第7項 フィージビリティ・スタディ

end

 かくして、アドヴァーグ・ドースティンは、3つの装具を手に入れた。
 精霊シュワンの目から造ったネックレス――ジェリル イン デイブレイク。
 海蛇ダイダリアサンの背骨で造った剣――デモンズ クロニクル
 龍王ファシス・ラビルの頭蓋骨で造った盾――ミッドナイト クロス。

「ついにここまで来ましたね。アドヴァーグ」
 エリカは3つの装具を身につけたアドヴァーグへ、穏やかに話した。
「かつて、神が人間の味方だと伝えられていた頃、神が人々へ託した3つの宝物を、3種の神器と呼んだといいます。それは正当なる帝の証とされ、王位継承の度に伝えられていったそうです」
「エリカ。その定義は既に古い」
 アドヴァーグはアークラインのホテルの窓から、デロメア・テクニカの町並みを見下ろしながら言った。
「神器は、神が人間に箔をつけるものではない。人間が神を倒すために造り出したものになったのだ。そう言う意味では、ヒトの器――人器と呼んだ方が正しいだろうか。少年」

 彼はウィル・スタンスラインの側へしゃがみこんだ。
「俺達はこれからエレメンシア大陸へ渡り、神の軍団と戦争を行なう。3種の人器が、神の軍勢に通用するかを”検証”する必要がある。これをフィージビリティ・スタディという。プロジェクトの結果生み出された装具の益が、投資したコストを上回ることが出来るか、それを確かめにいく。これからが正念場だ」
 彼の命を受けて、エリカはエレメンシアへ渡るための船の手配を進めていた。ウィルは問いかける。
「もし、神の軍団に効力が無かったら?」
「その場合は、次の手を考えるまでだ。何度でも」

 アドヴァーグは不敵に笑う。そしてウィルを覗き込むようにして言った。
「もしも3種の人器が神の軍勢に有効だとわかったときには、ウィル、俺達はお前を担いで、アイン・スタンスライン時代の再来を目指すつもりだ。今、世界は不安に満ち満ちている。人間が復元者を憎み、復元者も人間を憎んでいる。世界中が疑心暗鬼になってしまった。廃墟となった街は多数。農場の経営ができていない地域も多く存在する。人々は死への恐怖と貧困に苦しんでいる。デロメア・テクニカだけが特別だということに気づくべきだ。お前のように、朝昼晩3食の飯が食べられる人間は少ないのだ」
 ウィルは俯いた。アドヴァーグは続ける。
「時代は繰り返す。貧困、恐怖、自由への渇望。そこに大義と、十分な力が加われば、革命は容易に起きよう」
「アイン・スタンスラインの息子が挙兵したとあれば、人々もあの時代をもう一度取り返すために、命をかけるでしょう」
 エリカは補足した。
「僕は」
 ウィルは何かを言いかけたが、アドヴァーグはそれを制した。
「これからエレメンシアへ移動する。ウィルには次第に、王の自覚をしてもらわなければな」

 アドヴァーグ達は船を用いてエレメンシアへ渡った。
 現在時間が動いている地域は、サイドランドからルクシオンの東半分の範囲に及んでいる。ルクシオンの中心部からは、まだ神の軍勢が生まれており、カリアス・トリーヴァの兵士達が応戦を続けている――とはいえこの戦闘は、プロジェクト・レボリューションの結果開発された最新技術によって、人間が圧倒的優位に立っていた。

 アドヴァーグはサイドランド西部の街オソラカンで武器と弾薬の補充を行ない、渦中に飛び込む準備を整えていた。オソラカンは、サイドランドの中でも人間が統治権を確立している最大都市で、ルクシオンに戦争へ向かう部隊の休留地でもあった。アドヴァーグはそこで巨大な鉄のかたまりと遭遇した。クラリス・レイヤーの旗艦だった。アドヴァーグは、ダイダリアサン討伐の際、作戦を妨害したこの船を良く覚えていた。彼はエリカを通じてクラリスに接触し、話し合いの場を設けた。

 クラリスは最初、アドヴァーグが精霊に対して行なった所業を強く非難した。けれどアドヴァーグは、自らの計画をクラリスに熱く説いた。アイン・スタンスライン時代を取り返すために、大義と力が必要なのだと。そして精霊の惨殺によって得た力が神に通用するかどうかを、これから確かめにいくのだと。この提案は、ルクシオン奪還を目指すクラリスにとっても悪い話ではなかった。クラリスはルクシオンを取り返すため、アドヴァーグと手を組んだのだ。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ←いまここ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

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