俺はクレイモアに入りたいんです」

 ゼノンは少し悩み、自分の元で面倒を見ることを決意した。
 クレイモアに入団したマックスは、ゼノンのもと半年間の訓練をこなした。マックスは泣き言をいいながらも耐え、17歳の誕生日を迎えた頃、初陣を飾ることになる。

 ヴィヴァリンとルクシオンの国境線の街で起きた戦闘は、マックスが想像するような、礼儀正しいものではなかった。死角からの爆発、その欠片が四肢を破壊した後の、銃器や剣による命の撲滅。多人数による包囲からの虐殺――そこを爆破する敵方の爆弾。次第に、身の回りのヒトの気配や、落ちている砂の粒までも認識できるほどに、感覚が研ぎすまされていく。
 マックスはこの戦闘で、1人の人間を殺した。だが彼は、人間を殺したことへの罪も、気持ち悪さも感じる余裕は無かった。彼は自分が生き残るために、敵を殺しただけだ。
 戦いはゼノン率いるクレイモアの勝利で終わった。マックスは一息をついたが、これからが本当の仕事だということを痛感する。国境線の街は死体に溢れ、大地は赤く染まっていた。異臭の中、虫が舞い、不衛生で、このままでは人が住めない。だからクレイモアの人々は、資源を回収した後、死体を焼却した。街は三日三晩燃え、後には人間の骨と石造りの建物が残っていた。




《第3部マクシード・ライゼンハルト目次》
第1項 マクシード・ライゼンハルト←いまここ
第2項 エンドラル・パルス
第3項 クラリス・レイヤー
第4項 エドガー・ラルティーン
第5項 将軍ルドルフ
第6項 復元者スヴィーナ
第7項 アトラス

第8項 エルフィ
第9項 ヴァルマサルサ
第10項 レイブン
第11項 人造の神
第12項 レイ
第13項 龍王プロメテウス
第14項 アルバ・ベータ
第15項 狂人達

第16項 グルジア侵攻
第17項 会談
第18項 停戦友好条約
第19項 72(セブンティツー)
第20項 1人の人間
第21項 決裂
第22項 プロフェッサーPO
第23項 エッジ
第24項 神の光

第25項 戦場の男女
第26項 カリアス・トリーヴァ
第27項 儀式
第28項 邪神ディアボロス
第29項 還元者
第30項 光
第31項 セフィロス
エピローグ3

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  1. 2017年 8月 13日
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