第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス

end

 エンドラルの突き立てた剣は、ダイダリアサンの大動脈を貫通していた。エンドラルが首元から剣を抜くと、傷痕から血が噴水のように噴き出し、あたりを真っ赤に染め上げた。怒りに満ちた真っ赤な目からも血飛沫が上がった。それはまるで涙を流しているように見えた。

 もんどりうつ海蛇の背中から飛び立ったエンドラルは、ちょうどそこへ移動させたファシス・ラビルの背に着地した。ダイダリアサンの躯は、レバノンまで押し寄せた波の中に消え、濁流と共に海に還っていった。黒い雲は晴れ、辺りに日差しが差し込んでいた。波は引き、水の滴る建物が再び姿を現した。

***

 クラリスはレバノンの現状に胸を痛めていた。溺死なんて、最も苦しい死に方ではないかと。彼女はレバノン、それだけでなく世界の海岸線に棲む人々の冥福を祈り、ルクシオン出身の人間を集めて言った。
「精霊によって引き起こされた災害は、甚大な被害をもたらしました。これは悲しむべきことです。亡くなった人々を手厚く葬らなければいけません。けれどもこれは、私たちにとってチャンスでもあります。すぐに人間達が来て、統治を始めるでしょう。そのなかに潜り込みましょう。実施計画は、プロジェクト・デザイン・マトリックスにまとめて、皆さんに展開します。これからは、タスクが増えていきます。皆様がついてきてくださることを信じています。ただ、死者を弔う心だけは忘れずに」
 クラリスは、情にもろい本来の自分を抑えながら、ルクシオンの王女として機会を逃さないための戦いを決意したのだった

***

 一方、デモンズ クロニクルを失ったアドヴァーグは、顔を歪めていた。ウィルを王としてアイン・スタンスライン時代の再来を狙うプロジェクトは、想定外の事象によって潰されてしまった。
「他の精霊を殺すしかない。戦うための剣は必要だ」
「もうやめろ、アドヴァーグ。ウィルを王にしたって、アインの時代は戻ってこない」
「黙れ。ならば問おう。俺の父は、大陸最強の剣士で、人間だった。アインと共に歩み、多くの人々に剣を教えた。そんな父は、復元者達に殺されたのだ。だが俺は、別に復元者を恨んじゃいない。そんな世界にした神が憎い。そして神の登場で希望を失い、”つながり”を絶ってしまった人間の弱さが憎いのだ。だから俺は、人々に勇気を与えるため、そのために決起を決断した」
「それは崇高な想いかもしれない。けれど俺の目には、ウィルがアドヴァーグの計画に協力したがっているとは思えない」
 エンドラルはレバノンの地に膝まずいて震えているウィルを見やった。アドヴァーグはエンドラルに切り掛かりながら、叫ぶ。

「ウィルには王の血が流れている! 王という立場にたてば、彼は覚醒できる」
「それはお前のエゴにすぎない! 俺はこれまで、アイン・スタンスラインになりたくて、人をつなぐ商社を続けてきた。けれどアインには、なれなかった。彼は特別なんだ。アインを失った時点で、アインの時代は終わったんだ」
 エンドラルはアドヴァーグの攻撃を盾でかわしながら、アドヴァーグに切り掛かる。剣線がアドヴァーグの左肩をわずかにかすめる。
「ならば、人々はどうすればいい。過去を思い出しながら、絶望の中に消えていけというのか!」
「アドヴァーグ。人は、今を生きるだけだ。満たされないと思いながらでも、現在の出来事に一喜一憂しながら時を刻めば良い。だから」

 エンドラルはミッドナイト クロスを復元し、ファシス・ラビルに炎のブレスを吐かせた。アドヴァーグは服の一部を熱風に巻き込まれた。
「ウィルも、自分の人生は、自分で決めるべきだ。やりたいことをやればいい。本を読むだけの人生だって良い。いつか王になりたくなったらなれば良い。焦らなくて良いんだ。人生は短いが、やりたくないことを無理矢理やるよりは、何にもならなくても、やりたいことをやったほうがいい!」
 エンドラルの突きがアドヴァーグの右肩を捉えた。アドヴァーグは痛みに顔を歪め、間合いをとって座り込む。
「愚かな。貧困に喘ぐ人々の前で、その言葉を言ってみろ。お前の言葉は、貴族階級の願望に過ぎない」
「俺は全人類の代表じゃない。ただの1人の人間だ。だからそんな批判も受け入れる。俺は、”自分が行きたい道を行く”」

 エンドラルは、アインがかつてエンドラルに言った言葉『誰もが行きたい道を行く、そんな社会が、1番良い』を思い出していた。

■プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)
 プロジェクトの開始に先立ち、関係者が集まって問題を明らかにし、アプローチ方法や実施計画を詰め、その結果をまとめたもの。
 縦欄をプロジェクトの上位目標、具体的目標、成果、活動に区分し、横欄に上位目標、具体的目標、成果について其々、指標、入手手段、外部条件を記載し、活動について投入、外部条件及び前提条件を記載していく。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス←いまここ
エピローグ2

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