第2項 プロジェクトマネージャ

end

 人々が繋がりを絶った時代にも、多くの人々と繋がろうとする人々は存在していた。サイナピアスで奴隷として働かされていた少年エンドラル・パルスもその1人だ。

 8歳の時、エンドラルはアイン・スタンスラインの手で奴隷から解放され、その後国際連合のスタッフとして働きながら、アインの人となりを間近で見てきた。そこでは国籍や人種の異なる人々が互いを認め、協力することで世界が変わっていく様を見ることができた。彼がアインと一緒にいた時間は5年に満たなかったが、その間に彼は、人間は互いに認め合い、繋がっていくべきだという信念をもつようになった。

 そして神が降臨して、アインの命の灯火が消えたとき、エンドラルはアインの息子ウィル・スタンスラインを連れて、精霊シュワンと共にマタリカ大陸へ渡った。アインの妻であるリングリットから、ウィルのことを頼まれたのだ。マタリカ大陸についたエンドラルは、シュワンの保護を受けながら成長し、20歳の時にパイルシュレッドという組織を興した。仕事内容は世界で虐げられている復元者達に物資を販売する商社だ。
 この仕事は世界で苦労している復元者達から受け入れられ、人々の貧困をわずかながら救済した。だが、この結果はエンドラルの願いとかけ離れていた。彼が実現したかったのは、アインと同じように世界中の人々を繋ぎ合わせることで、世界を盛り上げていくことだった。しかしエンドラルはアインのようなコミュニケーション能力や調整能力を持っていなかったから、世界を巻き込んで盛り上げていく波をつくることができなかった。彼は、人生のほとんどを仕事に費やして、狭い範囲の人々を救済できることを尊ぶ他なかった。

 カリアスの登場から14年、27歳となったエンドラルは、言いようの無い虚しさに捕われていた。ハーネスラインを主な職場としていた彼は、この日久しぶりの休日を取ることが出来たのだが、ふと何をやろうかと考えた時、何もやりたいことが見つからず、昔仕事付き合いで始めたスポーツや読書にも感情が動かない、そんな自分を発見してしまった。日々の仕事をこなすことだけが、人生となりつつあった。

『余計なことは考えるな。俺はプロジェクトマネージャとして、商社の仕事を完遂させることができれば良いんだ。プロジェクトマネージャの心得6つ。1.プロジェクトへの熱意、2.変化への対応、3.曖昧な組織や行動に対する寛大さ、4.交渉力とチーム連帯力、5.顧客第一の想い、そして6.組織の利潤追求。それは忘れちゃいない』

 エンドラルは頭を振って、愛用のバイクへまたがった。彼は久々に、デロメア・テクニカにいる精霊シュワンとウィル・スタンスラインに会おうと考えたのだった。彼はバイクを駆り、ハーネスラインの国境からデベロスへと入国していくが、そこでバイクが故障してしまう。

 立ち往生していたエンドラルを助けたのは、プロフェッサーPOと名乗る科学者だった。プロフェッサーPOは、バイクのエンジン部分に故障を発見し、新しい部品と取り替えていく。作業の間、エンドラルとPOは、14年前の世界について話を弾ませた。
「あのころはよかったのう。ワシは、もう一度あの頃の、世界が1つになるような熱気を感じたいんじゃ」
POはそう言ってふぉっふぉと笑った。POは滑らかな手つきで作業を終えると、バイクのエンジンがかかることを確認し、エンドラルへバイクを返した。エンドラルはPOに感謝を述べて、修理の終えたバイクにまたがり、デベロスの荒野を再び駆けていく。彼はデロメア・テクニカとの国境付近で、荒野に座り呻いている人々を見かけた。アインの時代には見られなかった、復元者の難民だった。人々は何かにすがるように掌を天に向けていた。

 エンドラルがシュワンとウィルの元に到着したのは日が沈む頃だった。小さな平屋に、蝋燭の明かりが灯っていた。シュワンは静かに彼を迎え、食卓の準備をすると言って台所へ入った。ウィルはリビングでぼんやりと本を読んでいた。エンドラルもその横で壁にもたれ天井を見上げた。静かな時が流れていく。

 時が動き出したのは、そのときだった。台所の方でガシャと窓が割れる音がして、エンドラルは飛び起きた。台所に入ると、長い金髪をたなびかせた男がシュワンを壁に押し付けていた。金髪の男は脇から小刀を取り出すと、シュワンの首に小刀を突き立て、切り裂いた。シュワンの首からは赤い血がほとばしったが、しかしすぐに血は止まり、傷口が銀色に変色していく。見ればその他の部位――鼻の先や髪の毛も銀色に変わってきていた。男はシュワンの首をつかみ取ると、エンドラルの方を向き、冷たい声で何かを呟いた。

 
《第2部エンドラル・パルス目次》
第1項 プロジェクト
第2項 プロジェクトマネージャ←いまここ
第3項 プロジェクト リソース
第4項 ネットワーク図
第5項 コスト差異
第6項 ガントチャート
第7項 フィージビリティ・スタディ
第8項 プロジェクト使命
第9項 プロジェクト コントロール
第10項 プロジェクト・デザイン・マトリックス
エピローグ2

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

ピックアップ記事

  1. 59736578-19f0-4460-a22b-36c70aa80895
    プロのイラストレーターの挿絵であなたの作品を一層魅力的にします! プロのシナリオライターがあな…
  2. アイン2
    こんにちは。 橋本橙佳です。 このエントリでは橋本橙佳が様々なクリエイタ…
  3. gaiden1
    これは、秘匿とされた物語。 &nb…

Twitter でフォロー

ページ上部へ戻る
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。