第8項 プロジェクト使命

end

 ルクシオンの東の端レバノンで行なわれている戦争は、人間と復元者、神の軍勢によるオセロゲームだった。

 もともとルクシオンの民によって治められていたレバノンは、神の軍勢の登場によって蹂躙された。その時人間は虐殺され、復元者による統治が行なわれたが、そこでカリアス・トリーヴァが時を止めた。

 その後人間が神の軍勢に対抗する軍事力を身につけていくと、人間達は神の軍勢と復元者達を殺害していく。組織的に、強力な破壊兵器で土地を掌握した人間に対して、復元者達はスピリットを使ったテロリズムで対応した。さらに元ルクシオンの民が、故郷を取り返すために参戦したことで、レバノンの歯車は狂ってしまった。泥沼の戦争の始まりである。

 クラリスとアドヴァーグが立っていたのは、そんな混沌の地だ。
 アドヴァーグはこの地で、神の軍勢に遭遇する。人間と比べれば巨大で、洗練された銀色の生物。だが彼は神の軍勢の攻撃を、ファシス・ラビルの頭蓋骨で造った盾で塞ぎ、精神への干渉をシュワンの目玉で造ったネックレスで防ぎ、ダイダリアサンの背骨で造った剣で、洗練された銀色の甲殻を切り裂いた。3種の装具は、神の軍勢とも戦えることが示されたのだった。

 クラリスは当初、ルクシオン出身の少人数で、この状況を変えることができると考えていたが、レバノンの凄惨な現実を見て、少人数では何も変えることが出来ないと思い知った。
「レバノンは昔、とても穏やかで美しい土地でした。私はそんな土地に帰ってきたかった。帰ってくれば、昔と同じように幸せな生活が出来ると思い込んでいた」
 クラリスは、レバノンの大地に横たわる遺体を眼下にしていた。
「けれど、過去に対する憧れだけじゃ、何も解決できない。私はここに宣言する。私はルクシオンの民と共に、レバノンを武力によって奪回し、その地に平安をもたらすことを。それは、ルクシオン王族の娘である私がやらなければならないことです。プロジェクト・リバイバル。この作戦を私はそう名付けます」

 彼女は力強く宣言し、アンドレイアや他のクルーもそれに賛同した。プロジェクト使命の宣言。彼女は、プロジェクト・リバイバルと名付けたミッションの開始に際し、プロジェクト実施の理由と目的の明確化を行なった。プロジェクトの名称、プロジェクトマネージャの公表とプロジェクトへの支援の宣言、さらにプロジェクト目標――工程確認、安全確保、技術移転など――を簡潔に述べる。

 彼女は現在レバノンで最も勢力を伸ばし、強大な技術力で街を蹂躙している”人間”に味方することを宣言した。まず”人間”と共にルクシオンを平定し、それから謀略によりルクシオンの独立を達成する――そんな長大な計画を彼女は考えていた。しかしそれは、ルクシオンを彼女らの手に取り戻す、最も早い手段であるように思えた。

 アドヴァーグは、クラリスの現実に根ざした考えと、今後の長い戦いを走りきろうという気概に、甲斐性を感じていた。そしてアドヴァーグは、彼女と同等の覚悟をウィルに求めた。
 ウィル・スタンスラインには、クラリスのように取り返したいと思う故郷は無かった――物心ついた頃には、世界は既に混沌の中にあったからだ。アイン・スタンスライン時代という、世界が前例のない繁栄を誇った時代を、彼は知らない。それにも関わらず、アインの代わりになれと言われたウィルは、何をすればよいかもわからず、ただアドヴァーグの言われるままに、傀儡の王としての道を進んでいるに過ぎない。
「アドヴァーグ、僕は何をすれば良いのかわからないんだ」
「ウィル。こういった格言がある。立場が人を育てる。王になれば、王としての品格は次第についてくるものだ」
それが詭弁に過ぎないことをウィルは感じ取っていた。アドヴァーグと共に過ごすこの日常から、逃げ出したいと思っていた。

『エンドラル、僕をこの世界から助けて』
 ウィルの叫びが届いたのかはわからない。しかしエンドラルもまた、レバノンへと近づいていた。彼もまた、ただアドヴァーグを追うという意志のもとに、がむしゃらに彼を捕える道を進んでいるに過ぎない。それはエンドラルが望んだものなのか、それとも単なるレールの上を思考停止して進んでいるだけなのか、彼自身もわかっていなかった。

『見つけたぞ、アドヴァーグ』
 エンドラルがアドヴァーグたちの拠点を発見したのは、クラリスの宣言から7日が過ぎた頃だった。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命←いまここ
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

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