第6項 ガントチャート

end

 クラリスと離れたエンドラルは、元ロマリアの地へ立っていた。彼は、アドヴァーグの次の狙いを、ロマリアに住まう龍ファシス・ラビルだと考えていた。廃墟と化したロマリアの街を抜け、アイン・スタンスラインがかつてそうしたように、エンドラルもまた龍の棲む山に登り始めた。

『仕事もせずに、何をやってるんだろうな』
彼はパイルシュレッドの仕事をファリスに引き継いで、アドヴァーグの追跡を続けていた。

『本当なら、身内の死なんて、有り触れたもので、そんなことがあっても、変わらず生きていかなきゃいけないものなんだ。たとえ他人に殺されたからといって、社会生活をほっぽり出して、復讐のために歩き回るなんて許されない。それが許されているんだから、有り難い立場だ』
龍の棲む山の頂に到達したエンドラルは、龍王ファシス・ラビルと対峙した。彼は、金髪の男アドヴァーグが龍王の命を狙っていることを伝えたが、龍王は聞く耳を持たなかった。龍王は自分の課した試練を乗り越えたものにしか力を貸さないし、耳も貸さない。それはアイン・スタンスラインの時代から変わらなかった。

 エンドラルはファシス・ラビルの協力を得るため、試練を受けることを決めた。龍はエンドラルの意識を、マナ次元へと誘い、試練を与えた。かつてアインも受けた試練だ。そこでは、奴隷炭坑でモノのように扱われたことを再体験したり、何通りものシチュエーションで死を経験させたりする拷問が待っていた。人間の尊厳が失われるような幾多の経験、エンドラルはわずかな時間で悲鳴を上げ、ファシス・ラビルに解放を求めた。とてもじゃない、とてもじゃないが耐えきることなど出来なかった。これに耐えきったアイン・スタンスラインは一体何者かと、エンドラルは戦慄した。

 エンドラルは四つん這いになって冷や汗を絶えず流していた。ファシス・ラビルはエンドラルの弱さに失望していた。アイン・スタンスラインはやはり希有な存在だったのだ。

 そこに現れたのは金髪の男アドヴァーグ・ドースティン。彼は右手に涙色の剣を携えていた。それはダイダリアサンの背骨で造られた剣だった。
『人間よ、我ら精霊に敵うと思っているのか』
「敵うさ。お前達精霊は、生まれ持った身体の強さだけで物事を解決しようとしている。それは停滞だ。人間には知恵がある。精霊の身体を引き裂くことの出来る刃を造り出す技術がある。ガントチャートを作成し、計画的に物事を実行する理性がある」
アドヴァーグは力強く答えた。ガントチャートとは、時間を横軸にして、タスクを所要期間に比例した長さで表した工程管理図だ。ファシス・ラビルよりも先にダイダリアサンを殺すこと、ダイダリアサンよりも先にシュワンを殺すこと。それが彼の考えだした工程だった。

 動けないエンドラルの隣で、アドヴァーグとファシス・ラビルの戦いが始まった。アドヴァーグはまず、龍王の翼を切り裂くことに尽力した。空に逃げられては龍を殺すことはできないからだ。そんな企みを知らない龍王は、地上に立って炎のブレスを吐き、アドヴァーグを焼き殺そうとした。
「斬!!」
 アドヴァーグの力強いかけ声と共に放たれた一閃は、ファシス・ラビルの右翼を破壊した。ダイダリアサンの骨から造り出した剣は、凄まじい切れ味を誇っていた。ガトリングガンすら跳ね返す龍王の鱗を、豆腐のように切り裂いていくのだから。ファシス・ラビルは堪らず、アドヴァーグに精神攻撃をしかけようとしたが、その攻撃もシュワンの目玉によって防がれた。

 エンドラルはアドヴァーグと龍王の戦いを間近で見ながらも、酷いめまいに見舞われていたため、それに介入できなかった。かつて限界を越えた力――Xceedを発揮できた少年も、今は一人の人間でしかなかった。
 戦いはアドヴァーグの有利に動いていた。ブレスをかわし続け、龍王に鋭い切り込みを入れていく。頑丈な龍王も、ついに大きな咆哮をあげて、倒れた。
『こんな時代が来るなら・・・、あの時代をもっと深く味わっておくんだった。後悔先に立たず、か。なまじ寿命が長いから、死に対する準備ができていなかったな。あぁ、死は恐ろしい。暗い、全てを飲み込む深い穴だ』
 ファシス・ラビルは事切れた。アドヴァーグはポケットから通信機を取り出して、一言二言話すと、龍王の首を切り裂いて、30kgはあると見られる首を引きずって、山を下りていった。

 エンドラルは悔しさで、地面を何度も叩いた。龍王が傷ついていく様を、何も出来ずに見ていた自分を。その後アドヴァーグに全く無視された自分を。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート←いまここ
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

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