第4項 ネットワーク図

end

 エンドラル・パルスが、パイルシュレッドのメンバ――特に彼の補佐を務めているファリス・レイリーンと連絡を取り、アドヴァーグの行動を探っていた頃、アドヴァーグ・ドースティンは次のタスクの準備を進めようとしていた。

 具体的には、資金調達である。アドヴァーグも、クラリスと同じように資本家ヨハネス・クライフハンガーの資本をあてにしていた。アドヴァーグは、銀色に変色したシュワンの首――目玉はくりぬかれている――を宝箱に入れて、ヨハネスの前へ差し出した。

「アドヴァーグ、プロジェクトは予定通り進んでいるようですね」
「ネットワーク図上のクリティカルパスを越えないよう、計画は進んでいます」
 ネットワーク図とは、プロジェクトに置ける各作業(タスク)を終えるに要する時間、日数、期間が所要期間を、ネットワーク(有向グラフ)の形状に現したものだ。このうち、プロジェクト開始から終了までの、期間を最長にするタスクを結んだ経路を明示したものをクリティカルパスという。
「結構です。3000万エレンを用意しました。次の作戦にお使いなさい」
「頂戴いたします。この資金で次の作戦に必要な船を購入することが出来ます」
 アドヴァーグは、ヨハネスから借り受けた資金をバッグに入れると、敬礼をして部屋を後にした。ヨハネスは精霊シュワンの首を見ると、使いの者を呼び、首を裏社会のオークションへかけるよう指示した。

***

 ヨハネスから資金を調達したアドヴァーグは、偽名でチェックインしていた街内のホテルへ移動して秘書のエリカ・レイフォードへ金を渡すと、デロメア・テクニカ最西部の港町アークラインに購入した船を取り付けるよう指示した。このホテルにはウィル・スタンスラインも幽閉されていた。エリカによって手厚い待遇を受けていたウィルは、アドヴァーグへこう尋ねた。
「また、精霊を殺すの? 何のために?」
「少年」
 アドヴァーグは落ち着いた目でウィルを見ると、静かに言った。
「世界は今、混沌の中にある。その混沌の中に、秩序をもたらすためには、少しばかり狂わなければならないのさ。お前に、狂う覚悟はあるか」
 アドヴァーグの問いかけに、ウィルは小さく首を振った。アドヴァーグは微笑を浮かべると、まあいいさと言って、ベッドへ横たわった。

 その日の夜だった。強盗がアドヴァーグ達の部屋へ侵入したのだ。ヨハネス邸から大金を持ってホテルまで移動した際に、後をつけられたようだ。強盗は大刃のナイフを構えて、金の要求もせずにウィル・スタンスラインへ切り掛かった。アドヴァーグはベッド脇の花瓶を強盗へ投げつけると、即座に腰の剣を抜き、強盗の首をはねた。その鮮やかな剣さばきは、世界一の剣豪であったサイトウ・エルザルト・ドースティンを彷彿とさせた。

 このとき、初めて目の前で人間の”死”を見たウィルは発狂し、嘔吐する。
「少年。目を逸らすな。いま、世界ではこんな死が日常のように起こっている。お前の父、アイン・スタンスラインの時代には無かったことだ。皆、隣人に疑心を抱き、不安と恐怖から狂い始めている」
 アドヴァーグはウィルの腕をつかみ、頭を上げさせた。
「お前の夢は何だ、少年」
 ウィルは答えない。アドヴァーグは続ける。
「大志を抱けぬものは、この世界で恐怖し、死に怯えを抱くだけだ。少年、夢を抱け。死にものぐるいでやりたいことを見つけるんだ」

 ウィルは、アドヴァーグの言葉を胸に刻んでいた。アドヴァーグがウィルのことを想って話していることがわかったからだ。
「どうしてあなたは、僕のことをそんなに考えてくれるの?」
アドヴァーグは聞こえなかった振りをして、エリカに新たなホテルの手配を頼んだ。エリカは、仲間であるレゾナントとジョルジュへも連絡を行った。

 翌日からアドヴァーグは次のプロジェクトに向けての準備を進めるため、アークラインへと拠点を移した。ツテをあたって、機雷、ボウガン、弾薬、ガトリングガンなどを購入し、船に積み込んでいった。ウィルはその姿を隣で見ながら、秘書のエリカに、アドヴァーグの行動の意図を尋ねた。エリカは困った表情をしたが、ウィルが少しずつアドヴァーグに感化され始めていることを感じて、アドヴァーグがかつてエリカに話した言葉を伝えた。
「世界のために自分を犠牲にすることができるか。彼はそう言って、私を誘ったわ。私はその後彼の意志に同調し、ここにいる。あなたは、どうかしら。自分が大事?それとも世界のために命をかけても良いと思う?」
「僕は、まだ自分の命が大事だと思っています」
 ウィルは力なく答えた。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図←いまここ
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

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